14:罪悪感
現在オレたちはフォーメーションを組んで、魔族の軍勢に向けて前進中である。
ちなみに魔族とは、オークやインプ、魔人などの、人型の魔物の総称である。
大盾を構えるゴンツを前衛中心に、その後ろにオレ、オレの左右にパナメラとアーノルドの構成だ。
オレ、ゴンツ、パナメラは靴に浮遊移動のパーツを、アーノルドは浮遊バイクに乗っているので、後続にいる馬を引き離して、かなりの速度で移動中だ。
個々のユニットでの独断の突撃は、敵からの包囲の危険もあるが、敵側が鉄球による攻撃で混乱している今が攻め時でもある。
敵の大将の巨体が、今目の前に見えているのだ。
ここで仕留めねばなるまい。
「皆オレの後ろへ! 例のやつを使います!」
「「は!」」
オレがそう命じると皆散開して、オレの後部に周っていく。
皆が後ろに回り込む中、オレは黒金のゴーレムを起動した。
黒金のゴーレムはアダマンタイトでコーティングした、超高硬度なゴーレムである。
「姫! 準備完了です!」
「それじゃあいくよ皆!」
皆が耳を塞ぐと、オレは今回の秘策を発動した。
『ブオオオォォォォォオオオ!!』
それは音素材で見つけ出した、迫力のある怪獣の声を、拡声の魔道具を使い大音量で流すというものである。
それはあたかも黒金のゴーレムが、咆哮を発したかに見えただろう。
「きぃぃぃぃ!」「ぎゃぎゃ~!」
それは相手の士気を下げる目的だったが、その効果は思っていたよりは絶大で、腰を抜かす魔族、逃げ出す魔族まで現れる始末だ。
「貴様はいったい何なんだ!? 突然巨大化してアイアンゴーレムになったり、咆哮を放って軍勢を混乱させたり・・・・」
すると大将の魔人が、棍棒を振り上げながらオレに話しかけてきた。
ガキン!!
オレは黒金の腕でその棍棒を受け止める。
その大将の魔人は、身長が五メートルはありそうだ。
この巨大な黒金のゴーレムですら、その胸ほどの身長しかないのだ。
だが黒金のゴーレムの怪力は、大将の魔人に引けを取らないようだ。
なんせ簡単に振り下ろされた棍棒を、受け止めることが出来てしまうのだから。
「ずいぶんと怪力のようだが、なぜ人間側に味方する? 貴様も魔族であろう?」
「いや・・・違いますけど」
なおも話しかけてくる大将の魔人。
どうやらオレのこの黒金のゴーレムの姿から、オレを魔族と判断したようだ。
「姫!! そいつの話に耳をかしてはなりません! 陽動です!」
「「ぐおおおお!!」」
気づけば左右からジャイアントが棍棒を振り上げ、オレに迫って来ていた。
「やば!」
オレは前方の大将の魔人を突き飛ばすと、とっさに電撃を左右に放った。
アダマンタイトはパーティクルなどの魔法による現象を、阻害する特徴がある。
だが手の平の中央部分のコーティングを排除し、さらにそこに魔石を設置することで、それが杖のような役割を果たし、パーティクルの発動を可能にするのだ。
「ぎゃ!」「ふっ!」
すると左右のジャイアントは、尻もちをついて転倒してしまう。
「隙ありだあああ!!」
それを隙と見た大将の魔人が、再び棍棒でオレに迫る。
気づけばオレの体勢は乱れており、即座に行動できる状態ではなかった。
だが見た目は一見そうであるが、黒金のゴーレムも浮遊移動が可能なことを忘れてはいけない。
ドカーン!!
「なに!?」
オレは棍棒を振り上げた大将の魔人に、不自然な態勢で突撃した。
大将の魔人は棍棒を振り上げた状態で、オレの突撃を受け、尻もちをついて転倒してしまう。
オレはそれをチャンスと見るや、大将の魔人の顔面に、黒金の拳を叩きつけた。
「おらああああ!!」
ぐしゃ・・・!!
すると潰れたような破壊音が響き、大将の魔人はそのまま後ろに倒れてしまった。
ドド~ン!!
アダマンタイトでコーティングしたこの拳は、想像以上の破壊力を秘めていたようだ。
魔族の大将は顔面が陥没し、そのまま動かなくなってしまったのだ。
オレはその時初めて、自分の行動に嫌悪感を抱いた。
自らと会話可能な相手を、この手で殺めてしまった罪悪感が、自身の胸を締め付けるのだ。
だが以前オレはビッグボアに躊躇して、コロンに怪我を負わせてしまったことを思い出す。
オレが敵に躊躇すれば、現在ジャイアントに止めを刺しているアーノルドが、パナメラが、ゴンツが・・・・今度は同じように傷つき、最悪その命も失われるかもしれないのだ。
この異世界では敵に躊躇していては、大事なものすら守れないのだ。
「敵将・・・・討ち取ったりいいいいいいい!!!」
オレはその罪悪感を払拭するように、拡声の魔道具に向けてそう叫んだ。
その後辺境伯軍の追撃が始まった。
士気を失った軍など、どんなに強かろうが烏合の衆とは言ったものである。
あのオークがそれより遥かに弱い一般の兵士に、追い立てられ、次々と狩られていく。
インプやそれを指揮していた魔人も、もはや逃げまどうばかりである。
それを追い立てる騎士や兵士が、次々とそられを倒していった。
こうして魔王軍との初戦で辺境伯軍は、圧倒的な勝利をおさめたのであった。
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