05:懐かしのラベナイの街
「このキャンピングカーで街の城門に行くのは、悪目立ちしませんかね?」
「そんなことはありませんよ。目立ってこそ貴族です」
アーノルドに相談したら、そんな答えが返ってきた。
庶民の時は目立つ行動は控えるように言われていたが、貴族となった今では、堂々と目立つ行動をしてもいいようだ。
まあ目立つと言っても、ほどほどだと思うがね。
そんなわけでオレたちはキャンピングカーで、ラベナイの街の関所を目指した。
「え~・・・そこの白い・・・・四角いの止まれ!!」
関所の衛兵は困惑しながらも、キャンピングカーを止めてくる。
やはりわけのわからない乗り物は、警戒され止められるようだ。
「こちらはヨーレシア・ド・ホワイトナイツ男爵の乗り物です! お通しください!」
「こ・・・! これは失礼いたしました! 貴族の方でございましたか!」
だがアーノルドさんが貴族の名を出した途端、素通りである。
貴族の特権どんだけ強いんだか・・・・。
「な! 何だあれは!?」「何あの白いの!!」
「ちょっとあれ・・・どこかのお貴族さまかしら・・・」
街に入ると驚く人たちや、こちらを見ながらひそひそと話す人たちの様子が、窓からよく見えた。
まあ乗り物なら馬車が普通のこの異世界で、馬もない浮遊する四角い乗り物が動いていたら驚くよね。
「ひひひひ~ん!! ぶるる!!」
「どうどう! ってええ!?」
すれ違いざまにたまげる馬。馬をなだめようとしてこちらを凝視する御者のおじさん。
馬も未確認な乗り物には驚くようだ。
とりあえず驚いてこちらを凝視しているおじさんに、窓から頭を下げておく。
「ヨッシ~!!」
トムおじさんの屋敷に到着すると、懐かしい声が聞こえてきて、その声の主が走り寄ってくる。
「フロランスさまお止まりください! 危ないです!」
どうやらこちらへ走り寄ってきているのは、フランちゃんで間違いないようだ。
なぜこのキャンピングカーでオレだとわかったのだろうか?
とりあえず「妙な物体=オレ」という認識だろうか?
「お久しぶりでございますヨッシーさま。さあさあ、中でフロランスお嬢様がお待ちでございます」
屋敷の門番のが近づいて来て、顔も出さないうちからそう言ってくる。
どうやらこの屋敷では「妙な物体=オレ」という認識が共通のようだ。
「フランさまお久しぶりでございます」
とりあえずキャンピングカーの扉を開けて、こちらに駆け寄ってきたフランちゃんに挨拶する。
「ヨッシー!!」「おっと・・・」
フランちゃんがキャンピングカーの中に駆けこみ、オレにダイブしてくる。
それを抱き止め、転びそうになるところをゴンツに支えられる。
久々のフランちゃんは、どうやら背が伸びたらしく、オレよりもちょっと背が高く見えた。
なんという理不尽だろうか? これが格差というやつだろうか?
オレはあれから一センチも、背が伸びていないというのに・・・・。
「フ、フランさま大きくなられましたね・・・・」
「ありがとうヨッシー! この乗り物は何!? また新しい乗り物!?」
フランちゃんは乗り物内で、あれこれと質問しながらまくし立ててくる。
フランちゃんは滑舌もよくなり、そこからも成長が窺えた。
オレが成長したのは、爵位くらいだがな。
「フロランスさま! 危ないですから出てきてください!」
警戒からか中に乗り込めないリュシーさんが、そう外から声をかけてくる。
このお姉さんはフランちゃんの、世話役のメイドだ。
「大丈夫ですよ。中はそんなに馬車と変わりませんから」
とりあえずリュシーさんを落ち着かせるためにそう言っておく。
「ぜんぜん馬車とは違うよ~!!」
するとフランちゃんが、そんなことを言ってきた。
リュシーさんが警戒を強めるので、空気をよんでもらいたいのだが・・・・。
「これ! フロランス! あまり周囲を困らせるものではないぞ! ほう? 内装はなかなか快適な造りになっているな・・・・」
フランちゃんを注意しつつ、乗り物内に入ってきたのはトムおじさんだ。
物おじなく未確認の乗り物の中に入ってくるあたり、トムおじさんとフランちゃんは、やっぱり親子なのだろうと思う。
「お久しぶりです。バートム伯爵」
「なんだ? 久しぶりなのに随分と堅苦しいなヨッシーは?」
貴族の礼で挨拶すると、トムおじさんからはそう返ってきた。
「呼び方はトムおじさんの方が良かったですか?」
「その方が気が楽だな・・・・」
トムおじさんは相変わらず貴族らしくないおじさんだ。
「あの鉄の天馬にも驚いたが、この乗り物にもたまげたぞ」
そんなことを言いつつ、トムおじさんは乗り物内をあちこち物色し始める。
鉄の天馬とは以前オレが造った浮遊バイクのことである。
この異世界の人はバイクという言葉に面識がないために、浮遊バイクをそうよぶのだ。
「お初にお目にかかります。ヨーレシア男爵にお仕えさせていただいております。パナメラ・ド・シャブリエでございます」
「同じくゴンツ・ド・ソルボンです!」
「運転席から失礼いたします。アーノルド・ド・マンサールと申します」
すると乗り物内にいた三人が、順番に挨拶していく。
「ヨッシーの部下たちか? 私はバートム・ド・ギーハテケナだ。ギーハテケナ領の領主をしている。こっちは娘のフロランスだ」
「ギーハテケナ・・・家長女の・・・フロランスでございます」
トムおじさんも三人に挨拶を返し、フランちゃんもトムおじさんに紹介され、ぎこちない挨拶で返す。
あのカーテシーは練習中なんだね。そんなフランちゃんの様子が、微笑ましく見える。
「今日は屋敷に泊まっていくのか?」
急ぐ旅ではないが、一刻も早くコロンを見つけ出したいとは思う。
なので今日の内には、魔族領に到着したいところだ。
だがこのトムおじさんの台詞は、断っても次は命令形に変わるパターンだ。
ここは泊めてもらう他ないだろう。
「お招きいただき恐縮です・・・・」
「また堅苦しいなお前は! ところで屋敷に入る前に、この乗り物少し走らせてみてくれないか?」
「わああい! はやく走って! 走って!」
こうしてオレたちは街を何周かした後に、トムおじさんの屋敷に泊まることになった。
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