17:勇者の凱旋
「砦の中庭にひしめくように魔族がいるね・・・・」
現在オレは黒金のゴーレムを発動させ浮遊し、上空から魔族の砦を見下ろしている。
後方に巻き起こった火災から逃れるように、この砦の上空に飛んできたのだ。
砦に中庭には魔族も沢山いるが、中心あたりに、炎のような赤い衣装の連中がいた。
そして赤い衣装の魔族の中に、一際目立つごてごてした感じの衣装の魔族がいる。
たぶんあれが大将のギエンなのだろう。
このまま鉄球をおとして暴れさせるのもありだが、あまりグロイのは嫌だな・・・・。
せめて地上に降りて彼らに降伏勧告ぐらいしておくか。
そう思ったオレはさっそく地上へ向けて着陸を開始した。
三魔将炎のギエン視点~
その黒き鎧の大男は、我々をあざ笑うように、ゆっくりと地面に降りたった。
その男の身長は三メートルはあるだろうか? あのギバドーには劣るが、横幅もありかなり大きい。
すでに人種族の限界を、超えておるのではないだろうか?
その剛腕は長く太く、あらゆるものを握りつぶしそうな感じだ。
我が配下も恐れで、誰一人として声も出ないようだ。
「貴様はいったいなんだ・・・・?」
某は自然と目の前の黒き鎧の大男を見上げ、そう尋ねていた。
「ええ~・・・。初めましてオレはヨッシーといいます。皆さん降参していただけると助かります」
拍子抜けするような、気の抜けた幼児の声。
またその巨体と裏腹にその幼い声というギャップが、某たちの恐怖をさらにかきたてる。
だが魔族に降伏という文字はない。
降伏するくらいなら、玉砕を選ぶのが魔族だ。
「降参などありえぬ!! 全員一斉に魔法を放て!!」
バチバチ・・・・
我が命とともに、某も我が配下も、一斉に呪文詠唱に入る。
だが某がそう配下に命じるや否や、男は瞬時に光を発した。
そしてあろうことか、あの伝説の魔法を放ったのだ。
「雷撃魔法!? 貴様勇者・・・・!!」
某の意識はそこで途絶えた・・・・。
ガラガラ・・・ピッシャアアン!!!
ヨッシー視点~
オレが雷撃を大量に周囲に放つと、凄まじい光が巻き起こり、それが砦の壁を伝って上空へと拡散していく。
「ぎやあああ!」「ぐがあああ!」
魔族がその雷撃を受けて、一斉に地に臥せる。
「まずったな・・・・。見えないように使うつもりが・・・・」
おそらく上空に拡散した雷撃が、砦の外からも目撃されているだろう。
「うう・・・・帰りたい・・・・」
光が収まると、周囲には焼け焦げた魔族が倒れ、死屍累々の状態だ。
これを成したのがオレだと思うと、嫌気がししてくる。
「あ~・・・・。戦争って本当に嫌だ・・・・」
オレはそう呟いた後に、砦の扉を開け放つべく扉へと走り寄った。
プロスペール辺境伯視点~
「砦の上を見ろ!」「なんだあれは!?」
「まさかあの上空に放たれた魔法は・・・勇者の魔法?」
吾輩が目撃したのは魔族の砦から上空に放たれた、幾重もの雷撃だった。
それはかつて勇者があの魔神を屠るために、放った魔法とされているのだ。
あの雷撃の魔法を放ったのは、もしやヨッシーなのか?
バーン!!
「プロスペール辺境伯!! 砦の扉が開封しました!!」
配下の騎士が、吾輩にそう報告してくる。
見ると魔族の砦の扉が、開け放たれていたのだ。
そしてしばらくすると、その扉を悠々と潜り、黒いゴーレムを着こんだヨッシーが出てきたのだ。
その黒光りした装甲は、薄っすらと雷を帯びて、まるで伝説の勇者のようにも見えた。
「勇者さまの凱旋だ!!」
「「勇者ヨーレシアさまばんざあああい!!!」」
そして勇者を称える万歳が巻き起こる。
どうやらあのヨッシーは皆に、勇者とみなされてしまったようだ。
皆がそう思うのも無理はあるまい。ヨッシーはあの難攻不落の要塞を単独で落としてしまったのだ。
そして皆一斉に、勇者ヨッシーを称えるために走り寄る。
だが表向きにはきらびやかに見えるが、勇者などろくな人生を歩むまい。
吾輩はこれからのあの娘が、心配でならない・・・・。
吾輩は配下の女騎士に抱きかかえられ、呑気に笑う幼いヨッシーを見ながら、大地が徐々に赤く染まりゆく中・・・そう思うのであった。
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