29:浮遊トラックと浮遊バイク
「不謹慎ではありますが、それは願ってもない展開だと思います・・・・」
王位継承の証を示せば、多くの貴族がレーティシア姫の味方になるだろう。
そしてレーティシア姫は今こそやりたい放題の第一王子に、鉄槌を下すチャンスだと思っているのだ。
現在オレたちは宿泊している宿に集まり、先ほど騎士が報告してきた件について話し合っていた。
それはもちろん第一王子とパーシヴァル伯爵が軍勢を引き連れて、ギーハテケナ領に攻め込んだ件である。
「付近の貴族にも王位継承の証を示し、こちら側の仲間に引き込みましょう。そしてこちら側の味方として参戦を促すのです」
「でもそんなことをしているうちに、南砦が落とされ。ラベナイの街が攻め込まれないでしょうか?」
オレはのんびりと周辺の貴族を仲間に引き込んでいる間に、ラベナイの街が攻め込まれないかが心配なのだ。
ラベナイの街にはフランちゃんもいるし、あの子が悲しむ顔だけは見たくない。
それにラベナイの街は、ギーハテケナ領の中心地でもあるのだ。
ここが攻め落とされれば、ギーハテケナ領が陥落したに等しい。
「その心配もありますね・・・・。オベール。確かパーシヴァル領軍にバルテルミ子爵がいたわね」
バルテルミ子爵とは確か、オークの集落を討伐した時に、騎士団長をしていたおじさんだったと、記憶している。
「はい・・・・。王位継承の証を示せば、バルテルミ卿は必ずこちら側につくでしょう。それに多くの敵が、こちら側につくことでしょう」
つまり敵の側にいるバルテルミ卿や兵士に、王位継承の証を示し、味方に引き込むことで、ギーハテケナ領軍が有利に戦えるということだろう。
それどころか大勢の味方が急に反旗を翻せば、パーシヴァル領軍は総崩れではないだろうか?
「ならば急ぎラベナイの街へ向かいましょう」
「だったらオレが乗り物を提供しますよ。たぶんその乗り物なら、一日でギーハテケナ領にたどり着けますから」
「一日だって!? まさかそれも魔道具か!?」
そんなわけでオレが用意したのは、車輪のない未来型の浮遊トラックだ。
サンプルデータにあった中型トラックで、魔石を燃料として走る優れものだ。
1000万ポイントもかかったが、スレイプニールと馬車を引いていた馬を積むので、これくらいが妥当だろう。
ちなみにトラックの運転席は、小さなオレ仕様に改造済みだ。つまり運転はオレがやる。
また希望もあったので、浮遊型のバイクも三台用意した。
燃料となる魔石を集めるのに少し時間はかかったが、これからの帰路を馬車で進むと思えば、大した時間ではないだろう。
「皆さん! そいつは障害物があれば自動で止まりますが、念のために乱暴な運転は避けてください!」
オレはトラックの窓から顔を出して、現在バイクを運転している三人に呼びかける。
「おう! わかってる!」
「ほほ~う!!」
「心配しすぎだよヨッシー!!」
そう言いつつ三台の浮遊バイクは、街道を縦横無尽に突き進む。
ちなみに現在バイクを運転しているのは、オベールさんとライザさんと、イスマエルさんだ。
三人ともこのバイクの運転は、即座に覚えてしまった。
トラックの荷台にはスレイプニールと馬の他に、レーティシア姫とベルトランと、カンタンさんがいる。
レーティシア姫はスレイプニールに慣れるために、なるべく近くにいたいようだ。
今もスレイプニールに笑顔で、ブラシをかけてあげているのが見える。
ベルトランとカンタンさんは、レーティシア姫の近場の護衛だ。
トラックの荷台に何者かが乗り込んだ場合に、即座に対応できるようにしたいようだ。
だがベルトランはともかく、実はカンタンさんの護衛は法弁で、バイクが怖いだけらしい。
カンタンさんは見た目と裏腹に、すごく怖がりのようだ。
コロンは浮かない顔で、珍しくトラックの助手席に座っている。
いつもならトラックの屋根あたりに座っていそうだが、光の剣を渡してからというもの、少し元気がないのだ。
「もうラベナイの街が見えて来たぞ!」
「速すぎるだろこの鉄の馬!」
そして出発して数時間で、ラベナイの街に到着した。
「わたくしはレーティシア・ルエパラです! 街の門を開きなさい!」
スレイプニールに乗り換えたレーティシア姫が、城門の前でそう叫ぶ。
ラベナイの街の門は、北からの襲撃も危惧して、固く閉ざしているようだ。
ラベナイの街の北側は北砦に護られており、その北砦に行くためには、さらに他領を抜けながら、かなり大回りする必要がある。
今回は襲撃など警戒する必要もないのだが、念のために閉ざしていたのだろう。
レーティシア姫の言葉を聞き入れたのか、街の北門が開き始める。
「お帰りなさいませ姫様!」
最初にオレたちを迎えたのは、ブラハムさんとその娘のローレッタさん、それに使用人たちだった。
どうやらブラハムさんも、レーティシア姫の事情を知っていたようだ。
「姫様に相応しい服が用意してございますが、いかが致しましょう?」
「時間が惜しいけれど、みすぼらしい姿では王族の恥です。急いで着替えさせてちょうだい」
レーティシア姫は男の子っぽい魔導士衣装から、まるで戦姫のような衣装に着替える。
それは青を基調としたドレスに、甲冑がついた衣装だ。
その凛とした佇まいは、先ほどとまるで別人のようだ。
「ヨッシ~!!」
そしていざ出発せんとするその時、聞き覚えのある幼い声が聞こえてきた。
「フラン様!?」
それはオレの乗るトラックに駆け寄る、フランちゃんだった。
「危ないですよフラン様!」
「だってヨッシ~が!!」
そんなフランちゃんを、メイドのリュシーさんが抱き止める。
「どうしてこんな場所に!?」
「急にフラン様が、ヨッシー様がお帰りになったと走り出しまして・・・」
フランちゃんは探知魔法でも使えるのだろうか?
「フラン様! オレは戦いに行かねばなりません! 必ず帰りますので、その時はまた一緒に遊びましょう!」
「うう・・・ふりゃんもいきたいけど・・・・いまはまってる・・・」
フランちゃんは今にも泣きだしそうな顔でそう答えた。
オレたちはそんなフランちゃんに見送られながら、ラベナイの街を出て、襲撃を受けていると思われる、南砦を目指したのだった。
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