12:知らせに来た冒険者
「キュイィィィ~グルルル!」
「またネズミか~」
その日オレとコロンは、トムおじさんの言っていたグランドクラブなる巨大蟹を求めて、ラベナイ近辺の森を探索していた。
しかし出るのはフォベロドンとよばれる巨大なネズミばかりで、本命のグランドクラブには、いっこうに遭遇する気配はなかった。
フォベロドンは体長1.5メートルにもなる巨大なネズミで、その鋭い前歯には毒をもつこともあり、冒険者に恐れられる魔物でもある。
だがオレ達にとって、それはたいした魔物でもなかった。
「ヨッシー! 油断するな! 三頭いるぞ!」
「あいよと・・・アイアンアーム!!」
オレはコロンの注意を聞きながら、アイアンアームを起動する。
「おりゃああ!!」
ドカドカドカ!!
そしてフォベロドン三頭を、一気に腕を振り回して殴り飛ばした。
三頭は木や地面に強く体を打ち付け、これでしばらく動けなくなるのだ。
巨大ゆえにその体重も重く、打ち付けたときのダメージも大きいようだ。
「えいや~!!」
ズシャ! ザク!
そして動けなくなったフォベロドンを、コロンが槍で一突きにして倒していくのだ。
この流れ作業で、本日三度目のフォベロドンとの戦闘が終了した。
「三頭をガタクリに積んで、また換金しに戻ろう」
「おう!」
オレはアイアンアームでフォベロドンを持ち上げて、ガタクリ一号に積んでいった。
このネズミ一頭が金貨一枚にもなるから、一頭も無駄にできないのだ。
フォベロドンは臭みはあるが、ボアに近い味がして、街でも人気の高い食材の一つだ。
おもに干し肉として加工され、露店に並んでいるのをよく目にする。
このラベナイの森では、フォベロドンとの遭遇率が非常に高い。
そのため今日のオレ達の報酬は、この三頭を合わせれば、すでに金貨八枚にもなっているのだ。
「なかなか出ないねグランドクラブ。この次は中海の近辺まで行ってみる?」
「う~ん・・・。あの崖を登れるような奴は、なかなかいないと思うんだがな?」
ラベナイの森に面した中海は、切り立った崖の下にあり、そこをよじ登るのはあの巨体では、なかなか難しく感じた。
もしかしたら抜け道が崖のどこかにあるのかもしれないが、中海の周囲はなかなかの距離があるようで、全て調べつくすには骨が折れそうだ。
「おおお~い! ヨッシー! コロン!」
しばらくガタクリ一号にフォベロドンを積んで進んでいると、向こうから冒険者が来るのが見えた。
「えっと・・・誰だっけ?」
「オベールだ。数日前に模擬戦をしたろ?」
オレは忘れていたが、コロンはその冒険者の顔を覚えていたようだ。
確か数日前に、冒険者パーティーとオレ達の実力を確かめるために、模擬戦をした記憶がある。
彼はたしかそのパーティーのリーダーをしていた男だった。
「えっと・・・その三人はレティーくんとライザさんと・・・?」
「ベルトランだ!」
オレはどうやら人の名前を覚えるのが苦手なようだ。
彼は数日前に同じく模擬戦で戦った、戦士のベルトランだ。
そしてもう一人は印象に残ったので覚えていたが、男の娘のレティーくんだ。
彼は服装から、おそらく魔術師であろうと予想できる。
そしてライザさんは大人の女性の魔術師だ。
模擬戦の時に、魔術師と言っていたので間違いない。
この人の魔法もまだ見ていないが、女性の魔術師ということで印象に残っていた。
やって来たのはその四人だ。
「実はお前達に話がある」
オベールさんはかしこまった様子でそう言った。
「ほん?」「何でしょう?」
「このラベナイに、ヨッシーを尋ねて、パーシヴァル領から四人の騎士が来ている」
パーシヴァル領といえば、オレとコロンがここへ来る前にいた領地の名前だ。
オレとコロンはその領地のお抱えになるのは御免だと、パーシヴァル領を飛び出して、現在このギーハテケナ領のラベナイの街にやってきたのだ。
まさかこんな場所まで追いかけてくるとは・・・。
「オレ達はその騎士には会いたくないのですが、どうすればいいでしょう?」
「そう言うと思って、知らせに来たのだ」
おや? どうやら彼らもオレ達の気持ちを知ってか、助けてくれるつもりのようだ。
「よく聞け・・・。この先に俺達が新人教育によく使う野営地がある。騎士達が街を出るまで、その野営地にこもっていると良い。俺達も同行するので、野営には問題ないだろう」
野営か・・・。まあ食料はこの巨大ネズミも沢山あるし、通販ショップでも購入出来る。野営地にこもるのには問題ないだろう。
「ところでその妙な乗り物は何だ?」
どうやらオベールさんはガタクリ一号が気になっていたようで、尋ねてきた。
「ああ。こいつはオレの魔法ですので、気にしないでください」
オレはその質問に、当たり障りのない返事で答えておく。
「これが魔法?」
ライザさんは胡散臭そうな顔で、ガタクリ一号をあちこち見て回っているようだが、そこは面倒くさそうなので見ないふりをしておく。
「フォベロドンを一日で三頭も狩ったのか!?」
「すごい! 一日で二頭も狩れればいい方なのに!」
レティーくんとベルトランはガタクリ一号に積まれているフォベロドンが気になったようだ。
実は八頭目であることは黙っていよう。
そしてオレとコロンは、三人の冒険者に案内されて野営地へと向かった。
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