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11:突然の来訪者


第三人称視点~



「昨夜のフロランスとヨッシーの様子はどうだった?」



 翌朝バートム伯爵は、昨晩娘のフロランスとその遊びの相手をしていたヨッシーについて、フロランスのお付きのメイド、リュシーを執務室に呼び出して、その様子を尋ねていた。



「大変仲睦(なかむつ)まじく、遊んでおられましたよ。

 ただヨッシー様が、綿で出来た、特殊な人形をお嬢様に贈られまして・・・」


「綿で出来た人形だと? それはいったいどのような物だ?」



 リュシーの言う綿の人形とは、ヨッシーがフロランスに贈ったドレスを着た女の子のぬいぐるみであった。



「こう・・・綿の生地を縫い合わせて作った物に、綿を大量に詰めたような女の子のドレス人形で、ヨッシー様が魔法で作られたようなのです」



 リュシーはヨッシーの出した人形の特徴を、身振り手振りを交えて、バートム伯爵に伝えた。



「綿の人形だと? しかも綿を大量に詰めているのか? またそれは随分と酔狂な人形を作ったものだな。しかも魔法で作りだしたのか・・・それを?」



 この世界では綿は貴重で、綿を子供の玩具に使おうとする者など、まずいなかったのである。



「あの・・・それとこちらを・・・」


「ん? それはなんだ?」



 リュシーが次にバートム伯爵に差し出したのは、小さなビニールの袋に入った一粒の飴玉であった。



「これはなんだ? 宝石か? 随分と奇妙な袋に入っているな?」



 バートム伯爵が透明のビニールの袋を奇妙と称したのは、この国にはビニール袋のような、透明な袋は存在しないからである。



「それはヨッシー様が魔法で出された、ドロップというお菓子なのだそうです。

 昨日それをヨッシー様が、お嬢様や周囲にいた皆様に振舞われまして、見本にと一ついただいておいたのです」


「なるほど・・・。これは砂糖を固めて、何かで染色しているのだな?」


「おそらくそれは緑ですので、高級なフルーツの味がするかと思われますが、わたくしはそのフルーツの味を、存じ上げないのでございます」



 リュシーは過去に、調理場に運び込まれた奇妙な編み目のある緑の果物を、一切れだけ食したことがあったのだ。


 その味がメロンの味であるなどと、リュシーは知らず、ただ高価であると聞いたその果物を、高価なフルーツと表現したのだ。


 この国ではメロンは栽培されておらず遠く南国の方から、運び込まれる高級品なのだ。



「ほう? では私もこれを、食してみようではないか。この袋はどうやって開ける?」


「この袋はこうやって、こう開けます・・・」



 リュシーから手を貸り、袋を開けたバートム伯爵は、その緑の飴玉を指で摘まみ、匂いから確かめ始める。



「ほう? これは南国から持ち込まれたフルーツの香りに似ておるな? 確かあれはメロンといったか? どれ・・・カプ・・・」


 

 バートム伯爵は、緑の飴玉を口に含み、舌で転がし始める。



「やはり砂糖か・・・。砂糖ほどの高級品が、魔法で作れると知れれば、争いしか起こらんぞ!? まったくあの娘は・・・」



 バートム伯爵は腕を組み呆れた表情でそう言った。

 

 そしてあの特殊な娘を、これからいったいどう導いていけばいいものかと、思案する。



 トントン!


「入れ!」



 その時バートム伯爵の執務室のドアが、ノックされる。



「バートム伯爵! パーシヴァル領より、四名の騎士が、使者として参っております!」



 部屋に入ってくるなり、兵士はバートム伯爵に要件を述べる。



「パーシヴァル領だと? ヨッシーとコロンがここへ来る前にいた領地だな?」



 そしてその要件について、バートム伯爵は思考する。


 おそらく使者の騎士は、ヨッシー目当てでやって来たと思われる。

 幼く強大な魔術を使うヨッシーは、どこの領地であっても喉から手が出るほど欲しい人材に違いないからだ。


 強大な魔術師は希少であるし、富を生む金の卵である。

 そして幼いとくれば、なんでも言いなりとなり、御し易いと思われているからである。



「その騎士の名は?」


「副団長と名乗る男が、グレゴワール・ド・パーシヴァルと名乗っておりました!」


「パーシヴァルだと?」



 その名を聞いたバートム伯爵の表情が曇る。


 騎士四名が自分以下の貴族であれば、追い返すのもたやすいことであったが、騎士の中には明らかにパーシヴァル領の領主一族と思われる名前があったのだ。



「これは会わぬわけにはいかぬな・・・」



 パーシヴァル領の領主、ブライトウェル・ド・パーシヴァル伯爵は、バートム伯爵と家格は同等だが、現在王族より最も懇意にされている人物の一人であった。


 そんな人物の一族の者を、一度も会わずに追い返すことは、立場的に出来なかったのである。





「これはこれはバートム伯爵。お初にお目にかかります。私はグレゴワール・ド・パーシヴァルと申します。パーシヴァル領の騎士団の副団長であります」



 使者である騎士に面会を許可すると、さっそく太々しく笑う若い青年が、三人の騎士を引き連れて、執務室に入ってきた。



「要件は何かな?」


「そちらの領地に、ヨッシーという子供の魔術師がきているはずです。彼女はうちの領地の領民でして・・・。ぜひ返していただきたいのです」



「ヨッシーは冒険者で、決まった土地を持たない風来坊であるはずだ。そのヨッシーがパーシヴァル領の領民であるとはおかしなことを言う」

 


 バートム伯爵は、グレゴワールの話を聞き、そう返答した。



「ヨッシーは我が領で、オークを何百も仕留め、貢献いたしましたので、当家の魔術師としてお抱えしたのでございますよ。この通り、書面による手続きもしています」


「本人の確認のための指紋が押されていないが?」



 グレゴワールの言うお抱えとは、パーシヴァル伯爵が勝手に言い出したことで、ヨッシー本人の承諾は得ていなかった。

 そのため書面上のみの勝手な決定となっており、確認のための指紋など、見当たらないのである。



「そ、それは手違いがありまして、これから押してもらう予定なのです」


「これでは認められない。お引き取りを・・・」



 バートム伯爵はグレゴワールに冷たくそう言い放つと、部屋からの退出を勧めた。



「そ、そういうことでしたらこちらにも考えがあります! 失礼いたします! おい! お前ら行くぞ!!」


 ドカン!!



 グレゴワールはいら立ちまぎれに、ドアを乱暴に開け放って行った。



「あのような手合いは無茶をするからな。悪いが誰か『希望の盾』を呼んでくれ」

 


 バートム伯爵は信頼のおける冒険者の希望の盾を、ヨッシーへの連絡と補助を請け負ってもらうために、屋敷へと呼び出したのであった。



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[気になる点] リュシーさんは、メロンを存じ上げなくて? 過去に一切れだけ食した事が有る? どっちなのよ? と思ってしまった。 まぁ飴のそれとは味が違ったのかも知れんが。
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