14:迫りくる他領の騎士
「大変だ! 例の騎士がこちらへ来るぞ!」
翌朝になると、けたたましく叫びながら、冒険者らしき男が、そう野営地に伝えてきた。
現在オレとコロンは、オベールさん率いる希望の盾のメンバーとともに、オレを探しに来たという他領の騎士から身を隠すために、森の中の野営地にいたのだ。
「ちっ! 奴らなんでこの場所がわかった?」
オベールさんが野営地に、オレが設置した塀から出て、冒険者に対応する。
どうやらその冒険者は、希望の盾のパーティーメンバーの1人のようだ。
「例のいけすかねえ冒険者どもが、騎士を先導していやがる!
奴らの中には獣人もいて、どうやらヨッシーのにおいを覚えちまっているようだ!」
「そいつはやっかいだな・・・。で、その人数は?」
「20とちょっとだ!」
「この街にいるクランの四分の一もいねえようだな? いきなりのことで、対応にもたついているのかもしれねえ・・・」
会話の内容からすると、どうやらオレのにおいを嗅ぎつけた、他領の騎士に味方する冒険者達が、20人ほどでその騎士を先導してきているみたいだ。
「ここが見つかっちゃたんですね、オベールさん」
オレは朝食を中断して、開け放たれた門から顔を出す。
「おう。ヨッシーか。さっそく逃げる支度をしねえとな?」
「その必要はないんじゃないですか?」
オベールさんはここから逃げる算段を立てているようだが、オレには別の考えがあった。
「皆集まれ! この野営地が奴らに見つかった! 冒険者も20人ばっかし味方につけているようだ!」
オベールさんは塀の中に戻ると、皆に集合をかける。
丁度皆朝食も終わり、くつろいでいるところだった。
オレも早く手元にある硬いパンを、食べつくさないといけない。
むぐむぐ・・・硬い・・・
「それじゃあすぐに逃げる支度を・・・!?」
「ちょっとまて・・・」
ライザさんがその声に反応してすぐに動こうとするが、オベールさんが、その行動を手で静止する。
「皆聞け! ヨッシーに考えがあるそうだ!」
オベールさんがそう言うと、いまだにパンをむぐむぐやっているオレに、皆の目が注目する。
「むぐむぐ・・・。奴らをこの塀の中に誘い込んで、閉じ込めようと思います」
オレの設置したこの塀は高さが10メートルはあり、なおかつ厚さが1メートルと堅牢だ。
この中に奴らを閉じ込めてしまえば、どんなに人数が多かろうが、手も足も出ないだろう。
「ほう? どうやって奴らを中に引き込むつもりだ?」
オベールさんが、その作戦の詳細を尋ねてくる。
「むぐむぐ・・・。オレとコロンが奴らの相手をしますよ。その間に貴方たちは、裏の隠し扉から逃げてください。ひらけ~裏のゴマ!」
ズズズ・・・
オレがそう唱えると、裏の隠し扉が、音を立てて開いた。
「ほう? こんなところにも扉を隠していたのか?」
オベールさんは感心したように、その扉を見回している。
「でも他領の騎士をここへ閉じ込めたりして平気かしら?」
ライザさんの懸念しているのは、他領の騎士を閉じ込めて、犯罪行為あたらないかということだろう。
「こちらに正当防衛を主張する大義名分があれば、閉じ込めても問題はないはずだ」
ほうほう・・・なるほど・・・。
「じゃあオレが野営地に建てたこの建物を、騎士たちが攻撃したらどうなります?」
オレは巨大な石の塀を指し示しながらそう言った。
「ん~・・・? これなら寝床を急に攻撃されたと、主張することも出来るかもしれんな? だが貴族は狡賢いからな。後で事実を捻じ曲げたりもしてくるぞ?」
いくら正当防衛が成立しても、あとで無礼討ちだったとか言われれば、どうねるかわからないね。さらに先に攻撃したのが、こちらなどと言われては目も当てられない。
「ま・・・大丈夫じゃないですか?」
「それはなぜだ?」
「閉じ込めた証拠は、残りませんから。むぐむぐ・・・」
オレがそう言うと、オベールさんはなぜか遠い目で、明後日の方向を見ていた。
「騎士がやってくるぞ!!」
けたたましく声を上げながら、二人の冒険者がオレの建てた塀の中へ駈け込んで来た。
オベールさんによると、駈け込んできた二人の冒険者は希望の盾のメンバーで、今まで他領の騎士の様子を見張っていてくれたようだ。
オレもあの二人なら、数日前の模擬戦で目にしている。
確か斥候のカンタンさんと、魔法戦士のイスマエルさんだ。
「閉じよ~ごま!」
ゴゴゴゴ・・・
二人の冒険者が中に入ると、オレは呪文を唱えて正面の門の扉を閉じる。
ちなみにすでに野営地に設置したドーム状の建物や、トイレは回収済みである。
現在塀の内側は、広々として閑散としている。
「ん~・・・どれどれ?」
オレは木の板に乗ると、それをエレベーターのように浮上させて、十メートルの高さから、塀の外の様子を窺う。
「ヨッシー! 外の様子はどうだ!?」
下の方からオベールさんが、オレの見た様子を尋ねてくる。
「お? もしかしてあれかな?」
オレが遠くを眺めていると、走る大勢の冒険者の後ろに、馬に跨る騎士が数人いるのが見えた。
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