05:テゼルー村
「よう! オベールじゃねえか!」
「この先のダンジョンの依頼を受けてな。村でしばらく休ませてもらおうと思っている」
オレたちはその日の昼頃、テゼルー村にたどり着いた。
テゼルー村は引退した冒険者が集まって造った村のようだ。
オベールさんの顔見知りも多いようで、村の門番を務める村人とも、気軽に声を掛け合っていた。
「よく来たなオベール! 随分と久しぶりじゃねえか!?」
オベールさんが門番と話をしていると、村の奥からもう一人の男がやって来た。
「お前こそ、そろそろ村長がいたについてきたんじゃねえのか?」
どうやらやって来たのは、この村の村長のようだ。
「なんだ今回は子連れか? お前の子ってわけじゃあなさそうだが・・・?」
村長はオレをじろじろと見ながらそう言った。
どうやら子供とは、オレのことのようだ。
コロンも十分子供に見えるのだが、この異世界の住人は、コロンぐらいの年齢を子供とはみなさないようだ。
まあコロンが子供なら、同じくらいの身長のレティーくんもベルタランも、子供ということになるけどね。
「ああちょっと訳ありでな・・・」
「ふ~ん・・・まあこの村に危険が及ばなきゃ問題はないがな」
「オレ、ヨッシーっていいます。しばらく村でお世話になります」
とりあえず注目されて、何もしゃべらないでは気まずいので挨拶しておく。
「妙に行儀の良い娘だな? 年齢はいくつだ?」
「記憶がないので年齢はわかりませんが、たぶん5歳くらいだと思います」
「記憶喪失か? そいつぁ不便だな・・・」
そう言いつつ村長は、オレの頭に手をやる。
「おいチビ! 遊んでやるからこっちにこいよ!」
「うししし!」
すると村長の後ろから、7歳と5歳くらいの男の子が出てきた。
「おい! ペル、ロン! お客様だから向こう行っていろ!」
「親父が怒った!」「にげろ~!!」
二人は村長の息子のようだ。
村長が注意すると、一目散に駆けていき、小屋の後ろに隠れてしまった。
だがいまだにこちらを覗き込んでいるので、まだオレとの接触を諦めたわけではないようだ。
「すまんな。教育がなってなくて」
「いえいえ。あれくらいの子供は、元気が取柄みたいなものですから・・・」
とりあえず相手の印象が悪くならないように、当たり障りのない言葉を返しておいた。
するとオベールさんと村長は、ぎょっとした表情で、こちらを見ていた。
オレは何か悪いことでも言ったのだろうか?
「ヨッシーは時々おっさんみたくなるんだ。気にすることもないと思うぜ」
するとコロンが、まるでオレをフォローするかのようにそう言った。
おっさんで悪かったな!
「こいつぁあ宿泊費用だ」
「ははは! 毎度悪いな! 何もない村だが、まあゆっくりしていけ!」
オベールさんが宿泊費用を村長に渡すと、村長がオレ達を家に案内する。
家は木造だが村長の家だけあって、それなりに大きな家だ。
宿泊の予定は二泊三日ということだった。
二日は旅の疲れを癒し、三日目の朝に出発するそうだ。
「ここからはそれぞれ自由行動だ。それでは解散!」
オベールさんが皆に向けてそう言うと、村長の家に留まる者、何処かへ出かけていく者と、皆それぞれに散っていった。
「ヨッシーとコロンは、これからどうするんだ?」
オベールさんはオレとコロンのこれからの行動が気になったのか、そんなことを聞いてきた。
「まずは昼食ですかね?
その後のことはこれから決めますが、どうせ狩に行くことになると思います」
この辺りの狩りは初めてだし、どんな魔物が出るか気になるところでもある。
おそらくコロンもよほど疲れていない限り、狩りに行きたいと思っているだろう。
「なら俺がこの辺りの狩場を案内してやろう。
その代わりに昼食をご相伴に預からせてはくれないか?」
オベールさんはちゃっかりした人だと思ったが、それは有難い提案ではある。
狩場を案内してくれるなら、狩りもやりやすくなるし、狩場で迷うリスクもなくなる。
「腹減ったぞヨッシー!!」
コロンのお腹がそろそろ限界なので、さっそく昼食の準備にかかる。
今回はバーベキュー用ハンゴーで、肉まんを蒸してみようと思う。
ドドドーン!
まずはスマホに収納してあるオレの家を出して、その中で通販ショップを使い品物を購入する。
肉まん&あんまん&ごまこしあんそれぞれ4個入り3セット1980円を購入。
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12個の肉まんを全て器に移すと、何事もなかったように肉まんの入った器を持って外に出る。
「ヨッシー。焚火は用意できたぜ!」
オレが外へ出ると、すでにオベールさんとコロンが二人で、焚火を用意してくれていた。
バーベキュー用ハンゴーはこのままでは蒸し器としては使えないので、メタセコを使い、ハンゴーの中にセットできる鉄網を作っておく。
バーベキュー用ハンゴーに水を入れて、その上にこの鉄網をセットするのだ。
「随分と白いパンだな? 収納魔法にでもしまい込んでいたのか? そのままでは食べられないのか?」
オベールさんが中華まんを見てそう尋ねてきた。
まあ収納魔法の件は嘘なので、そのままスルーしておいたほうがボロが出なくていいだろう。
「食べられなくはないですが、蒸した方が数段美味しいですよ」
この中華まんは冷凍ではなく、そのまま食べられる中華まんなのだ。
だが中華まんもレンジなどで温めたり蒸した方が、美味しさは増すはずなのだ。
オレはバーベキュー用ハンゴーの中の網に、まずは肉まんを三つ並べて、蓋をしてそのまま火にかけた。
肉まんは五分ほどで蒸し上がるそうなので、スマホで時間を確認しながら待つことにする。
「この辺りの森には、ゴブリンやウルフ、ビッグボアがよく目撃されるな」
肉まんを蒸している間に、ここらに出現する魔物についてオベールさんに聞いておく。
あれから小さなボアなどには遭遇したが、ビックボアには遭遇したことはなかったのだ。
あのころのふがいない自分を払拭するために、ぜひもう一度ビッグボアには挑んでみたいものだ。
「どうやら蒸しあがったみたい。熱いから気を付けてね」
オレは蒸しあがった肉まんをそれぞれの皿に乗せると、コロンとオベールさんに差し出した。
「はふはふ・・・美味い!!」
「ふ~ふ~! はむ・・・!
う~ん! 熱いがこれは絶品だな! 酒が無いのが悔やまれるぜ!」
肉まんを渡すと、二人は慌てて肉まんに食らいつく。
「ふ~! ふ~! はむ・・・・」
オレもさっそく久々の肉まんに食らいつく。
「あち! あち! 美味・・・」
火傷するくらい熱いが、やはり肉まんはいつ食べても美味しい。
「あああ! お前らなに食べてんだ!?」
「たべてんだ!」
するとそのタイミングで、先ほどの7歳と5歳の男の子が出てきた。
「お前らはやめとけ。
これ食べて夕食が入らなくなったら、親父にどやされるぜ?」
それを聞いて思ったが、中華まんにはあとあんまんと、ごまこしあんがあるのだ。
オレもこの大きさの中華まんを、あと二種類も食べるのは難しいかもしれない。
今のオレは随分と小食になっているのだ。
「狡い! 狡い! 俺もたべてえ~!!」
「おれもだ!」
この村では一日二食が普通で、お昼などは食べないそうなので、育ち盛りの男の子二人はお腹が空いているのかもしれない。
まあオレも食べきれないし、ここはこの二人に押し付けるのも手かもしれない。
「しかたありませんね。オレの分を分けてあげますので、それで我慢してくださいね」
オレは仕方なくを装いつつ、肉まんを三つに切り分けて、二人の男の子にも肉まんの三分の一を渡した。
「はふはふ! 何だこれ初めて食う味だ! めちゃくちゃ美味え!」
「はふはふ・・・うめえ!」
「あんまりガキを甘やかすとつけあがるぜヨッシー」
その様子を見ていたオベールさんからそんな注意を受けるが、オレの胃袋のためには、これが最善の選択なのだ。
「あと甘いのが二種類ありますけどどうします?」
「食いてえ!!」「たべる!!」
「くれ!!」
「俺は甘いのは苦手だが、味は気になるから一かけらだけくれ」
ならあとはオレとオベールさんと子供ったちで四分の一ずつ食べて、コロンには一個ずつでいいかな?
オレはさっそくあんまんと、ごまこしあんをハンゴーに入れて蒸した。
そしてコロンにあんまんと、ごまこしあんを渡し、残りは四つずつに切って配った。
「おい!? この甘さはそうとう砂糖が入っているだろ!」
この異世界では砂糖は貴重で、お菓子にもほとんど入っていないので、ほんのり甘く感じる程度が普通なのだ。
それに比べるとこのあんまんとごまこしあんは、相当甘く感じるのかもしれない。
「砂糖はお貴族様の食べ物だぞ! なんで砂糖なんて持っているんだ!? お前お貴族様か!?」
「にいちゃんあまくておいしい!!」
「ヨッシーはそんなでも、俺たちの街では一番の稼ぎ頭だからな。砂糖が沢山買えるくらい稼いでいるんだろうよ・・・」
「信じられねえ!? こんなチビが!?」
あんまんとごまこしあんに入っている砂糖は、オレが買ったものではないので少し心苦しいが、この異世界でこのあんまんやごまこしあんを作ったら、いったいどれくらいの費用がかかるんだろうな?
「ちょっとあんたたち! 何勝手に食べてるのさ!?」
「ずりいっすよリーダー!」
結局その後にやってきた希望の盾のメンバーにも、中華まんをふるまい、中華まんは綺麗さっぱりなくなったよ。
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