23:スレイプニール
「おい! 見ろ皆! スレイプニールだ!」
ダンジョンの10階層を捜索すると、すぐにスレイプニールを見つけることができた。
オレたちは全員草むらに隠れ、遠くからスレイプニールと、バトルホースの群れの様子を窺がっている。
スレイプニールはバトルホースの群れの中心におり、群れのボスのような存在になっているようだ。
バトルホースも馬にしては大き目なのだが、スレイプニールはさらにその一回りくらい大きい。
だがスレイプニールは噂とおりに八本の脚はなく、四本しか足は生えていなかった。
これには諸説あるが、どうやらスレイプニールが走っている時に、そのあまりの速さに、足が八本に見えたとかなんだとか・・・・。
「色が違うだけで、大き目のバトルホースだね?」
「身もふたもない言い方をするな」
バトルホースが全身真っ黒なのに対し、スレイプニールは銀色で金髪だ。
遠目で見ても、すごく目立つのは確かだ。
「どうだコロン。あいつと力比べをして勝てそうか?」
「いや・・・難しい。体重差の問題があるから・・・・」
いくらコロンに規格外の怪力があっても、体重はスレイプニールが圧倒的に上だ。
ぶつかり合えば、跳ね飛ばされて終わりだろう。
「やはりここは、ヨッシーのアイアンゴーレムに頼る他なさそうですね?」
「取り巻きのバトルホースはどうする?」
「バトルホースは雷撃で十分でしょう。スレイプニールはどういうわけか雷撃が効かないようですので、巻き込んでしまってもテイムには問題ないと思います」
そして決まった作戦がこうだ・・・・。
まずレーティシア姫とオレの協力技である雷撃剣で、取り巻きのバトルホースを粗方排除するのだ。
雷撃剣は聖剣アルゲースにより放たれる、強力な広範囲雷撃攻撃なのだ。
ただオレの雷撃によるためが長いため、使えるのは最初の一回のみとなる。
続けて残ったスレイプニールを、オレとコロンとレーティシア姫の三人で攻撃して弱らせる。
伝承によると瀕死においつめた、スレイプニールの傷を癒した勇者に、スレイプニールは服従したようなのだ。
それを三人で、再現しようという話だ。
雷撃剣で仕留めきれなかったバトルホースは、その他のメンバーで抑えることになった。
「ヨッシー! 準備はいいか!」
「おうよ! 二人とも乗って!」
オレは鉄のゴーレムを起動すると、コロンとレーティシア姫に、その肩に乗るように勧める。
いよいよオレたちの旅の最終目的である、スレイプニールのテイム作戦が開始されたのであった。
「ライザ! 風魔法で馬どもの注意を引きつけろ!」
「あいよ!」
「ヨッシーはその間に、雷魔法を姫のアルゲースに放ち続けて雷のチャージだ!」
「おう!」
ガコン!
オレはいったんゴーレムの頭である、傘の部分を背中に納めると、上半身を鉄のゴーレムから出した。
「姫! いきますよ!」
「いつでもいいわヨッシー!」
オレは雷のパーティクルを、レーティシア姫の掲げた聖剣アルゲースに放つ。
雷のパーティクルはオレがスマホで作った雷魔法のような技だ。
皆これを雷魔法だと信じているが・・・・。
「トルネード!!」
ビユウゥゥ~!!
ライザさんが使ったと思われる、竜巻の魔法がバトルホースの群れに放たれる。
それを見たバトルホースの群れが、竜巻に注目する。
バトルホースの群れは竜巻に警戒しながら、竜巻魔法を放ったライザさんへと駆け寄ろうとする。
だが巧みに操作される竜巻に翻弄され、上手くライザさんに近づけないでいる。
「今です! 雷撃剣!」
ゴロゴロ・・・!! ピシャアアア~ン!!
多くのバトルホースが、聖剣アルゲースから放たれた雷撃に、巻き込まれて倒れていく。
「まずいぞヨッシー! スレイプニールだ!」
ガツ~ン!!
「うわ!!」「ひやっ!!」「ぬ!!」
コロンがそう言うや否や、鉄のゴーレムに衝撃が走る。
見ると鉄のゴーレムの胸の部分を、スレイプニールが両足で蹴りつけていたのだ。
スレイプニールは雷撃を喰らいながらも、そのままこちらへ突撃してきていたようだ。
よく鉄のゴーレムが、転倒しなかったものだ。
「およ!?」
思いもよらないその不意打ちに、オレは鉄のゴーレムから落ちそうになるが、コロンに支えられて鉄のゴーレムの中に戻される。
「ヨッシー! 無事か!?」
「うん! ありがとうコロン!」
見るとコロンは落ちそうになっているレーティシア姫のことも、片手で支えていた。
「しっかりしろレーティシア!!」
放心状態になっていたレーティシア姫に、コロンが大声で語り掛ける。
「・・・・ごめんなさい! もう大丈夫です!」
するとレーティシア姫は正気に戻ったようだ。
「ブモモモモモ~!!」
「どっせい!!」
更に鉄のゴーレムを押し出そうとするスレイプニールを、オレも負けじと押し返す。
だがスレイプニールの力は相当なもので、徐々に鉄のゴーレムが押され始める。
「くらいなさい!!」
「とりゃああ!!」
グサ! ズシャ! ドバ!
「ブモ~ヒヒヒヒ!!」
コロンとレーティシア姫の猛攻に耐え兼ね、スレイプニールは後ろに飛びのく。
まるで鋼鉄のようなその毛皮に、二人の攻撃はあまり効果が見られないように思えたが、斬撃は受けなくとも、打撃的効果はあったようだ。
パカラッ! パカラッ! パカラッ・・・・
「ヒヒヒヒ!!」
「ヨッシー! 生き残りが二頭そちらに向かった!」
ガコン!
「うあ!!」
オベールさんがそう叫ぶや否や、鉄のゴーレムに再び衝撃が走る。
「ごめんなさい! 一頭は仕留め損ねたわ!」
見ると二頭のうちの一頭は、レーティシア姫の振るう聖剣アルゲースの飛ぶ斬撃を受けて倒れていた。
だがもう一頭がその攻撃を避けて、鉄のゴーレムの脇腹に突撃していたのだ。
「ブモモモモモ~!!」
それを隙と見たスレイプニールが、再び鉄のゴーレムへと突撃を開始する。
このままではまずい!
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