20:レーティシア・ルエパラ
「それはボクが・・・勇者の血を引く王族だからだよ・・・。
レーティシア・ルエパラ・・・それがボクの・・・いえ・・・わたくしの本名です・・・」
レティーくんのその唐突な発言に、オレは驚愕を隠せないでいた。
だが周囲はそんなオレとは裏腹に、妙に落ち着いている。
もしかしてこれって、気づいていなかったのはオレだけではないだろうか?
いや・・・コロンはさすがにオレと同じ気持ちではないだろうか。
そう思ってコロンの顔を見ると、なんと余裕の表情でオレを見下ろしやがった。
まさか・・・コロンまでもが勘づいていたというのか!?
現在オレたちはエミシアのダンジョンの探索をしている。
それはワールドトレントのいる部屋を抜けて、丁度安全地帯で休憩をしていた時に起こった出来事だ。
オレがスマホで購入した聖剣アルゲースを手に取り、レティーくんが自分の正体を明かしたのだ。
レーティシア・ルエパラ王女であると・・・・。
「なぜ今オレに正体を打ち明けたのですか?」
「それを言う前に、わたくしの話に、しばし耳を傾けてください・・・」
そう言うとレーティシア姫は、静かに語り始めた。
それはまだレーティシア姫が王宮にいたころの話だ。
王宮では次の王位をめぐり、数々の陰謀が企てられる中、王宮の宝物庫から無断で聖剣アルゲースを持ち出す者がいたのだ。
それはアルベリヒ第一王子であった。
その聖剣アルゲースを手にした者は、次の国王の資格を得ることが出来るのだ。
聖剣アルゲースは選ばれたものにしか触れることができないため、特殊なケースに納められ、保管されていた。
当然ケースごと聖剣アルゲースを、持ち出したアルベリヒ王子だったが、自らの派閥の面々の前で力を示そうと、その聖剣アルゲースを手に取ろうとしたのだ。
だがその瞬間に聖剣アルゲースは、忽然と姿を消してまったのだ。
そのころから王宮内は、急におかしくなりはじめた。
これまで健在だった国王は、急に病に倒れ、床に伏してしまう。
アルベリヒ王子の愚行を咎める者もいなくなり、王宮内は当時一番力を持っていたアルベリヒ王子の独壇場となる。
同じく王位継承権を持っていたレーティシア姫は、そのころから命を狙われるようになり、王宮から失踪、冒険者となり身を隠していたのだ。
・・・・そして今にいたる。
「コロンはいつからレーティシア姫のことは気づいていたの?」
「ワタシはこう見えても顔が広いからな・・・・」
「くす・・・」
そのコロンの顔を見て意味ありげに微笑むレーティシア姫・・・・。
こいつらまだ何か隠しているな・・・・?
「それで・・・今世の勇者であるヨッシーは、王位を望むのですか?」
「今世の勇者?」
そうかオレは聖剣アルゲースを、収納魔法か何かで、隠し持っていたように思われているのだ。
勇者と思われていても仕方がない。
その勇者ならば、王位継承権が生まれてもおかしくないということか・・・。
王様なんて、机で難しい仕事をしているイメージしか浮かばない。
オレは冒険者をやりたいのだ。そんな退屈そうな職業はまっぴらだ。
「いいや・・・・まったく王位なんて望みませんけど」
「ではこの聖剣アルゲースは、わたくしが持っていた方が、都合がよろしいですね?」
それもそうだ。聖剣アルゲースなんて持っていたら、王様に祭り上げられるかもしれない。
たとえ望まなくても周囲がそうするような気がする。
だが聖剣アルゲースは、7500ポイントも払って手に入れた剣だ。ただで差し出すのも釈然としない。
「わたくしが王位についた暁には、この剣に見合う対価をヨッシーに差し上げることを約束しますよ」
オレの口から返事が出ないからか、オレの思いを察してなのか、レーティシア姫は今度はそんなことを言ってきた。
その言葉にはなんとなくオレを、王位争奪戦に巻き込もうとする意図も感じるが、ここはひとまず納得しておかないと収拾がつきそうにない。
「わかりました・・・・。その剣は姫に献上します」
オレは渋々そう返事をした。
「ありがとうございますヨッシー。わたくしも聖剣アルゲースを得たことで、表に出ていく決心がつきました。これで王位継承権を堂々と主張することができます」
レーティシア姫は、力強い口調でそう言った。
「では、スレイプニールのテイムは取りやめにして、さっそくバートム伯爵にこの件を知らせに戻りますか?」
オベールさんが、レーティシア姫にそう提案する。
「いいえ。スレイプニールも王位継承権に深くかかわってくる馬です。聖剣アルゲースの上にスレイプニールをテイムしたとなれば、わたくしの王位継承にもはや文句をつける者もいなくなるでしょう」
どうやらスレイプニールのテイムについては、このまま続行することになりそうだ。
「おいヨッシー。ワタシにも聖剣くれよ・・・」
そんな様子を見ながら、コロンはオレに小さな声でそう言った。
「なんでだよ? コロンにはあんなのいらないだろ?」
「ワタシも一応・・・・」
コロンのその言葉は、途中から小さくてよく聞き取れなかったが、いつもより元気がないのは気になる。
「ほれ! 新しい槍だ! これで我慢しろ!」
「なんだ!? 特別な槍か!?」
その日余った魔力を使い、オレはコロンの好きそうな黒く禍々しい感じの槍を作ったのだ。
槍のポイントは、紫の宝石のように透き通った刃だ。
「いや。見た目が禍々しいだけのただの鉄の槍だ」
「そうか・・・有難くもらっとくよ・・・・」
「おいコロン。その槍はどうした?」
その槍にオベールさんが気づき、またひと悶着あったが、ただの見た目だけの槍だと、あっという間に見抜かれたよ。
その日の夜は、安全地帯で硬パンや干し肉などの保存食を食べて、眠りについた。
ちなみに寝る前に1000ポイントチャージをして寝た。
そして翌日オレたちは、下へと続く階段をおり、第六層へと向かった。
残りポイント:57894
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