09:懐かしのクアリーの街
オレたちが次にやってきたのは、オレがこの異世界で初めて訪れた街、クアリーの街だ。
クアリーの街はパーシヴァル領にあり、以前は評判の悪い領主に統治されていたのだ。
その領主に目を付けられたオレとコロンは、逃げるようにギーテハケナ領のラベナイの街に行ったのだ。
現在はバルテルミ・ド・ネルヴァル子爵に統治され、領民の生活も豊かになっていると聞いた。
ちなみにここの領都はバルディという街で、領主はそこに住んでいるので、オレが会うことはないだろう。
この街を訪れた理由は、お世話になったギルド長や、授業でお世話になった教会に挨拶に伺うためだ。
というわけでラベナイの街から馬車で三日はかかる道のりだったが、五時間ほどで到着してしまった。
「そ、そこの白い箱・・・? とまれ!」
クアリーの街でも関所では衛兵に同じような反応を示され、笑いがこみ上げたが威厳を保つために堪えておく。
「こちらはヨーレシア・ド・ホワイトナイツ男爵の乗り物です! お通しください!」
「は、はは! 失礼いたしました!」
外を覗くと昔お世話になった衛兵のおじさんだったので、窓から軽く会釈しておく。
去り際にウィンクをしていたので、こちらには気づいていたようだ。
クアリーの冒険者ギルドに到着すると、さっそく受付へ向かう。
「あら? ヨッシー久しぶりね」
「お姉さんも元気そうでなによりです」
冒険者ギルドの受付で、久しぶりに会ったギルド嬢と挨拶を交わしておく。
「こほん!」
「あら? お仲間の方かしら?」
「そんなところです」
後ろからアーノルドの咳払いが聞こえる。
きっと貴族らしくしろとかいう意味の咳払いだろう。
だがあえて聞こえないふりをしておく。
この懐かしのクアリーで、堅苦しいのは御免だ。
「おう! ヨッシー久しぶりだな!」
するともじゃもじゃ頭のギルド長が、奥からぬらりと姿を現した。
「ご無沙汰ですギルド長」
「お前は相変わらず堅苦しいな!」
言った手前だが・・・・どうやらオレは普段から堅苦しいようだ。
でもこの堅苦しさは日本人気質だから、仕方がない。
「お前男爵になったんだって!? その歳でどれだけ出世するつもりだ!?」
オレもそう思うよ。
幼女で男爵とか、どんだけだよ。そういうのは創作物の中だけにしてくれ。
「ちなみに俺も男爵だから、これで同じだな!!」
なんとギルド長は男爵だったようだ。
こんなのでも男爵なんだから、普段オレももう少し砕けた感じでもいいのだろうか?
そう思って後ろの三人の顔を見ると、オレの心を察したのか三人とも首を横に振っていた。
「コロンはやはりいないようだな?」
「ええ。一人でどこかへ旅立ってしまいまして・・・・」
コロンはテーブルの上に置手紙をして、オレの前から姿を消したのだ。
「随分と思いつめた顔をしていたからな・・・・」
「コロンはここへ来たんですか!?」
「まあな・・・・。少し模擬戦の相手をしてやったら、素っ気なく出ていったがな」
どうやらコロンは冒険者ギルドでは、少し模擬戦をしただけで、去っていったようだ。
戦いで会話するとかそう言うやつだろうか?
相変わらずコロンはバトルジャンキーだな。
「だが彼奴の成長ぶりには舌を巻いたぞ! どうやったら短期間であそこまで強くなれるのか・・・? この俺でもまったく歯が立たなくなっていたぜ!?」
確かにコロンの成長には、目を見張るところがあった。
とくにオークキングの変種を倒した後には、急激に強くなっていたのを思い出す。
「コロンはやはり魔族領にもどっているんでしょうか?」
「多分な。彼奴は魔族領に未練があったみたいだからな・・・・」
そのコロンの未練とは、父親である魔王の命を奪った、兄に対するものだろう。
コロンはその兄に復讐をするつもりだと聞いているし、少し心配にも思えてくる。
「ここからさらに東に行った先に・・・魔族領はある」
ここから東といえば、オレとコロンが住んでいた洞窟の位置だ。
そのさらに東に魔族領があるようだ。
「あの辺りにはプロスペール辺境伯領があり、魔族領との国境を見張っているんだ。最近その国境付近で小競り合いが頻発していると聞いている。きな臭い噂も耳にするから・・・・向かうなら注意した方がいい・・・・」
その後、しばらく会話した後に、冒険者ギルドを後にした。
次に向かったのは、色々と勉強を教えてもらった教会だ。
「これは男爵さま。ようこそいらっしゃいました」
どうやら教会では、オレに対する態度が違うようだ。
貴族に対する態度も、場所によっては違うということだろうか?
「えっと・・・。随分と他人行儀ですが、オレのこと覚えていますよね?」
その丁寧な対応に不安を覚えたオレは、久々に会ったシスターのお姉さん、にそう尋ねてみた。
「ええ。よく覚えていますよ。ヨッシーさんでいらっしゃいますよね?」
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツ男爵である!」
そこで後ろにいたアーノルドからの、余計な訂正が入る。
「あら! それは大変失礼しました。貴族になって改名されたのですね? それともそれが本名なのかしら?」
そんなことを言いつつも、シスターのお姉さんは満面の笑顔でオレに対応してくれる。
そこでオレはキャンピングカーの中で用意していた、教会への寄付について思い出す。
「これ寄付です」
「まあ! これはありがとうございます!」
オレはシスターのお姉さんに、寄付の入った袋を差し出した。
「味は紅茶味にしてみました」
「えっと・・・味ですか? 中身は何でしょう?」
そう言いつつ袋を開けるシスターのお姉さん。
「一つ一つ包み紙に入っているので開けて中身を食べてください」
オレがそう言うと包み紙を開けて、丁寧に飴を取り出すシスターのお姉さん。
この国では紙も貴重なので、飴の包み紙も大事に扱うのだろう。
「これは何ですか? 宝石でしょうか?」
「いえ。お菓子です。舐めて口の中で溶かしてください」
「随分とまたこれは・・・贅沢で甘いお菓子でございますね・・・」
飴玉をまじまじと見た後に徐に口に含むと、シスターのお姉さんは、恍惚の表情でそう感想を述べた。
「ふふふ! でも寄付は普通お金でするのが常識ですのよ!」
「ならお金に変えましょう」
そう言って手を伸ばすと、シスターのお姉さんは飴を引っ込めて、オレの手の届かないようにしてしまう。
どうやら紅茶味の飴は、気に入ってもらえたようだ。
ちなみにこの辺りで紅茶といえば高級品だ。普通は水か白湯だからね。
「よろしければこの後授業がございますので、そこで子供たちに冒険譚など語っていただけないでしょうか?」
そんなわけで教会に集まった子供たちに、しばらく冒険譚を語り聞かせることになった。
冒険譚の前には集まった子供たちに、お菓子を配ることにした。
すると皆甘味に飢えていたようで、取り合いの大騒ぎとなってしまう。
なんとかその場をシスターのお姉さんに納めてもらったが、冒険譚というよりも、お菓子の質問会になってしまったのが悔やまれる。
その後知り合いに挨拶してまわったオレは、懐かしのクアリーの街を後にした。
次に目指すのはプロスペール辺境伯だ。
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