19:聖剣アルゲース
「今日はここらで休息をとる!」
ダンジョンの安全地帯に到着すると、オベールさんは皆にそう伝えた。
現在オレたちは、馬の魔物、スレイプニールをテイムするためにエミソヤのダンジョンを探索中だ。
スレイプニールはダンジョンの十階層にいるといわれている。
その途中で立ち寄ったのが、このダンジョンの安全地帯だ。
その安全地帯に魔物は入ってくることはなく、休憩をするにはもってこいの場所なのだ。
部屋の大きさは体育館の半分くらいだろうか?
まるで人工物のように四角い部屋だ。
「ヨッシー。ここで火を使った料理は禁止だ。ダンジョン内で火を使うとまれに毒が発生するからな」
その毒とは、一酸化炭素中毒のことだろうか?
換気のできない密室で火をたくと、一酸化炭素がたまるため、一酸化炭素中毒に陥りやすいと聞いたことがある。
「あ~い」
オレはそれよりも他に気になっていることがあり、上の空でオベールさんに返事をした。
『限定一本! 聖剣アルゲース 7500円 今こそ伝説を手に入れろ!』
オレが気になっているのは、スマホのメールで送られてきたこの内容だ。
ぶっちゃけ7500ポイントは、今のオレには高額だ。
だが必要のない物を、このスマホが勧めてくるとは思えないのだ。
「ヨッシーは何をさっきからうなっているんだ?」
オレが部屋の隅の、目立たない場所で悩みながら、スマホの画面を見ていると、不意にコロンが覗き込んできた。
「急にこんな剣をスマホに勧められたんだ。買うべきか悩んでいて・・・」
オレは唯一秘密を知るコロンに、そのスマホの画面に映る、聖剣アルゲースを見せた。
「おま! これ・・・・!!」
それを見たコロンも、さすがに動揺を隠せないようで、さすがに聖剣の名前は出さなかったものの、大声を上げてしまう。
「何だあお前たち? また秘密の相談か?」
するとオベールさんが遠くから、そんなことを聞いてきた。
「すいません! あまり覗かれたくないので!」
「まったく仕方ないなお前たちは・・・。そういうことはもう少し気づかれないようにやるもんだ」
そう言いつつオベールさんは、オレたちに背を向けた。
「聖剣アルゲースは、勇者が女神から賜り、邪神を倒した剣だ。遠くから離れた敵を攻撃出来る剣らしいぞ。軽い長剣のようだから、ヨッシーにでも振り回せるんじゃないか?」
コロンは小さな声で、簡単に聖剣アルゲースについて説明してくれた。
離れて攻撃出来るなら、ひ弱なオレでも使える武器になるかもしれない。
軽い長剣だというのも嬉しい要素だ。
それになによりかっこいい!
「でもこんな剣を出して、オベールさんたちに怪しまれないかな?」
「今更だろ? あんな浮遊する透明の剣まで作っておいて・・・」
なるほど。オレはガラスの剣と命名した透明のバスタードソードを、浮遊させて使っていた。
あんな不思議な剣を作ったくらいだから、今更遠くの敵を斬る剣を出したとしても、作ったと言えば怪しまれないかな?
「ポチっとな・・・」
迷いの晴れたオレは、さっそく聖剣アルゲースを購入した。
残りポイント:49394
「おっも・・!」
だがその聖剣アルゲースは、思った以上に重かった。
聖剣アルゲースはごてごてした宝飾のある鞘付きで、刃渡り一メートルと思われる豪華な剣だ。
やや細身の剣で軽そうに見えるが、どうやらオレの筋力では、持ち上げることすら出来ないようだ。
「そんなはずないだろ! こんな軽そうな剣・・・あつ!!」
「ああ!!」
コロンが聖剣アルゲースに触れようとすると、静電気のような光が出て、コロンの手を反発してしまった。
どうやら聖剣アルゲースは、持ち主を選ぶ剣のようだ。
カランカラン!!
そして聖剣アルゲースは、オレの手から飛び出して、地面に転がってしまう。
「おい! お前らさっきから何を騒いでいるんだ!」
見かねたオベールさんが、とうとうオレたちのところまで駆けてやってくる。
「あの・・・ヨッシー・・・。この剣・・・聖剣アルゲースだよね?」
そして転がっていた聖剣アルゲースを、レティーくんが振るえる手で拾い上げた。
スラリッ!
レティーくんが鞘から徐にその剣を抜くと、白く光る綺麗なブレイドが姿を現す。
「やはり君の手元にあったんだね・・・この剣は・・・」
「えっと・・・なんでそう思うんですか?」
「この聖剣アルゲースはね・・・選ばれた勇者にしか握れない剣なんだよ・・・。君は不思議な魔法を使うし、勇者じゃないかと勘繰っていたんだ」
どうやらレティーくんは、オレを勇者ではないかと勘繰っていたようだ。
「レティーくんもその剣・・・手に取っているよね?」
だがそんなレティーくんも、聖剣アルゲースを手に取って握っている。
ならば彼こそが本当の・・・・。
「それはボクが・・・勇者の血を引く王族だからだよ・・・。
レーティシア・ルエパラ、それがボクの・・・いえ・・・わたくしの本名です・・・」
レティーくんが王族? ではレティーくんは王子だったのか? いや違う・・・オレはレティーくんの醸し出す立ち居振る舞い、雰囲気からそう悟った。
レティーくんはやはり女の子だったのだ。彼女はこの国の失踪した王女、レーティシア・ルエパラだったのだ。
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