表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/180

10:貴族の子供部屋


「ヨッシ~。おにんぎょうあそびしよ~」



 フロランスちゃんが、棚の上にある人形を指さしながら言った。

 

 現在オレは、フロランスちゃんの遊び相手をするために、フロランスちゃんの部屋に来ている。


 その部屋は貴族のご令嬢の部屋というには質素な感じがする。

 レンガで出来た壁で、石が敷き詰められたような床に、地味な絨毯が敷いてある。


 オレとフロランスちゃんは、その絨毯の上に座り込んでいるのだ。

 ちなみにコロンは、壁にもたれかかってこちらを見ている。


 監視のためか、ローレッタさんとこの家のメイドも後ろに控えて、こちらの様子を窺っている。


 そしてベッドは期待していたお姫様ベッドではなく普通のベッドだ。

 オレの滞在先のブラハムさんのところのベッドよりは数段良くは見えるが、正直前世でオレが寝ていたベッドと、そんなに質は変わらない気がする。


 現在夕方前で外は少しまだ明るい。ローソクが灯してあるが、それでも部屋の中は薄暗く感じる。



「フロランス様。そのお人形は部屋の飾りですので、気軽に触れてはなりません」


「え~! どうちて! ふりゃんそのおにんぎょうで、よっし~とあそびたいのに!!」



 その人形を見ると、フランス人形のようで少し怖い。

 紙粘土のようなもので固めて作ったのだろうか? それとも陶器かな?

 落としたら割れてえらいことになりそうだ。



「フ、フロランス様・・・」


「ふりゃん!!」



 オレがフロランスちゃんの名前をよぼうとすると、フロランスちゃんがほっぺたを膨らませながらそう言葉を遮ってきた。

 きっとフランと、愛称でよんでほしいのだろう。



「フ、フラン様」


「あい!」



 するとフロランスちゃんはにこやかに返事をする。

 どうやら正解だったようだ。



「あのお人形は、すぐに割れてしまうでしょう。

 あれが割れたらメイドのお姉さんは、このお屋敷を追い出されてしまうかもしれませんよ?」


「ちょうなのリュシ~?」



 するとメイドは青い顔で何度も頷いた。

 まああのトムおじさんのことだから、解雇にはしないだろうけど、叱られるんだろうね。



「う~ん・・・。リュシ~がいなくなるのはいやだけど・・・おにんぎょうであそびたいよ~・・・」


「わかりましたフラン様。そのお人形については、オレがなんとかしますよ」


「え~! ほんとうヨッシ~!」


「男に二言はありません!」


「ヨッシ~おんなのこじゃん!」



 そうでした。



「おいヨッシー。あの魔法は気軽に使うな」



 するとコロンが注意してきた。



「わかってるってコロン。えっと・・・ローレッタさん、それからメイドのリュシーさんでしたっけ?」


「何か用かしらヨッシー?」


「どういったご用向きでしょうか?」



 オレが二人にそう声をかけると、二人は耳を傾けて聞いてきた。



「オレはフラン様に、遊ぶための人形を出して差し上げたいんですけど、二人はどう思いますか?」



 先ほどトムおじさんに、何か贈り物として出す時は、信用できる者に尋ねるようにと言われたばかりだ。オレは念のためにそれを実行したのだ。



「例えばどのようなお人形でしょうか?」



 メイドのリュシーさんが、そうオレに尋ねてくる。



「プラスチックの・・・えっと、この前ブラハムさんにお売りしたコーラの器ような素材で作られた人形なんですけど・・・」



 オレが一番に考えたのは、女の子に人気の高い、プラスチック製の着せ替え人形だ。



「あれは駄目よ。小さな女の子が、あんなアーティファクトに該当するような素材の人形で遊んでいるのはおかしいでしょ?」



 するとローレッタさんから物言いがついた。

 子供が遊ぶなら丈夫で安全なプラスチック製がいいと思ったのだが、この世界の子供が遊ぶには、あまりよろしくないようだ。



「じゃあ綿で作ったものならどうですか?」



 オレは次にぬいぐるみを提案してみる。

 実際はポリエステル製なのだろうが、この世界の布製品の主流は綿のようだし、そう言っておいた方が波風が立たず平和的に事が運ぶと思ったのだ。



「綿のお人形は聞いたことはございませんが、綿は服などにも使われていますし、悪くはないかと・・・」


「でも綿を使うのは、少し酔狂な気もするわね・・・」



 どうやらぬいぐるみは、ぎりぎりありのようだ。


 そしてオレが通販ショップで選んだのは、高さ40センチメートル女の子ドレス人形2500円だ。



 残りポイント:25832



 ドサ!


「ま!!」


「なにかおちてきたよ!」


「ヨッシーの魔法は、そうやって発動するのね・・・」



 そして落ちてきた段ボールに、三人が反応する。


 

 ガサガサ!


「はいフラン様」


「わあ~い!」


「お待ちくださいフロランス様! 安全を確かめてからでないと・・・」



 段ボールを開けてフランちゃんに人形を渡そうとすると、不意にメイドのリュシーさんに取り上げられてしまう。

 やはり貴族令嬢ともなると、安全に十分な配慮が必要なのだろう。



「かえちてリュシ~!」


「少しお待ちくださいお嬢様!」


「信じられないわヨッシー。フロランス様が貴族令嬢とはいえ、こんなに贅沢に綿を使った人形を玩具にしちゃうなんて・・・」



 どうやらぬいぐるみは、この異世界の常識では贅沢品に分類されるようだ。


 それでも前世の世界では、人気があったんですよ。

 オレは心の中で、そう呟いてみる。



「安全が確認されましたので、お渡ししますね」


「わあ~い!!」



 メイドのリュシーさんが、フランちゃんに人形を手渡すと、フランちゃんは満面の笑顔で受け取る。



「この紙の箱は凄いわね。よく工夫されて作られているわ。

 それにこの絵や文字・・・どう描けばこんな精巧な感じになるのかしら?」



 オレがフランちゃんの人形遊びの相手をしていると、ローレッタさんは今度は人形の入れ物だった段ボールに興味を示しだす。

 あちこちひっくり返して見ているようだ。



「ふわあ~・・・」



 そんな中コロンは、退屈そうに欠伸をしている。



「退屈なら飴でもやろうかコロン?」


「ああ。あの甘い塊か? くれ。でも力を無駄使いするなよ?」



 せっかく人数もいることだし、オレは悪戯心もあいまって、何が出るかわからない飴、ドロップ缶を買うことを思いつく。


 ドロップ缶には数種類の味の飴が入っており、中には辛いハッカ味も含まれているのだ。


 げ! ドロップ缶っていま1000円もするんだ!?


 あの懐かしのドロップ缶は、オレが前世の幼少期に口にした頃には、こんなに高額だっただろうか?


 しかし今は袋入りも出回っているようで、こちらは148円とお安い。



「ヨッシ~なにしてるの!? おにんぎょうあそびしよ!?」


「待っていてくださいね。今甘いお菓子を出しますから」


「あまいおかし!? わあ~い!! ふりゃんあまいおかしたべる!!」



 オレはドロップ袋入り124グラム148円を購入した。



 残りポイント:25684



 ドサ!


「毒見はなさいますよね?」


 

 オレは段ボール箱に入った、ドロップの袋を取り出しながら、メイドのリュシーさんに確認する。



「当然でございます」



 オレはドロップの入った袋に、ドロップが一つだけ通るぐらいの穴を空ける。



 カサカサ・・・ポン!


 

 そして袋をふり、その中身のドロップを、リュシーさんの手の上に一つ出した。



「これは・・・緑色の宝石ですか? 透明で小さな袋に入っているんですね?」



 どうやらリュシーさんには、緑色のドロップが宝石に見えたようだ。

 

 このドロップは一粒一粒袋に詰められていて、かなり衛生にも気を使っているようだ。



「お菓子ですよ。その透明な袋を破いて、中の物を口に入れてください。

 そのお菓子は口の中で溶かしながらどうぞ」


「とても甘いですね・・・それに高級なフルーツの味がします」



 リュシーさんは飴を口に含むと、そう感想を語った。


 確か緑色はメロン味のはずだ。



「ちなみに言っておきますが、白はハズレとします。白は甘いんですが、辛みもあるんですよ」



 白はハッカ味で、甘いが辛く、鼻がスーっとすっきりするのだ。



「そのような味は知りませんが、賭博好きの殿方が好みそうな趣向ですわね」


「くじみたいで面白いわね・・・」

 

「では次にフラン様どうぞ」


「その小袋はわたくしがお開けしますわ」



 カサカサ・・・ポン!



「あ! オレンジいろだよ!」


 

 するとオレンジ色のドロップが出た。



「オレンジ色は確か、オレンジの味だね」


「ふりゃんオレンジはすきだよ!」


「どうぞ。フロランス様・・・・」


「はむ・・・・」



 リュシーさんが小袋を開け、フランちゃんにドロップを差し出すと、フランちゃんはそのドロップを口に含んだ。



「あまいね~!! おいちいね~!!」



 するとフランちゃんは、満面の笑顔で答える。



「ローレッタさんとコロンもどうぞ」


「おう」


「あら? 私にもくれるのね?」



 カサカサ・・・ポン!



「赤だわ。まるでオパールのようね」


「うわ!! ワタシは白だ!!」



 ローレッタさんがイチゴ味の赤を引き当てる中、コロンはハッカ味の白が的中してしまったようだ。



「とても甘いわね・・・。これはベリーの果汁かしら?」


「はい。ストロベリー味です」


「うお! これは甘いが、スーと鼻にすっきりくるぞ!」



 コロンはハッカ味に大はしゃぎだ。

 コロンにとってはハッカ味は、ハズレではなかったようだ。



「でもこのような砂糖をふんだんに使ったお菓子は貴重ですよ。砂糖は普通、小麦粉などに少量含ませる程度ですから・・・」


「そうね。砂糖は遥か南の、熱い地域を通ってくるのよ。

 それはとても危険な旅と聞いているし、砂糖が高価なのは、それが理由なのだろうけれど・・・」



 確か昔のヨーロッパでも、砂糖はシルクロードを通って、遥かインドの方から届けられたと聞いている。

 前世では普通に手に入った砂糖も、この世界では高級品に分類されているのだ。


 オレはしばらくフランちゃんと人形遊びを続けると、いつの間にかフランちゃんのおめめがとろーんとなり、船をこぎ始めたので、その時点で解散となった。


 

  残りポイント:25684



 お読みくださりありがとうございます。


 面白い!

 また読みたい!


 と感じた方はぜひブックマークと評価をお願いします。

 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます。

 感想、レビューもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ