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16:乱戦


「ほう? 食事中である冒険者のオレたちを、矢で射てくるとはなんという蛮行でしょうか?」



 オレは大げさに身振り手振りつけながら、矢を射てきた下にいる騎士に、そう言った。

 奴らが先に攻撃してきた。オレたちにはその事実が必要だったのだ。

 これでオレたちの正当防衛は成立した。


 現在オレとコロンは、冒険者パーティーの希望の盾のメンバーと、森の中の野営地に砦のように塀を造りそこに隠れていたのだ。


 それは他領の騎士が、オレを狙ってこのラベナイの街まで来たからだ。


 いままさにその騎士が、粗暴な冒険者を引きつれ、その野営地にやって来たところだ。


 そしてオレが塀に造った門の上に、コロンとともにいたところ、オレとコロンがおやつを食べていたのが癇に障ったのか、弓矢で矢を射てきたのだ。


 その矢は今しがたコロンが素手で掴み取ったのだがね。



「そんな事実、貴族の力でいくらでもねじ伏せてくれるわ!」



 すると下にいた騎士はそう返してきた。


 やはりそう来ましたか。

 しかし何とでも言うがいいさ。こちらには領主であるトムさんの信頼が厚い、冒険者の希望の盾がいるのだ。

 悪い噂の多い他領の騎士と、信頼している冒険者、トムさんが果たしてどちらを信用するだろうか?



「それでは門の向こうで待っていますよ。門が開くといいですね!」



 オレはそう言うと、コロンとともに浮遊する板に乗り、再び門の下へと降りて行った。


 騎士たちはこちらを、ぐぬぬ顔で眺めるばかりだった。





 第三人称視点~



「「よおおお~いしょ~おおお!!!」」


「もっと力を入れんか!! 奴らは我らをあの門の向こうで、せせら笑っておるのだぞ!!」



 何度押せどもびくともしない、その門の様子に、グレゴワールが激高して叫ぶ。



 ゴゴゴゴ・・・・



 すると突然その巨大な門は、音を立てて開き始めたのだ。



「よし! お前たち進め!」



 それを機にグレゴワールが、全員に前進の命令を下す。



「お止めくださいグレゴワール様! これはきっと罠です!」


五月蠅(うるさ)い! 貴様はこの俺に意見する気か!?」



 部下の騎士が止めようとするが、頭に血が上ったグレゴワールは、その言葉に全く耳を貸そうとはしなかった。



「仕方ない! お前たち、何が起こっても対処できるように、グレゴワール様の周囲を固めろ!」


「はっ!!」



 その言葉とともに、騎士たちがグレゴワールの周囲をかため、グレゴワールとともに前進する。

 それに続いて粗暴な冒険者たちも、塀の中になだれ込んだ。



 



「ははは! 良く来ましたね! 他領の騎士たちよ!」



 グレゴワールが騎士と冒険者を全員引き連れて中に入ると、そこにはヨッシーが入っていると思われる鉄のゴーレムと、目を赤く光らせる、魔族のコロンがいたのだ。





 ヨッシー視点~



「コロン。これで良かったの?」


「ん!!」



 コロンは満足したように、そう頷いた。


 実は当初騎士と粗暴な冒険者たちは、何もしないでこの塀の中に閉じ込める予定だったのだが、コロンが騎士と戦いたいとごね始めたのだ。


 こうしてオレとコロンは、塀の中で待ち伏せすることになったのだ。

 ちなみに冒険者の希望の盾は、すでに裏戸から塀の外に出ている。



「それじゃあ始めますか! よっと!」


 ドン! ドン!



 オレはスマホを操作すると、前にある門と、裏戸に巨大な長方形の岩を設置して、出られないように道を封じた。

 万が一にも『開けゴマ』とうい呪文を誰も唱えないだろうが、もしもという時もあるので、オレはそうした処置を施したのだ。



「馬鹿め! これではお前たちも、この囲いからは出られないぞ!」


「それはどうでしょうか?」



 オレは偉そうな騎士に、不敵な笑みを浮かべながらそう返した。



「まあいい!! そのアイアンゴーレムの中にいる少女を捕らえろ!!」



 偉そうな騎士がそう命令すると、粗暴な冒険者たちがロープを準備して、オレの周囲を囲み始めた。


 ロープをいっきにオレの鉄のゴーレムにひっかけて、動きを封じるつもりのようだ。

 それは大物を仕留める時の、冒険者の常套手段と言っていい。



「そっちは任せたぞヨッシー!」


「うん! コロンもあまり無理はしないでね!」



 そんなオレを尻目に、コロンはオレの肩を踏み台にして、空高く飛び上がった。


 どうやら狙っているのは、一番偉そうにしている騎士のようだ。


 オレもそんなコロンに続いて、鉄のゴーレムを少し浮遊させ、滑るように移動させる。

 


「何!」「見た目よりも早いぞ!」



 オレにひっかけようと投げてきたロープが、いくつも空を切って地面に落ちる。



 ガガガーン!!


「「ぎゃああ!!!」」



 前方にいた粗暴な冒険者数人に、そのまま体当たりを喰らわせて吹き飛ばす。

 奴らも武器を持ち、オレを捕らえに来たのだろうから、これで死んだとしても文句は言えまい。

 まあこれくらいで、この異世界の冒険者が死ぬとは思えないが・・・。

 


「ぎゃ!」



 その時カエルをつぶしたような声が、オレの前方から聞こえた。


 どうやら油断して馬に跨ったまま、止まっていた偉そうな騎士が、コロンの鉄の槍で叩かれ、あっという間に落馬したようだ。


 

「この・・・ぐあ!!」



 そしてもう一人の騎士がコロンを槍で突こうとして、槍を掴まれて、そのまま引っ張られて落馬した。


 あっという間に馬上の騎士を、二人も倒すなんてさすがはコロンだ。



「うおお~!!」



 雄たけびを上げつつ、オレも負けじと突撃を再開する。

 今度はそこから旋回して、再び粗暴な冒険者の集団を狙う。



「また来たぞ!」「逃げろ~!!」



 それを見ると粗暴な冒険者は、いっせいに逃走を開始した。



 



 第三者視点~



「ヨッシー!! こいつら思ったよりも弱いかも~!!」



 コロンはヨッシーに大声でそう伝えた。

 するとヨッシーは暴走しながらも、鉄のゴーレムの腕を振り上げ、その言葉に答えた。



「この無礼者が!!」


 パカラッ! パカラッ! パカラッ・・・・



 それに激高した騎士が、コロンに槍を向けて突撃を開始した。

 その騎士とは距離があったので、かなり助走もついて、危険な突撃だ。



 ダッ!



 しかしコロンはその騎士の頭上に、体操選手のように回転しながら飛び、その突撃を回避する。



 バキ!


「がっ!!」



 そして飛び越える刹那、騎士の顔面を鉄の槍の柄で殴打したのだ。


 これで四人いる内の、三人の騎士が落馬した。


 落馬した騎士は、痛みで動けないのか気絶しているのか、立ち上がる気配はない。


 その様子を残された最後の騎士は、ただ何もできずに見るばかりだ。



「馬鹿者! 貴様も攻撃せんか!?」



 すると意識がもどったのか、グレゴワールが騎士にそう叫んだ。



「ひっ! は、はい!!」


 パカラッ! パカラッ・・・・



 すると最後に残った騎士も、無謀な突撃を開始した。

 


 バキ!


「ぎゃ!」



 そして最後の騎士が落馬した。





 ヨッシー視点~



「コロン! そいつらの持っているロープは、回収しておいてね! この塀をロープで脱出されても面倒だから。」


「おう!」



 現在オレとコロンは、逃げまどう冒険者たちを追い回している。

 

 

 ガンガンガンガン・・・!



 オレも低空飛行移動を止めて、すでに普通に走りながら冒険者を追いかけている。

 低空飛行移動は、スマホの充電残量を思いの他くうのだ。


 鉄のゴーレムの走りは鈍重だが、すでに騎士を全員倒したコロンがこちらに参戦しているので、奴らを追い立てるだけでも、コロンが勝手に倒していく。



「これで最後かな? もうロープを持った奴はいないかな?」



 オレとコロンは、周囲で倒れている騎士や冒険者、なすすべなく呆然と立ち尽くす冒険者を見回す。



「ああ。全部ロープは回収できたみたいだぜ!」



 コロンがそう言うと同時に、オレも確認を終えた。


 

「コロン! オレの肩に乗って!」


「おう!」



 オレがコロンにそう言うと、コロンはオレの鉄のゴーレムの肩に飛び乗ってくる。

 このまま鉄のゴーレムを浮遊させて、塀を越えて外に出るつもりなのだ。



「待て! ヨッシー!」



 すると偉そうな騎士が、不意に声をかけてくる。



「貴族である俺を、こんな目に遭わせてただで済むと思っているのか!?」



 偉そうな騎士は、そう声を荒げて脅しをかけてくる。



「え? 何処に貴族がいるんでしょうか? 幼い冒険者の寝床に押し入り、あまつさえ武器を振り回した貴方たちは、悪漢には見えても、とても貴族には見えませんよ?」


「な、なんだと!? 俺は寝床に押し入ってなど・・・!」


「何を言っているんですか? この塀の囲いは、寝床にするために、オレが造ったんですよ? 現に昨日はこの中で一夜を明かしていますし・・・。この囲いの大きさについては、なにゆえ幼い身ですので、調整を誤ったとしか言いようがありませんが・・・」



 まあ、野営地に造る寝床にしては、大きすぎるのは否定しない。 



「ふ、ふざけるな! 俺はパーシヴァル伯爵家の三男、グレゴワール・ド・パーシヴァルだぞ! それはこの周囲の者たちも証明してくれるはずだ!」


「証明ってこの周囲に転がっている悪漢たちがですか?」


「き、貴様・・・!」


「貴方たちの領地では知りませんが、このギーハテケナ領では、貴族であっても冒険者を襲撃すれば、悪漢として裁かれるんですよ?」


 

 この世界の法律の基準は、その領地の領主の采配にゆだねられている。

 オレはこのギーハテケナ領の領主である、トムおじさんの人柄にふれて、彼は例え貴族であっても、犯罪を犯す連中を見逃すはずはないと思っている。



「とりあえず知り合いのバートム伯爵にでも報告しますか?」



 そう言い終わるとオレは、コロンを肩に乗せ、鉄のゴーレムを浮遊させて、塀を乗り越えて、囲いの外に出ていった。


 偉そうな騎士はそんなオレたちを、ただ悔しそうに、見つめるばかりであった。



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[気になる点] >俺はパーシヴァル伯爵家の次男 記憶違いだったらスマンのだけど、いつぞやの副団長ってクズは三男じゃありませんでした?
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