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08:テゼルー村の肉祭り

 その日の夕方、テゼルー村では肉祭りとなった。


 この村では大物が獲れた日には、村人全員に振舞い、祭りを行うそうだ。


 しかしビッグボアなのど大物は、命の危険もあるためによほどのことがない限り、手を出さないで放置しているらしい。


 そんなわけで滅多にお目にかかれないご馳走に、村中が沸き立ち、皆大はしゃぎだ。


 ビッグボアはすでに解体され、それなりに大きな骨付き肉と化していた。

 ビッグボアを仕留めたオレとコロンには、その中でも一番大きな部位が、与えられるそうだ。

 


 ジュ~・・・・


「オレ・・・あれ一人で食べきれそうにないんだけど?」



 現在いくつかの肉が葉に包まれ、焼けた平らな石の上に置かれ、蒸し焼きにされている。

 一番小さな塊でもオレには、食べきれるかわからない大きさだ。



「しょうがないな。食べきれなかったらワタシが食べてやる」



 さすが頼りになる姉御だ。


 村人の好意を無下にできないオレには、あの肉を食べきれずに捨ててしまうなど、とうていできない行為である。



「ほら! お前たち食べな!」



 そう言って見知らぬおばちゃんに手渡されたのが、焼き上がった大きな骨付き肉だ。

 


「うん! うめえ!」


「がつがつ!」



 周囲は美味しそうにがつがつと食べているが、どうにもこのほのかに香る肉の臭みが気になって仕方ない。

 この肉の臭みが好きな人は好きなのだが、オレはどうもこの肉の臭みが苦手でなじめない。


 いつもは塩や胡椒、または調味料を使って、肉の臭みをやわらげているのだ。

 だが今回は焼く前に肉に使われた塩の量が少ないのか、肉の臭みがいつもより強い感じがするのだ。

 もちろん高価な胡椒など、この貧乏な村で使うことはないだろう。



「はむ~ん! 硬い・・・むぐむぐ・・・」



 オレは我慢して、臭みのある肉をなんとか一口食べたが、それ以降はどうにも食指が動かない。


 硬く、臭みのある、焼いた肉をなんとかするには、あの方法しかない・・・


 オレはスマホから調理台を出すと、まな板の上に焼いた肉を置いて、骨から切り外し、一口大に切っていく。


 

「おいヨッシー。何を始める気だ?」



 そんなオレの様子を覗き込みながら、コロンが尋ねてくる。

 


「オレが食べやすいように、この肉を料理するんだ」


「料理? いったいどうする気だ?」


「まあ見ていなよ」



 そんなオレの様子を見ようと、周囲に子供たちも集まってくる。

 だがオレは気にしないで作業を進める。


 次に分けてもらった野菜を、一口大に切っていく。


 通販ショップでビーフシチュー190円を購入。



 残りポイント:52726



 オレも慣れたもので、調理台の下に作ったスペースに、ピンポイントで購入した商品が出るようにした。

 まるで調理台から取り出したように、ビーフシチューが取り出せるのだ。

 このビーフシチューはルーに加工されたものだ。


 村人が囲んでいる、焚火の上に鍋を置いて、その中で野菜をいためていくのだ。

 野菜を炒めたら、小さく切った肉を入れて、水を入れて煮込んでいく。



「あんたなかなかの手際だねえ!」


「どうも・・・」


「うちの子の嫁にどうだい?」


「けっこうです・・・」



 そんなおばちゃんのひやかしを躱しつつ、オレは作業を進めていく。

 いつの間にかおばちゃんまで集まって、その作業を見ていたのだ。


 浮いてきた灰汁をとりつつ、弱火で煮込んでいく。

 最後に火を止めてビーフシチューのルーを入れるのだ。


 なかなかいい香り。さすが某有名メーカーのビーフシチューだ。



「ちょっと味見いいかしら?」



 ビーフシチューが完成まじかになると、一人のおばちゃんが横から強引に、スプーンで味見をしてきた。


 まあ少しぐらいいいんだけどね・・・



「ん!? ちょっと貴女これ・・・!?」



 すると味見したおばちゃんは、驚いたと思うと 突然恍惚の表情で、固まったまま動かなくなった。

 周囲の村人もその様子を心配そうに見ている。


 味に問題でもあっただろうか?


 オレも心配になり、ビーフシチューを器に少し入れて味見してみる。



「はむ・・・普通に美味しいじゃん・・・」



 ひさびさに食べたビーフシチューは、なんとも濃厚で上品な味がして、贅沢な気分になる。


 おばちゃんが何で固まっているかは知らないが、オレは構わず二杯分のビーフシチューを器によそった。


 

「コロンも食べるだろ?」


「おう!」



 二杯目のビーフシチューは、もちろんコロンのためのものだ。

 五人前は作ってしまった鍋一杯のビーフシチューを、なんとか消費する必要があるのだ。

 小食なオレは、器一杯でも食べきれるか心配だからね。



「はふ・・・むぐむぐ・・・」



 そしてオレは改めてビーフシチューを口に入れる。。


 肉は柔らかくなり、見事に臭みも消えていた。


 焼いて臭みが残ってしまった肉は、煮込めばなんとか食べられると、ネットで見たことがあったが、どうやら間違いなかったようだ。



「ちょっと貴女! これめちゃくちゃ美味しいじゃない!

 こんなに贅沢に調味料や香辛料を入れて・・・どこのお貴族様だい!?」



 すると再起動したおばちゃんが、そんなことを尋ねて来た。



「なんだって!? 私にも味見させなさいよ!」


「私にも!」「私にもよ!」



 するとおばちゃん連中が殺到して、どうにも殺伐とした様子となる。

 しまった・・・これどうやって収拾つけるんだ?



「皆待ってくれ!」



 そこにさっそうと現れたのはオベールさんだ。


 オベールさんはおばちゃんを押しのけ、鍋の前に立ち、何やら真剣な表情だ。



「ヨッシー。このスープの残り・・・大銀貨一枚で買い取るがどうだ?」


「何ですって!?」「ちょっと横暴よ!」



 そんなオベールさんに、おばちゃんたちの苦情が殺到する。



「ヨッシーの料理は、そんじょそこらの料理人じゃあ作れねえ味だ。

 これくらいの価格で買い取るのは当然だぜ。金のない連中は諦めてとっとと失せな」



 オベールさんはおばちゃんたちに、大銀貨を懐から出して見せつける。

 するとおばちゃんたちは、ぐぬぬ顔で黙り込んだ。

 金の力は偉大だね・・・



「おいおい! お前気でもふれたのか!?

 こんな子供の作った料理に、そんなに大金を支払うのか!?」



 そんなオベールさんの行動を、村長は信じられないようだ。

 大銀貨といえば、前世の価値で五千円くらいだ。

 それは確かにこの異世界の感覚では、ちょっとした大金だからね・・・。



「ふん! 何とでも言うがいいさ! 俺は今夜こいつで、酒を飲むんだ!」


「まいどあり・・・」



 オレがそう言うとオベールさんは、大銀貨をオレに渡し、鍋を持ってどこかへ消えていった。

 


 残りポイント:52726


 

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