11:国境付近の砦
その日オレたちは、デガベレヤの街で泊まれる宿を探していた。
戦争が始まる前とあって、男たちは徴兵され、逃げ出した人々もいるようで、街は閑散とした雰囲気に包まれていた。
そのため泊まれる宿も限られており、衛兵の紹介で、貴族専用の高級宿に宿泊することになった。
まあお金はあまり使わないし、溜まる一方なので、こんな時以外に使う機会はないのだがね。きっちり従者たちの宿泊費も払いましたとも。
翌日朝早くに街を出て、国境近くの砦を目指した。
有事でなければそこから魔族領に渡れるはずなのだが、今回に限ってはそれは難しいだろう。
だが王家からホワイトナイツの名を賜ったオレは、ホワイトナイツの名を貶めないためにも、この戦争に参加しなくてはならないだろう。
本音を言えば戦争で人と殺し合うなんて嫌だし、オレは戦うこと自体あまり好きではない。
だがこの戦争が終わらないことには、コロンに会いに行くことすら出来ないのだ。
「今回は門番を警戒させないように、キャンピングカーから途中で降りて砦に向かいましょう」
国境付近の砦が見えてくると、そこからキャンピングカーを降りて、徒歩で砦を目指した。
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツ男爵です。魔王国の宣戦布告の話を聞き、参戦のため、まかり越しました」
「しょ、少々お待ちを・・・・ただいま確認してまいります」
オレの名乗りを聞いた衛兵は困惑し、上司に確認するために引っ込んでいった。
まあこんな幼女が戦争に参戦すると、砦の前にやってきても、普通は困惑するよね。
「プロスペール辺境伯がお会いになるそうです! ご案内いたしますので、こちらへどうぞ!」
オレたち四人は、再び出てきた衛兵に案内されて、砦の作戦司令室に連れていかれる。
作戦司令室には、多くの鎧を着た貴族が詰めかけていた。
どうやら先ほどまで作戦会議をしていたようだ。
「吾輩がフェルディナン・ド・プロスペール辺境伯である」
作戦司令室に入ると、すぐさまごっつい髭のおじさんが、挨拶をしてきた。
普通は爵位の低いこちらから先に挨拶をするのが礼儀だが、不意を突かれた感じだ。
「ガハハ!! まさか貴殿が噂通りの幼い少女であったとは驚きだ」
バシバシ!
「いて!」
こちらが挨拶をする暇もなく、こちらに近寄って来て背中を叩いてくる。
「辺境伯! 相手は幼い少女ですぞ!」
すると参謀と見られるおじさんがやってきて、プロスペール辺境伯を諫める。
こちらは白いひげの、細身のおじさんだ。
「いやああ! すまんすまん! 噂の鉄腕ヨッシーを目の前にしてつい興奮してしまってな!」
どうやらオレの二つ名は、辺境伯領にまで届いていたようだ。
「プロスペール辺境伯! そのような噂に惑わされてはなりません!」
すると若い騎士が、こちらに向けてそう告げてきた。
その若い騎士は、なにやら得意げで、こちらを見下している感じだ。
「きっと後ろにいる従者が手練れなのでしょう! レーティシア姫をどうたぶらかしたかは知りませんが、きっとその従者の功績でホワイトナイツの名を得たに違いありません! そのような輩、この戦で役に立つかどうかもわかりませんぞ!」
オレは戦争には参加したくないので、このまま、はいそうですかと退散したいところだが、このままだとオレをホワイトナイツに推薦した、レーティシア姫の名前にも、泥を塗りそうなんだよね。
「それよりもお前のその従者を置いて行け! 私の方がもっと有効的に使ってやれるぞ! とくにその女はいいな・・・!」
そして次に若い騎士は、なめ回すような目でパナメラを見ながら、そう言ってきたのだ。
「止さぬかインザク!! 伯爵家だが爵位を持たぬ貴様より、男爵である彼女の方が立場は上である! 無礼な態度は慎むがよい!」
参謀と見られるおじさんが、その態度の悪い騎士を咎める。
どうやらあの態度の悪い騎士は、インザクという名前のようだ。
伯爵家だが爵位を持っていないということは、伯爵家の家族の一員なのだろうか?
この戦いで何らかの功績を上げるために、その伯爵家とやらに派遣されたのかもしれない。
「この中にもヨ・・ヨレ?・・・レシア・ド・ホワイトナイツ男爵に不満を持つ者はおるだろう?」
何かオレの名前言いにくそうだな。辺境伯のおじさん。
いったい何が言いたいんだろうか?
「ならばそこにいるインザクが代表して、彼女に挑戦するというのはどうだ? 皆も最高位の冒険者の実力は気になるだろう?」
なるほど。皆の懐疑的な態度を、オレの実力を見せることで払拭しようということだな?
まあオレもあのインザクには腹が立ったし、ちょっと懲らしめてやろうと思っていたところだ。
「姫! あのインザクという男は、色々と汚い手を使うので有名です。姫の実力を疑うわけではありませんが、大丈夫でしょうか?」
「まあ・・・・。大丈夫でしょ・・・・」
オレもどっちかといえば、特殊な魔道具やからめ手を使うタイプだし、人のことは言えない。
それにそういった手合いが、どう戦うのか気になるところだ。
「いいでしょう。私がお相手いたしますよヨーレシア・・・殿!」
インザクはやややけくそ気味にそう答えた。
「ならばこの胸を貸してあげよう・・・インザクくん」
「ふっ・・・!」「ぐふぉ・・!」「くくく・・・」
オレが偉そうにそう答えると、何やら周囲に笑いを堪える者が続出した。
どうやらそのオレの態度は、皆のツボにはまったらしい。
だがなぜかインザクだけは、ぐぬぬ顔でオレを見ていたがね。
こうしてオレはインザクという若い騎士と、戦うことになったのだ。
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