21:ダンジョン六階層へ
ダンジョンは六階層から、まるでサバンナのように広大な平原となった。
出現する魔物には、黒いネコ科のダークパンサー、狂暴な人食いの馬バトルホース、巨大な原始人のような見た目のジャイアントなどが出現した。
鹿や牛などの温厚な草食動物なども見られるが、油断するとこちらにも殺されかねないようだ。
だがそこでオレとコロンが、活躍することはなかった。
それは遭遇する魔物を、次々とレーティシア姫が瞬殺していったからだ。
聖剣アルゲースを手にしたレーティシア姫の活躍は、目を見張るものだった。
聖剣アルゲースは、最大十メートル離れた位置にいる敵を、高速で飛ぶ斬撃で攻撃する剣だ。
レーティシア姫はその剣を、王家に伝わる強力な剣技で振るうのだ。
その剣が効率が良く、無駄のない動きで振られれば、これほど無双な攻撃はないだろう。
レーティシア姫は今まで王族であることを隠すために、王家の剣術を封印してきたそうだ。
そのせいか余計に、剣を振るいたいのかもしれない。
そして今度は前方に、20体ばかりのオーガの群れが出現した。
さすがに聖剣アルゲースでも、あのオーガの群れには苦戦するかもしれない。
「ヨッシー。貴女の雷魔法を、聖剣アルゲースにお願いします」
「え? なんでですか?」
「聖剣アルゲースには雷をため込んで、いっきに放出する機能があるのですよ」
そのレーティシア姫の言葉を聞いたオレは、さっそく聖剣アルゲースに雷を放つ。
すると驚くべきことに、聖剣アルゲースはオレの放った雷をどんどん吸収していく。
「雷撃剣!」
ゴロゴロ・・・!! ピシャアアア~ン!!
オレの雷をため込んだ聖剣アルゲースを、レーティシア姫がオーガの群れに向けて振ると、凄まじい雷撃が剣から放出され、一気にオーガの群れを飲み込んだ。
その威力の高さに、オレとコロンは息をのむばかりだ。
オークの群れ20体は、その雷撃で全て戦闘不能となった。
「・・・これなら王国の軍隊にでも、太刀打ちできそうですな」
「ヨッシーありきの技ではありますがね?」
こんな調子で六階層から九階層までは、一日で到達することができた。
そしてその日は九階層にある安全地帯で、一夜を明かすことになったのだ。
「朝昼と連日その干し肉と硬パンでは、気がめいってきますので、今日はオレが食料を提供しましょう」
いくら火が使えず食料がないとしても、連日干し肉と硬パンというのも、どうかと思う。
それになによりもう硬パンと干し肉はうんざりだ。
かといって一人だけ違う物を食べるというのも気が引ける。
なので今回はスマホの通販ショップから、皆の食べ物を購入することにしたのだ。
せっかく通販ショップというスマホの恩恵もあることだし、ここで使わないのはもったいない。
それに希望の盾のメンバーに、スマホの能力を隠すのは、今更な気もするのだ。
オレは九階層の安全地帯で、そう皆に提案した。
エミソヤのダンジョンの安全地帯は、どこも同じような構造のようだ。
壁や天井、地面にいたるまで平面で、どこかの建物の中にいるような、錯覚すらおぼえる。
「それは構わないが、火を使うのは禁止だぞ?」
オレが料理でもするのかと思ったのか、オベールさんがそう注意してくる。
まあ今までスマホで出した物を、料理や解凍をして出していたし、そう思われていても仕方ないのかもしれない。
ダンジョンでの火の使用は、一酸化炭素中毒などの危険性があり、基本的に禁止されているのだ。
ダンジョン内にあった広い平原地帯ならまだしも、この限られた広さの安全地帯では、特に気を付けねばならないだろう。
だから今回オレが出すのは、菓子パンや総菜パンなどの、解凍のいらない出来合いのものばかりだ。
「何? パンだと? 硬パンのような保存する工夫でもしているのか?」
オベールさんはもしかして、オレが日持ちするパンでも、持っていると思っているのかもしれない。
この異世界の硬パンは、日持ちするように工夫した結果、あのような硬さになっているのだ。
しかしこのスマホで注文すれば、新しいものが送られてくるので、期限など気にする必要もない。
「まあまあ。騙されたと思って、まずは皆さんの希望だけでも言ってみてくださいよ」
オレはとりあえず全員の希望を、聞いてみることにした。
「ワタシは肉がいい!」
コロンはいつ聞いても、意見がぶれない。
ようするに肉系のものを中に入れた、総菜パンだな。
「わたくしはそうですね・・・。
いつかメロンという珍しい南国のフルーツを頂いたことがあるのですが、また食べてみたいと思ってはいますね・・・」
メロンが食べたい? むちゃぶりのつもりだろうか?
なぜパンだと言っているのに果物を要求するのだろうか? 天然だろうか?
「メロンは出せなくはないですけど、聖剣と同じか、その半分くらいの代償を要求をされてしまうので、ご遠慮ねがいたいです」
メロンは最低でも3000円近くはするのだ。
今夜はそんなにポイントの無駄使いをする気はないので、お断りさせていただく。
「ええ!? 出せるのですか!?」
レーティシア姫のその反応から、どうやら先ほどの発言は冗談であったと思い至る。
それかオレを試したかの、どちらかだろう。
「ま、まあまあ・・・。メロンを模した甘いパンがありますので、そちらでご勘弁ください」
とりあえずここは誤魔化して、他の人の意見も聞いていく。
レーティシア姫はメロンパンと・・・・。
「次は坊ちゃんがどうぞ」
「あ、ああ・・・」
オベールさんの言う坊ちゃんとは、ベルトランのことである。
ベルトランは実は、伯爵家の三男のようなのだ。
護衛として長いことレーティシア姫に仕えているらしい。
すでに立場を隠す気はないようで、オベールさんの坊ちゃんよびを、容認しているようだ。
「俺は甘いパンが食べたいかな・・・」
どうやら坊ちゃんは、糖分に飢えておいでのようだ。
「私も甘いパンで」
ライザさんも甘いパンをご所望のようだ。
「オベールさんたちは何がいいんですか?」
オレはオベールさんはじめ、目立たない残りの男性陣に要望を聞いてみた。
ちなみに目立たない男性陣の名前は、カンタンさんとイスマエルさんだ。
「このところスープを飲めていないからな、出来れば温かいスープでも欲しいところだ」
パンの要望を聞いたのに、オベールさんからはスープが飲みたいという要望が出た。
まあスマホでお湯を出して、粉末スープでも入れればできなくはないが、ぶっちゃけスマホから出るお湯はぬるい。
なのでスープに沸かさずに使うのはお勧めできないのだ。
「じゃあカレーパンにします? あれも一応はスープみないなものですし」
「ああ! あれか! あれは美味かったな!」
カレーパンに反応したのはコロンだ。
そう言えばコロンには、カレーパンをご馳走したことがあったな。
「カレー? なんだそれは?」
しかしオベールさんはカレーを知らないようで、オレにそう尋ねてきた。
「う~ん・・・。スパイスが何種類も入った味の濃いスープですかね?」
「スパイスが何種類もだと!? 高級品じゃないか!?」
そういえばこの国では、スパイスが高級品だったと思い出す。
だが通販ショップで買うカレーパンは、そこまで高くはない。
「心配しなくても大丈夫ですよ。カレーパンに代償はそこまでいりませんから」
「つまりお前の魔法にとって、スパイスはそこまで高級品ではないということか?」
「まあ・・・そうなりますね。それでパンはカレーパンでいいですか?」
「・・・・う~ん。それで構わない・・・・」
オベールさんは少し悩んだ後に、そう返事をした。
「俺もそれで」「あっしもオベールさんと同じでかまいません」
そして目立たない二人も、オベールさんと同じ要求をした。
オレはさっそくパンを買うために、スマホを使い、通販ショップを開いた。
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