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12:ヨッシーの実力

 現在オレは槍を携え馬に跨った、若い騎士と向かい合っている。

 それはオレに絡んできた、インザクなる若い騎士と、模擬戦をするためである。


 またこれは周囲の貴族の、オレに対する懐疑的な態度を払拭するためでもある。

 誰もオレみたいな幼女が、戦えるとは思わないからね。



「馬に跨り本気モードのインザクくん。試合のルールなどの提案があるならいいたまえ」



 オレはできるだけ偉そうな態度でそう答えた。

 周囲には再び笑いを堪える方々が続出するが、相変わらずインザクはグヌヌ顔でこちらを睨んでいる。



「では攻撃性のある魔法の使用を控えていただきたい! 見たところ貴女は、魔法を使うタイプのようだからな」



 自らは馬に跨り殺傷性のある槍を携えているくせに、こちらの魔法に制限を付けるとは、なんという大人気ないことだろう。



「馬に跨り、槍をこちらに向けた時点で、君はこちらを殺す気であるととらえられてもおかしくはないのだよ。相手の命を奪おうとするのだ。自らもとられる覚悟をするのが普通だろ? まさかその覚悟もないのに戦場に立つつもりかい? それとも君は魔族と戦闘中に、殺傷性のある魔法は控えてくださいとでもいうつもりなのかい?」


「ぐぬぬ! 開戦前に私という有力な戦力が失われてもいいというのか貴女は!?」


「その言葉・・・・。自分に跳ね返ってくるとは、少しも思わないのかい? 頭が弱いってよく言われないかい君?」






 インザク視点~



 俺の目の前にはよく舌の回る、生意気なガキが一人立っている。

 あのレーティシア姫に取り入るだけはあって、少しは頭が回るようだ。


 だがあのガキの年齢は六歳ほどと聞いている。

 かつてあのような若さで、強力な魔法を使った者の話は聞いたこともない。

 聞いたとすれば寝物語の中だけだ。


 だとしたら魔法を使ったところで、大したことは出来まい。

 警戒すべきはあの三人の従者が、あたかもあのガキが使ったように見せかけて、殺傷性のある魔法を使うことだろう。


 だがその従者は俺の手のものに見張らせており、魔法を使おうとした時点で、その行為が発覚する算段となっている。

 そうすればあのガキを反則負けに追い込み、俺の勝利が確定するのだ。


 それに例え奴が本当に魔法を使えたとしても、俺にその魔法が当たることはない。


 俺にはこの戦争のために、用意しておいた特別な装備があるのだ。



「降参するなら今ですぞ! この盾はあらゆる魔法を防ぎますからな!」



 そう。俺が用意したのは、魔法を防ぐ盾だ。

 アダマントで造られたこの盾は、あらゆる魔法に耐性があるのだ。

 かなり値が張ったが、命の対価とするならば惜しくない値段だった。


 あのガキは少し傷を負わせる程度で済ますつもりだったが、殺傷性のある魔法を使うつもりなら話は別だ。

 こちらも殺す気でいかせてもらおう。



「それでは始めよ!!」



 参謀のドレガン様が戦闘開始の合図をするや否や、俺はあのガキに目にものを見せるために、突撃を開始した。


 

 パカラッ! パカラッ! 


「はいよ!!」



 だがあのガキは突っ立ったままで、いっこうに魔法を唱える気配はなかった。


 この程度の距離ならば馬の速度が最高に達することはないが、それでも馬はかなりの速さで駆け抜ける。

 ここまで接近すれば、もうどの魔法を唱えようと間に合うことはあるまい。


 俺は勝利を確信して口角を上げる。

 そして槍をガキの胸に向けて構えるのだ。



 ドウンッ!!


「なに!!?」


「ヒヒヒヒヒン!!」



 だが俺があのガキの五メートルほど前に接近した時点で、馬が何かに衝突したようで後方に仰け反る。



「ぐあ!?」



 そして次の瞬間馬ごと何かに突き飛ばされたオレは、転倒して地面に転がった。


 いったい何が起こったというのか?


 そのまま俺の意識は、徐々に遠のいていった。 



 


 ヨッシー視点~



 インザクは無防備にも、オレに向けて突撃を仕掛けてきた。

 オレは戦闘が始まる前に、飛び道具による攻撃を警戒して、見えない壁を発動していたのだ。


 インザクは今まさにその壁に、激突しようとしている。

 まああのインザクが跨る馬には、可哀そうだとは思うけどね。



 ドウンッ!!


「ヒヒヒヒヒン!!」


「ぐあ!!」



 馬の悲鳴が上がり、その直後、馬が後方に吹き飛んで倒れる。

 その反動でインザクが、落馬して無様に地を転がる。


 オレが発動した見えない壁を押し返して、馬を突き飛ばしたのだ。



「どうやらインザクは気を失ったようだ。この勝負・・・ヨーレシア男爵の勝ちとする!」



 インザクの状態を確認した参謀のおじさんが、オレの勝利を宣言する。



「「わあああああ!」」


「なんだ今のは!?」


「何をしたのかすらわからなかったぞ!」



 すると模擬戦を見物していた騎士や兵士から、歓声が巻き起こる。



「見事であったヨ・・・ヨ・・・レシア・・・」


「言いにくければヨッシーでいいですよ」


「あははそうか! それではヨッシー! 先ほどの戦い見事であった!」


「お褒めに預かり恐悦至極にございます」



 プロスペール辺境伯に褒められたオレは、とりあえず定番の言葉を返しておく。



「勝利の褒美に何か取らせたいが何がいい?」


「えっと・・・」



 褒美と言っても何を貰ったらいいのか正直悩む。

 金か? とりあえず金と答えておけばいいのか?



「プロスペール辺境伯! 模擬戦後の治療を行う、回復の術者の魔力が足りません! そのため回復魔法が一度しか使えませんが、いかがいたしましょう!?」



 オレがそう思案していると、騎士の一人がプロスペール辺境伯に何やら指示を仰いできた。

 どうやら落馬して気絶しているインザクと、転倒し傷ついた馬の治療をするための、回復の術者が何らかの理由で、回復魔法を一度しか使えないようだ。



「それなら馬の回復を後回しにすればよかろう」



 人命優先なのはわかるが、それはいくら何でも馬が可愛そうな気がする。

 そう言えばエミソヤのダンジョンで見つけたUSBメモリーの中に、回復の光なるパーティクル素材があったのだ。

 その回復の光を使い、回復の術を作ったものの、死蔵していたのを思い出す。


 これはその回復の術を試す、いい機会ではないだろうか?



「それじゃあ馬の回復はオレがやりましょう」


 

 オレはプロスペール辺境伯にそう申し出た。



「なんだお前? 回復魔法まで使えるのか?」


「ええ。少しですが・・・たぶんその馬の傷くらいは癒せるでしょう」



 回復の光の効果は、自然治癒能力を格段に引き上げ、傷や骨折、打ち身などを治すという効果だったはずだ。

 ただ回復の光はスマホの電池残量を多く消費するそうなので、後で魔石によるスマホの充電が必要になるかもしれない。


 ちなみに魔石によるスマホの充電は、最近見つけた技術だ。

 過剰に充電して余った電力は、そのままポイントにもなるので、ポイント増加にも役立つ技術なのである。



「姫! 私が回復の補佐を行います!」



 馬の治療には補佐が必要だ。今回はその役割をアーノルドが引き受けてくれるようだ。

 馬が暴れないようにしたり、傷の位置を確認したりするのだ。

 回復魔法を使っている間は、術者が集中するために無防備になる。

 その間に馬が暴れて、術者が傷を負ってしまっては本末転倒だからね。



「幸いなことに骨折などはないようです。ですが左前足のねん挫と、各所に打ち身があります」


「それじゃあ回復魔法を使うから、馬をなだめておいてください」



 オレはスマホで回復魔法の準備をすると、まず馬のねん挫した部分に手をかざした。



「痛いの痛いの・・・飛んでいけ!」



 オレの中で回復の呪文と言えばこれしかない。


 オレがそう唱えると、オレのかざした手から、薄っすらとした緑の光が流れ込み、馬のねん挫して腫れた部位が徐々に癒えていく。


 

「変わった呪文だな・・・・。回復魔法の呪文はそんなだったか?」


「いえ・・・。あのような回復の呪文は聞いたこともありません・・・」


「オレの魔法は色々と特殊なので・・・・」



 まあ特殊というよりは、スマホの力だけどね。

 オレは続けて馬の打ち身となった部分も癒していった。



「インザクさまが目を覚ましました!」



 しばらくするとインザクが目を覚ましたようで、向こうで治療中の術者がそう伝えてきた。



「くそ! このガキ! この俺にどんな卑怯な手を使った!?」



 インザクは目を覚ますや否や、そう叫びながらオレに掴みかかってきた。



 ドシャ!


「ぐあ!?」



 だがそのインザクの手がオレに届くことはなく、インザクは崩れ落ちてしまった。

 オレはインザクが襲い掛かると見るや、再び見えない壁を発動したのだ。


 インザクはその壁に衝突し、再び気を失ってしまったのだ。



「まったく学ばぬ奴よ・・・・」



 プロスペール辺境伯はそんなインザクを、呆れたような目で見ながらそう呟いた。

 ちなみにこの勝負で得た褒美は、金貨二枚だったよ。


 まあインザクの実力からすれば、こんなものなのかもしれない。


 


 お読みくださりありがとうございます。


 面白い!

 また読みたい!


 と感じた方はぜひ・・・・


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