09:ビッグボア
「大変だヨッシー!!」
それは昼下がりの出来事だった。
ポイントが振り込まれたのを確認して、ホクホク顔であれを買うべきか、これを買うべきかと、スマホを見ている時に、急にコロンが洞窟に帰って来たのだ。
「どうしたのコロン? 何時もよりも早いね?」
「そんなこと言っている場合じゃねえ!! 彼奴が! あのビッグボアがこの洞窟に向かっているんだ!」
それはオレにとって衝撃的な言葉だった。
オレの身長の2倍はあろう体高をした、あの巨大なビッグボアが、この洞窟に向かっているのだ。
洞窟の出入り口の木の壁は、一応丈夫に作ってあるはずなのだが、あの巨体をもつビッグボアの突進に耐えられるかどうかは、正直わからなかった。
「何で突然奴がここに?」
「多分これが原因だ・・・」
コロンがオレに見せたのは、破れて中身の無くなった、飴の袋だった。
「たぶんこれを舐めて味をしめて、嗅ぎ付けたんだと思う・・・ビッグボアは嗅覚が鋭いんだ」
飴の袋は環境に悪いかもと、なるべく持ち帰って、スマホに入れて、破棄ファイルにして処分していたのだが、いくつかは風に飛ばされたり、いつの間にか落としていたりして、無くしていたのだ。
それがまさか、あのビッグボアを招き寄せる原因になるなんて・・・。
「それで奴は、今どの辺りまで来ているんだ!?」
「においをたどりながら、もうすぐそこまで来ている!」
ビッグボアはおそらく、飴の袋にわずかに残った、オレかコロンのにおいをたどって来ているのだ。
逃げてもにおいをたどられたら終わりだろう。最悪逃げている先で、休んでいるところを狙われる。
「なら戦うしかないな!」
「ヨッシー!!」
コロンは一瞬戸惑うような表情をしたが、不意に覚悟するような、引き締まった表情に変わった。
「コロン! 武器は何がいい!?」
オレはスマホを覗き込みながら、コロンに尋ねた。
「できれば槍をくれ!」
槍ならメタセコを使って遊びで作ったものが、いくつかある。
「これならどうだ?」
シンプルだが実用性のある物を選ぶ。
刃が付いていないので、切れ味は無いと思うが、穂先の鋭さは抜群だ。
3200円と今のオレにはお高く感じる内容だが、そんなことを言ってはいられない。
残りポイント:50137
ブォン! ブォン! ブン!
コロンは様になる仕草で、槍の状態を確かめ始めた。どこかで槍術でも習っていたのか?
「うん! 悪くない!」
「よし! いくぞ!!」
オレはさらに、お試しで作っておいた浮遊するスケボーを、ファイルから実体化させて、目の前に出して乗り込む。その費用は3600円だ。
このスケボーはオレの遅い足を、カバーするために出した。
残りポイント:46537
せっかく稼いだポイントも、ガンガン減っていくが仕方ない。これは仲間と自分の命を懸けた戦いなのだ。
「コロン! ビッグボアのところまで案内してくれ!」
「おう!!」
こうしてオレたち二人は、ビッグボアと一戦交えることとなったのだ。
「ブゴォォォォ! ブルン! ブルン!」
ビッグボアの雄たけびが、辺り一面に響く。
ビッグボアが恐ろしいのは、何もその巨体だけじゃない。その体中の剛毛は硬く、刃物が通用しないという。
そして何よりその発せられる圧倒的な威圧感だ。
「ヨッシー! ビビったら終わりだぞ! 気をしっかり持て!」
奴を目の前にして怖気付き、ふるえるオレにコロンの激が飛ぶ。
そして今回の作戦は、スマホにファイルとして吸収した、洞窟の中にあった大岩を、奴の突進する先に出現させるというものだ。
ビッグボアの突進は、急には止まれないらしいので、上手く壁際に誘い込んで、壁に衝突させて倒す方法とかは、よく使われるようだ。
「ブギィィィィィイイイ!」
そして奴が突進を開始する。
奴はオレ目がけてまっすぐに突進してきた。獣は本能的に弱い獲物を見分けて、まずそちらを攻撃するそうだ。
この大岩を食らえ!!
スマホを操作しようとしたが、その瞬間。生き物を殺すことに対して、オレの中で一瞬の躊躇が生まれる。
それが仇となった。
前世のオレの感性が足かせとなり、スマホが操作できなかったのだ。
奴は瞬く間にオレの目の前に接近し、すでに岩を出現させる余地などなかったのだ。
周囲の時間がゆっくりとなり、ビッグボアがオレに衝突するまでの時間がやけに長く感じる。
走馬灯・・・前世から今までのオレの記憶が、いっきにオレの中を駆け巡る。
前世で引きこもりだったオレは、あまり良い人生を歩めていなかったような気がする。
厳密には幸せでなかったのかもしれない。
オレが幸せを初めて感じたのは、コロンに出会った時のように思える。
ああ、コロン。どうか君だけは長生きしてくれ・・・
ドン!!
「うあ!」
だがその衝撃は、横から襲って来た。
オレがビッグボアに衝突する刹那、コロンが横からオレを押したのだ。
「ぎゃ!!」
ドシャ~~~ン!!
物凄い音がして、転倒する直前に目を開けて、正面を見据えた。
するとコロンが宙を舞っていたのだ。
コロンはオレをかばい、オレの代わりにビッグボアに跳ね飛ばされてしまったのだ。
「コロ~~~~ン!!」
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