18:二国の動き
「まさか姫があの勇者であられたとは・・・!」
「これからは勇姫とお呼びした方がよろしいでしょうか!?」
祝勝会のおり、皆がからかい半分にそんなことを言ってくる。
まったく嫌になってくる。
これがまさに貝になりたいという、気分なのだろうか?
まあようするに引き籠りたい気分だ。
そんなことをすれば皆が心配するので、実際にはやらないがね。
現在オレたちは魔族の砦を占領し、勝ち戦を祝う祝勝会の真っ最中であった。
「止めてください! それなら姫の方がましですから! あぐあぐ!」
オレはお菓子を頬張りながら、皆にそう進言する。
「おうヨッシー! お前プロスペール辺境伯家に嫁にこぬか?」
プロスペール辺境伯のおっさんまで、そんなことを言ってくる始末だ。
その言葉におっさんの息子が、肩を跳ね上げてびびっているから、止めて差し上げてくれ。
さすがに二十歳も過ぎた青年に、幼女の嫁はないと思う。
もしかして貴族ならありえるのか?
いや考えいるのを止そう・・・・。
中身がおっさんのオレが、そんなことを考えるのも嫌気がさしてくる。
「謹んでお断りいたします。一生戦争に明け暮れるはめになりそうですので・・・・」
辺境伯領では魔族との小競り合いが続いていると聞いていたし、この戦争が終わった後も魔族との戦いは続くことだろう。
そんな領地に嫁げば、勇姫どころか戦姫にされかねない。
レーティシア姫視点~
魔王国がルエパラ王国に、宣戦布告をしたという報告を受けたわたくしは、軍勢を引き連れてプロスペール辺境伯領を目指していた。
だが大勢での行軍は時間がかかるものだ。
出発してもう五日も経つのに、いまだにギーテハケナ領にすらたどり着けない有様だ。
今頃プロスペール辺境伯領はどうなっていることだろう?
正直なところ、現在あの領地が保有する戦力では、本格的な魔族の侵攻には、耐えられるかどうかわからない。
三魔将の一人でも出てくれば、あっという間に侵略されるのではないだろうか。
そんな心配をよそに、わたくしの想像を覆すような報告がなされた。
ダダダダ!
「報告します! プロスペール辺境伯軍が魔族の軍勢を撃破! さらにその先の砦の一つを陥落し、すでに占領しているとのこと!」
けたたましく鳴り響く足音が天幕まで聞こえ、入ってきた兵士がそう報告してきたのだ。
あの付近で魔族の砦と言えば、難攻不落の魔術の要塞しか思い浮かばない。
魔族の侵攻に今なお耐えているならまだしも、あの無敵の砦を落とすなど、とても信じられない話だ。
しかも魔族からの宣戦布告があって、五日足らずのこの期間でだ。
いったいあのプロスペール辺境伯領で、何が起こっているというのだろうか?
「なんでも勇者様が怒涛の活躍をされたらしく、噂ではあの難攻不落の砦を単身で落とされたとか・・・・」
勇者!? 初耳ですけど!?
あの難攻不落の砦を一人で落としたですって!?
いったい・・・・だ、誰が勇者などと名乗っているのでしょうか!?
「プロスペール辺境伯もレーティシア姫には大変感謝しておられましたよ」
わたくしに感謝? いったい何を言っているのでしょうかこの兵士は?
しかしわたくしは、ふとある人物に思い当たる。
あれはわたくしがレティーと名乗っていた時期の話だ。
馬車で旅をしていた時に、雷を指先で発して遊んでいた、ある幼い少女のことを思い出したのだ。
まさかヨッシー・・・・貴女ですか!?
ヨッシーがあの戦に参加し、自重なく力を振るえば、その結果もありえなくはないのだ。
ヨッシー・・・・貴女いったい何を考えているの?
今まで出世には興味を示さなかった娘が、なぜ突然そんな行動に出たのか、わたくしは本人に尋ねねばならないでしょう。
「馬を引きなさい! 今すぐにプロスペール辺境伯領に向かいます!」
「何を突然言い出すのです姫! この軍勢をどうするおつもりですか!?」
「後からついて来なさい! わたくしは一刻も早くプロスペール辺境伯領に向かわねばならぬのです!」
わたくしの愛馬のスレイプニール、アラストルで走り抜ければ、数日でプロスペール辺境伯領にたどり着けるでしょう。
「なりません! 姫お一人で行かれるなど!」
「ならばこの先のギーテハケナ領にてバートムを共につけます! あの者は高速で走る鉄の馬を所有しています!」
こうしてわたくしはアラストルに跨り、急ぎプロスペール辺境伯領に駆け付けたのでした。
第三者視点~
ところ変わって、魔都にある魔王宮の謁見の間。
現在その玉座に鎮座しているのは、漆黒の鎧に身を包んだ魔王だ。
この魔王は最近前魔王の命を奪い、新たな魔王となった者である。
「魔王様!! 報告であります!」
「なんだ? プロスペール辺境伯領を落としたのか?」
魔王は三魔将一人である、巨漢のギバドーをプロスペール辺境伯領へと侵攻に向かわせていた。
あの者であれば数日で、プロスペール辺境伯領など落とすと、ほくそ笑む魔王。
今頃祝勝会で盛り上がっておるのか?
「いえ逆であります!」
「ぬ? なんだと?」
「巨漢のギバドー様、プロスペール辺境伯領侵攻中に討ち死に! その軍勢はちりぢりとなり、壊滅状態であります!」
倒されただと? あのギバドーが?
「追加で報告がございます!」
するとその後からもう一人の魔人が、報告をもって駆け付ける。
「炎のギエン様砦にて討ち死に!! 砦が王国軍に占領されました!!」
「なんだと・・・? 辺境伯軍だけではあの三魔将は退けられまい。いったい向こうで何が起こっている?」
「恐れながら申し上げます! 砦の戦いにて、勇者の放つ雷撃が目撃されております!」
なるほど・・・・。これら二つの勝利はあの憎たらしい勇者の仕業であったか・・・・。
だがこれはいい機会だ。遠い昔我の野望を打ち砕いたあの勇者に、復讐する機会が巡ってきたのだ。
そう思いつつ魔王は不気味に口角を上げる。
「これより我が直々に戦場に参る! 勇者に敵う者はこの魔王の他におるまい!」
魔王は遠い昔勇者と戦い、その力の次元の違いを知っていた。
ならば今回も魔王自ら出向かねば、無駄な浪費になるだけと悟ったのだ。
こうして魔王は戦場へと、行軍を開始したのだった。
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