32:王都攻防戦
ギーハテケナ領での戦いに勝利すると、さっそく第一王子に対して尋問が行われた。
第一王子の話では、現在国王が人質に取られ、貴族派の重鎮であり、第一王子の後見貴族である、バントナン侯爵が王宮を占拠しているようだ。
レーティシア姫が王宮へ戻るまでには、このバントナン侯爵及び、その配下である貴族派の貴族たちの抵抗があると思われる。
これに対してレーティシア姫は、各地の貴族に助勢を募りながら、王都へ向けて行軍を開始する。
レーティシア姫が正当な王位継承者で、すでに第一王子を捕らえていることを知ると、ほとんどの貴族はレーティシア姫に助勢することを決意した。
レーティシア姫が王都へ到着するまでには、その軍勢はかなりの数に膨れ上がっていた。
「我が名はレーティシア・ルエパラ!! 正当な王位継承権を継ぎし者なり!! 大人しく降伏するならば命までは取らぬ!!」
ゴロゴロ!! ピッシャアアアン!!
王都に到着するとその城門は固く閉ざされ、城門の前には多くの軍勢が待ち受けていた。
その軍勢の前に、レーティシア姫は雷撃剣を使いながら、降伏を呼びかける。
「小癪な! 我々はそんな脅しに屈する気はない!」
そう言って城壁の上から、大声で宣言してきたのは一人の貴族と思われる男だ。
もしかしてあれがバントナン侯爵だろうか?
「あれはバントナン侯爵ではなく、ヴェルボー伯爵です」
違うのかよ・・・・。
どうやら城壁で指揮をとっているのは、貴族派の貴族の一人である、ヴェルボー伯爵のようだ。
「ヨッシー・・・・。お願いします」
「承知しました・・・」
オレはレーティシア姫の命を受けて、新たに製作した黒光りするゴーレムを起動すると、再び肩にコロンを乗せて、空高く舞い上がる。
「黒い巨人が飛んできたぞ! 撃ち落せ!」
そんなオレに向けて弓矢や魔法が飛んでくるが、今のオレには全く通用する気配もない。
なぜならそのゴーレムは、魔法にも物理にも滅法強いと定評の、アダマンタイトを使用しているからだ。
アダマンタイトは魔力伝導率が低く、それ単体で操るのは難しい。
だが魔力伝導率の高いミスリルを主な素材として使い、表面を厚くアダマンタイトでコーティングすることで、アダマンタイトも操作可能となるのだ。
もはやそれは、最強のゴーレムと言ってもいいのではないだろうか?
魔法が当たろうが矢が当たろうが、そのボディーには傷一つつかない。
その黒光りするゴーレムを、オレは黒金のゴーレムと名付けた。
「ヴェルボー伯爵お逃げを!」
地上からの抵抗空しく、上空から降り立つオレに危機感を感じたのか、ヴェルボー伯爵は逃走を開始する。
数人の騎士がその盾となって前に出てくる。
「ふん!!」
ドカドカドカ!!!
「「ぎゃああああ!!」」
するとコロンが飛び出し、あっという間に騎士や兵士を薙ぎ払う。
「ほれ!」
そして猫でも掴むように、白目をむいたヴェルボー伯爵の襟首を掴んで連れてきた。
このおっさんを多くの敵兵に見えるように掲げて、大将が討ち取られたことを見せつけろということだろう。
「ヴェルボー伯爵打ち取ったりいい!!」
さっそくオレはヴェルボー伯爵を握りしめると、頭上に掲げてそう宣言した。
周囲の兵士たちはその様子を、唖然とした表情で、ただ見つめるばかりだった。
「突撃開始!!」
「「わああああああ!!」」
ヴェルボー伯爵を捕らえて、城門を開くと多くの兵士が王都内に殺到する。
「ま、待て我々は投降する!!」
その突撃を見て諦めたのか、数人の貴族と見られる男たちが王宮から出てきた。
もしかして貴族派の貴族たちだろうか?
どうやら一人の男を、捕縛しているようだ。
「バントナン侯爵を差し出すから、我々の命だけは助けてくれ!」
どうやら呆れたことに貴族たちは、自分たちが助かりたい余りに、バントナン侯爵を縛り上げて投降してきたようだ。
「その者たちを捕らえよ!!」
レーティシア姫は、男たちを捕縛するように命を下す。
こうして王都での騒動も終結し、人質となっていた国王も無事に救助されたのだった。
あれから一ヶ月後。戦いにおける功労者に対する、褒賞の授与式が行われた。
「ヨッシー。今回の戦いにおいて一番功績のあった其方には、男爵位を授けます」
「謹んでお受けします」
王族は当初、オレにもっと高い爵位を与えるつもりだったようだ。
それはオレの能力を知ってのことだろう。
どうやら王族はオレを、一族の中に取り込もうと考えているようだ。
だがまだ冒険者を続けたいオレは、レーティシア姫にお願いして、ギリギリ冒険者としての活躍ができる、男爵位に留めてもらったのだ。
「コロンには諸事情により爵位は授けられませんが、多くの報酬を約束しましょう」
コロンに爵位が与えられない理由はわからないが、コロンが魔族であることが関係している気がする。
だがオレがその理由を知るのは、そう遠くない未来だ。
「コロンが帰っていないってどういうことだよ!?」
その日授与式を終えると、コロンは先に帰ると言って、オレたちが宿泊している宿に帰ってしまったのだ。
ところが宿に帰って見ると、コロンの姿は見えず、翌日になっても宿に戻る気配がなかったのだ。
調べたところどうやらコロンは、オレが爵位を賜った日に、王都から旅立ってしまったようなのだ。
「嘘だろ・・・・コロン。なんで急にいなくなるんだよ・・・?」
オレがこの異世界に転生したと自覚した日から、ずっとオレを姉のように支えてくれたのはコロンだった。
あれからずっと一緒に、狩りをしたり旅をしたりして、楽しく過ごしてきたのだ。
そのコロンがいなくなった喪失感は、オレにとって計り知れないものだった。
オレはその出来事がショックで、その日から塞ぎこんでしまった。
コロンはいったいどこへ行ってしまったのだろうか?
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