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面倒な片鱗

 顔面蒼白で倒れたオリバーが医務室に運ばれて行ったのは、朝の出来事だった。

 そのまま体調が戻らないオリバーは城へと帰るが、医師も呼ばずに自分の部屋に閉じこもっってしまったらしい。

 メアリールは学園でレピュテイシャンと約束して、城に直接チョコレートを届けに来たのだが、その前にオリバーの様子を見に彼の部屋へと寄った。

 誰とも会おうとしないオリバーに、チョコレートの一つをお見舞いの品として渡してもらうよう侍女に頼んで、彼女はレピュテイシャンの部屋に侍女のカチアと共に向かっていた。



 何と無しに廊下の窓に視線を向けると、外の廊下に肩まである明るい金髪をなびかせた第一王子が歩いていた。

 確かもうすぐ三十歳の誕生日を迎えるはず。

 正室との間に男子も授かり、陛下も王位を譲る準備をしているとのこと。

 彼が王となる頃には、どうにか第三王子の婚約者という肩書から逃れられないか……。

 彼の代に王族として自分が名を連ねるのは、あまり気分のよいものではない。

 そんなことをボーっと考えていると、後ろから声をかけられた。


「メアリール嬢、こんな所でどうした?」

 第二王子が護衛を連れて、こちらに近付いてくる。

 軽く挨拶をかわし、城にいる理由を説明する。

「ああ、見舞いに来てくれたのか。すまないな。あいつはレピュテイシャン殿下の相手もしないで、本当に何をやっているのか?」

 溜息を吐く第二王子に、苦笑をもらす。

「だがここは、オリバーの部屋ともホールとも離れているが、まさか迷子ではないよね。他にも用事があるのなら、案内しようか?」

 迷子と間違われて一瞬笑いそうになったメアリールだが、確かにこんな城の奥を自分の侍女と二人で歩いていたら、迷子と間違われても仕方がない。

「ありがとうございます。ですが、大丈夫です。レピュテイシャン殿下に小用があり、お部屋に向かう途中でしたので」

 そう説明すると、第二王子は何故か急に無表情になった。

「……そう。レピュテイシャン殿下は学園の外でも君をこき使っているのかな? もし困っているのなら、私から一言忠告しておくが」

「いえ。これは私が勝手にしていることなので。お気になさらずに」

 一瞬にして重くなった空気に居心地が悪くなり、メアリールは早々にその場を立ち去る。

 第二王子は第三王子ほど我儘な人ではないのだが、たまに雰囲気がガラッと変わる時がある。

 それに慣れないメアリールは、逃げるが勝ちとばかりに彼の前から退散する。

 第二王子からは逃げてばかりだなと自分でも苦笑してしまうが、こればかりは仕方がない。



 目的の場所に辿り着いたメアリールの前に現れたのは、レピュテイシャンの満面の笑顔。

 自ら扉を開けて、メアリールを歓待する。

 メアリールに大人しく付き添っていた侍女にも、優しい笑みを向けるレピュテイシャン。

「やあ、カチア。君も一緒か。パズ、彼女がメルの侍女だ」

 え?

「ああ、主より伺っております。貴方にもお世話になったようで、ちゃんとお礼を申し上げなければと思っておりました」

 え? え?

「カチアは怒っていたがな。メルの膝の上に乗った時は、顔を真っ赤にして殴られるかと思ったぞ」

 え? え? え?

「当り前です。初対面の令嬢の膝の上に座るなど、なんて羨ま……コホン、なんて失礼なことをなさるんですか? 殴られても文句は言えませんよ」

 そんな二人の会話に、メアリールとカチアの声がハモる。


「「どうしてあの時のことを、知っているのですか?」」

「知っているも何も、あれは俺だ」


 キョトンとした表情で、答えるレピュテイシャン。

 いやいやいや、違うでしょう。


 驚きのあまり一瞬叫んでしまったメアリールだが、ハッと我に返りコホンと咳払いをすると、冷静な口調でレピュテイシャンに向き直った。

 カチアもサッと首を垂れて、メアリールの後ろに控える。

「お戯れがすぎますわ、レピュ。彼はご兄弟とか、甥だとか、王族に連なる方なのでしょう。貴方様のお名前を騙るのはどうかと思いますが、もしかして留学するのが分かっていてお貸しになりました?」

「貸すも何も本人だぞ」

 目の前の大きな青年は、自分が七歳くらいの小さな子供と同一人物だと譲らない。

 メアリールは、初めてレピュテイシャンに対して面倒くさいと思ってしまった。

 このやり取りになんの意味があるのかしら?

 レピュテイシャンはパズと目を合わすと、頬をポリポリと掻いた。

「……メルなら話しても構わないと思っていたが、この国は魔族の情報が全くないようだな」

「魔……族?」

 突然、魔族というなんの関係もない言葉が出てきて、メアリールは少々面食らう。

「ああ、そこから説明した方がいいか?」

「いえ、魔族の存在は承知しております。ですが、レピュと魔族になんの関係が?」

 首を傾げながら素直にたずねると、レピュテイシャンはニコッと笑う。


「俺は魔族と人間との子供だ。パズは完全に魔族だけどな」


 は?

「だからあれは、俺の魔族の姿なんだ。腹が減り過ぎて人間成分がカラになってしまって、あんな小さな姿になってしまった。因みに今の姿が人間成分満タンの姿」

 親指を自分に向けて、ニカッと笑うレピュテイシャン。

 メアリールは、カチアと顔を見合わす。

 は?


「ということで、あの時は世話になったな。菓子、滅茶苦茶美味かった。それでチョコレートはカチアの持っている、それか?」

 早く渡せとばかりに、両手を差し出してくるレピュテイシャン。

 いやいや、待って。レピュの言ってることが、理解できない。

 メアリールとカチアは、こんがらがる頭を振ってレピュテイシャンを見上げる。

 すると、ちょうどそこに彼の従者が来訪者を伝えてきた。

 こんな時に誰だと苛立つメアリールと、純粋に「誰?」と首を傾げるレピュテイシャン。

「楽しそうですね。私も混ぜてくれませんか?」

 突然の訪問者は、先程別れたはずの第二王子だった。

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