06:テゼルー村周辺での狩り
「そのチビだって行くのに、なんで俺たちはついていっちゃあ駄目なんだ!?」
「先ほども言ったが、ヨッシーは普通の子供ではない。これでも一流の冒険者だ」
昼食後、狩に行くことになったが、なんと村長の息子である7歳と5歳の男の子も、狩りに行きたいとだだをこね始めたのだ。
そこでオベールさんが、男の子二人を諭し始めたのだ。
「どうしてもってんなら、お前らの親父を一緒に連れてくるんだな。
そうでなけりゃあ、同伴することは許可出来ねえ」
確か男の子二人の父親である、村長も元冒険者だったはずだ。
村長がいれば、二人の護衛をしながら、オレたちの狩りの見学ができるかもしれない。
「すぐに親父を連れてくるから待っていろ!」
「まっていろ!」
そう言うと二人は、村長がいるであろう裏の畑に二人で駆けて行った。
「それじゃあさっさと行っちまおうぜ!」
そう言うとオベールさんは、かかとを返して村の外へ向かい始める。
「え? 二人を待たなくていいんですか?」
「どうせあんなチビじゃあ許可は下りねえよ」
オベールさんは背中から手をふりふり振りながら、歩みを進める。
オレとコロンはお互いの顔を見合わせると、オベールさんの後を追った。
「お~い! 待ってくれ!?」
オレたちが村を出ようとすると、村長がオレたちを追って走ってきた。
「どういうつもりだギオ? まさかそのチビ二人を狩に連れていくつもりか?」
村長の名前はどうやら、ギオというようだ。
「そこにいるヨッシーとコロンの噂は、村にいても時々耳にしていたんだ。
噂によるととんでもねえガキらしいな? ならどんな活躍をするのか、ぜひ同じ歳くらいのこいつらに見せたくてな?」
どうやらギオさんは、オレとコロンの活躍を、子供たちに見せたいようだ。
とんでもないガキなんて言われると、悪ガキにしか聞こえないが、まあそこは黙ってスルーしておこう。
「おい。こう言っているがどうするヨッシー?」
「いいんじゃないですか?
子供たちはギオさんがしっかり守るんでしょう?」
「当然だ」
「やったぜ!!」「かりにいけるよ!」
「ち・・・。 それじゃあ子供たちの守りに、あと二人ほどよんでくるか・・・」
オベールさんはそう言うと、ちょうど近くでその様子を見ていた、レティーくんとベルトランを指名して、オレたちの狩りに加えた。
こうしてオレたちは、新たにレティーくんとベルトランを加え、狩場に向かうことになった。
「コロン。この先に六体いる」
オレがスマホで敵の位置を見ながら進んでいると、狩場の方向に魔物6体の反応が見えた。
「ああ。たぶんあの気配はゴブリンだ」
「たいしたものだな。この位置から魔物の気配がわかるのか?」
そう言うや否やコロンは滑るように、音を殺して駆け出していく。
「ば! 待てコロン! 単独行動は控えろ!」
そんなコロンを見て、オベールさんがそう静止を呼びかけるが、すでに森の中に消えて、そこに姿はない。
ゴブリンとはいえ複数に囲まれると、かなり危険であると聞いたことがある。
コロンなら大丈夫だと思うが、少し心配になってくる。
「コロンの後を追いましょう!」
オレが全員を先導し、走ってコロンの後を追う。
オレの走りは遅いので、足元につけた板を浮遊させ、スケートのように滑るように走る。
ヒュンヒュン! ズシャ! スパ!
現場へ向かうと、コロンが数度鉄の槍を振り回し、6体のゴブリンを全て薙ぎ払うところだった。
すでに5体は絶命し、一体が走って逃げ去るところだった。
チュチュチュン!!
だが逃げ去るゴブリンにも容赦することなく、コロンはその後ろから水魔法で弾丸を数発放ち、その命を刈り取る。
「なんだあの姉ちゃん! めちゃくちゃ強え!」
「あれが噂に聞くコロンの槍捌きか・・・」
それを見た村長のギオさんと、七歳の男の子が、興奮気味にそう声を上げる。
「コロン。お前が強いのはわかるが、もう少し仲間のことも考えてくれ?」
そんなコロンにオベールさんが注意をする。
この先ダンジョンで団体行動をするなら、確かにチームワークは必要になってくるだろう。
「悪いオベールのおっさん。
ヨッシーならいつも余裕でついてくるから、それに合わせていつもの調子で動いていたぜ」
まあオレがいつもコロンの位置を捕捉できるのは、スマホのおかげだがな。
「コロン。この先にも一体いるな?」
「ああ。次のはでかいな」
「おいおい! 次は駆け出さないでくれよ?」
「ああ。わかっているって・・・」
オレたちはそんな気配を追いかけながら、森のさらに奥へと入っていく。
「ブギィィィィ!」
そこにいたのは体高二メートルにもなろう、巨大なビッグボアだった。
「コロン。ここはオレに任せてくれ」
そう言うとオレは、コロンの前に滑るように出ていく。
オレはこのビッグボアだけは、どうしてもこの手で倒したかった。
それは以前の弱い自分を、払拭するためでもある。
「仕方ねえなヨッシーは・・・」
「おい! ヨッシーは魔術師だろ!? 本当に前に出て大丈夫なのか!?」
オレの戦い方を知らないギオさんが、心配になったようでそう声をかけてきた。
オレが魔術師というのは、噂ででも聞いたのだろうか?
「ブギィィィィ!」
こうしている間にも、その巨大なビッグボアはオレに向けて駆け出し、デスタックルで迫ってくる。
「アイアンアーム!!」
ガチャン!
オレはアイアンアームを出すと、突撃してくるビッグボアに、その巨大な腕でパンチを放つ。
ゴ~ン!!
「ブギッ!」
その巨大な鉄の拳が鼻に直撃すると、ビッグボアは吹き飛び、倒れ込んでお腹を見せる。
「ブギィ! ブギイィィィィ!」
それでもまだ息のあるビッグボアは、倒れたままで四本の足を激しく動かして悶絶する。
今のオレならこれくらいのビッグボアにでも、楽に勝てるようだ。
ただまだ油断はできない。倒れているとはいえ、まだ相手には息があるのだ。
オレはアイアンアームを振り上げ、そのビッグボアに再び殴り掛からんと迫る。
「まて~! ヨッシー!
お前がその怪力でビッグボアを殴り殺したら、肉がミンチになっちまう! 止めはまかせろ!」
そう叫びながらコロンが、オレの前に躍り出る。
「それもそうか・・・」
確かにオレがこのままビッグボアを殴り殺せば、獲物はぐちゃぐちゃになって、台無しになってしまうだろう。
ズシャ!!
「ブギ・・・!」
コロンは瞬時にビッグボアの首に槍を突き立て、止めを刺した。
「なんだそのでかい腕!? どうなってんだいったい!?」
「おおきい!!」
「これが噂の鉄腕か?」
気づくとギオさんと男の子二人がオレの傍にやって来て、物珍しそうにアイアンアームを見ていた。
「獲物を運び出さないと・・・」
魔物の死体をこんな場所に放置すれば、新たな魔物を呼び寄せるだけだ。
「それもそうだな・・・」
ギオさんはそう言うと、男の子二人を連れて今度は獲物を見に行く。
「でけえ! 今夜は肉か!」「おにくたべたい!」
「随分と大きな獲物だな・・・運ぶために村人を何人か呼ぼう・・・」
ギオさんがその獲物を、まじまじと見ながらそう言った。
「その心配はいりません。これくらいの獲物なら何時も運んでいますから」
オレはそう言ってギオさんの申し出を断ると、ガタクリ一号を出して、その荷台にビッグボアの亡骸を乗せることにした。
以前は獲物をスマホに収納していたんだが、生き物はファイル容量が大きく、スマホの要領を圧迫する。
なのでスマホを通じて操作する、アイアンアームなどの動きにも影響を及ぼすのだ。
そこで獲物の運搬は、安全が確認されない限り、ガタクリ一号で行うことにしているのだ。
「この乗り物はなんだ? もしかしてこれも魔法で走るのか?」
「まあそんなところです・・・」
ギオさんがガタクリ一号に興味を示し、質問してくるので簡単にそう答えておく。
さすがに巨大なビッグボアだ。アイアンアーム片手だけでは無理なので、両腕を出してビッグボアを持ち上げ、ガタクリ一号の荷台に乗せた。
「おお! 両腕とも巨大化したぞ!」
「「すげえ!」」
すると再びギオさんと男の子二人が、アイアンアームに大はしゃぎする。
らちがあかないのでアイアンアームは、すぐに二つともしまい込んだ。
「おいヨッシー。その傷どうした?」
コロンがオレの腕の傷に気づいてそう声をかけてきた。
気づくと右腕を少し切っていたようだ。その辺の枝にでも当たったのだろう。
「つばでも付けとけば治るだろ?」
オレはそう言うとガタクリ一号に乗り込み、皆がついてこれるように鈍足で発進させた。
「その傷、後でレティーに見てもらえよ」
帰り際にオベールさんにそんなことを言われた。
レティーくんの方を見ると、オレの方を見ながら笑顔で頷いていた。
レティーくんは魔術師だと思っていたが、看護師か何かなのかな?
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