30:ギーハテケナ領の危機
第三人称視点~
「バートム伯爵! 一大事でございます!」
バートム伯爵の屋敷中に、けたたましく足音が鳴り響く。
「いったいなにがあった?」
「アルベリヒ第一王子とパーシヴァル伯爵が、軍勢を率いて、このラベナイの街に向かっております!」
「ば、馬鹿な・・・・!」
王子側からは視察という名目で、領内へはせ参じると通達があったはずだ。
ならば、もしやレーティシア姫を囲っていたことが、アルベリヒ第一王子に知れたのだろうか?
そうなればあのいかれた王子ならば、どんな罪状をでっち上げてくるかわからない。
だがこのギーハテケナ領は表向きは中立を通していたし、レーティシア派だとばれる要素は、一切なかったはずだと思い返す。
そのような領地が、レーティシア姫を囲っているなどと、確証を得ることはまずないはずだ。
ではいったいどういった目的で、軍勢をこちらに差し向けてきたのだろうか?
バートム伯爵はそう考えをめぐらす。
ところ変わってラベナイの街から、北へ数キロの砦の前・・・・。
そこにはアルベリヒ第一王子とパーシヴァル伯爵が、軍勢を引き連れて迫っていた。
「アルベリヒ第一王子・・・・この進軍はちと強引ではありませぬか?」
パーシヴァル伯爵が同じく馬に跨るアルベリヒ第一王子にそう尋ねる。
「レーティシアがギーハテケナ領にいるというのは確かに噂にすぎぬ。だが万が一もある。レーティシアは必ずわが手で亡き者にせなばならぬのだ!」
やり方はかなり強引だが、自分と同じく王位継承権をもつ、レーティシアさえ亡き者にすれば、後でどうとでもなる。
アルベリヒ第一王子は、そのような短慮な思考で行動していた。
彼は密かに国王を幽閉し、現在は病気で臥せっていると、周囲には通達していたのだ。
それゆえ今の彼には、怖いものなどないようだ。
当初アルベリヒ第一王子は、幼く有能な魔術師の噂を聞いて、ギーハテケナ領を目指していたのだ。
だがギーハテケナ領について調べているうちに、レーティシア姫の足取りらしき道筋を、噂で耳にしたのだ。
それは信憑性の低い噂ではあった。
だがアルベリヒ第一王子はレーティシア姫の噂を聞いては、軍勢を率いて領地に押し入り、略奪まがいの捜索を繰り返していた。
そしてその全てが、第一王子派ではない貴族の領地ばかりであったのだ。
今回も同じように、最終的には何かの罪を着せて、領地の貴族を失脚させた上で、第一王子派の貴族に頭を挿げ替える気でいた。
「アルベリヒ第一王子! このギーハテケナ領にどのような理由で進軍なされたのか・・・お答えください!」
バートム伯爵は砦の南砦の城壁の上から、そうアルベリヒ第一王子に問いかける。
南砦に到着したアルベリヒ第一王子率いる軍勢は、南砦の城門の前で、バートム伯爵率いる軍勢と、門を挟むかたちで対峙していた。
「この先のラベナイの街に、罪人のレーティシアを囲っていよう! すぐに連れてくるがよい!」
「どのような証拠があって、そのようにおっしゃられるのですかな!? それに姫の罪状ははっきりしておりませんので、そのような進軍は越権行為以外の何ものでもありませんぞ!?」
アルベリヒ第一王子は、レーティシア姫が国王に毒を盛ったと、勝手に証拠をでっち上げて、公言していた。
その証拠自体確証もなく、多くの貴族がそれを信じていなかった。
だがその話を強引に出すことで、領地に進軍する大義名分としようとしていたのだ。
「話にならん! この門をぶち破れ!」
「お待ちくださいアルベリヒ第一王子!!」
「どうしたのだパーシヴァル伯爵?」
「我が配下の騎士が、何やら城門に呪詛のようなものが、仕込んであると申しております・・・・」
「恐れながら、意見をお許しください・・・・」
パーシヴァル伯爵の後方から、同じく馬に跨る中年の騎士がやってくる。
「ふん! 申してみよ!」
「以前我が部下四名が、ギーハテケナ領の砦に押し入り、幼い魔術師に閉じ込められ、一網打尽にされたと聞いております。その城門にはそれと似た気配を感じるのです・・・」
「ああ・・・。我が家の三男、グレゴワールの件だな・・・・」
「王子の身に何かあってはことです。ここは今一度、作戦会議をいたしましょう」
そう提案したのは、バルテルミ騎士団長だった。
彼はその後もあれこれと提案を繰り返し、この進軍を遅らせるのだ。
実はバルテルミ騎士団長は、裏でバートム伯爵と繋がっている人物であった。
そのためバートム伯爵がこの状況を上手く立ち回るための、時間稼ぎをしていたのだ。
この時間稼ぎが果たしてバートム伯爵の有利に働いたかはわからないが、結果的にその時間稼ぎが彼を救うことになったのだ。
「我が名はレーティシア・ルエパラ!! 聖剣アルゲースを受け継ぎし者なり!!」
ゴロゴロ!! ピッシャアアアン!!
その時稲光とともに、スレイプニールに跨ったレイティシア姫が、南砦の中から現れたのであった。
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