09:グランドクラブは蟹の味
この世界において、白ワインは大変希少なワインだった。
オレはそのワインを何気ない態度で、領主であるトムおじさんに渡してしまったのだ。
現在オレはトムおじさんに招かれ、コロンとブラハムさん一家とともに、トムおじさんの屋敷に来ている。
今は丁度夕食の前で、オレは通販ショップで購入した白ワインを、手土産として渡したところだったのだ。
「こんな希少なワインを何事もないように渡してくるとは、ヨッシーにとっては簡単に手に入る物なのだろうな?
ならば何かを代償にしてヨッシーがユニーク魔術かギフト・アーティファクトで、このワインを簡単に作ったであろうことは常識ある者であれば誰でも想像がつくぞ」
迂闊だった・・・・
さてこの状況をどう言い訳して逃げ切ろうか?
あるいはこの街から、他の街に逃走を図るか?
「まあそう構えるなヨッシー。私はお前をどうこうする気はない。だが誰かに贈り物をする時は、必ず私かブラハム・・・その他信用できる者にでも相談してからにしろ? でないとその内質の悪い貴族にでも攫われて、一生搾り取られるぞ?」
それはちょっと遠慮願いたい。
「き、肝に銘じておきます・・・・」
「ああそうしろ。しかしこの白ワインは、贈り物としてありがたくいただいておくがな」
トムおじさんは、ニコニコと笑いながらそう答えた。
どうやらトムおじさんは、ブラハムさん同様に、オレをどうこうしようという気はないようだ。
きっとお人好しで、世話焼きなおじさんなのだろう。
そしてしばらくして運ばれてきた料理は、巨大な蟹の足の輪切りだった。
他にもパンやらスープやらサラダはあるのだが、オレにとってその巨大な蟹の足は、それ以外をすべて視界から追いやるほどのインパクトがあったのだ。
「ほう? ヨッシーの目は、そのグランドクラブにくぎ付けだな?」
「これはグランドクラブと言うのですか?」
「ああ。ここらの森は中海に近い。たまに大型のグランドクラブという魔物が、その中海から徘徊してくるんだ。その味は格別だ」
ここらの森でとれるなら、オレも探してみよう。
貴族のトムおじさんが絶賛する味だ。きっと美味しいのだろう。
「そちらはグランドクラブの足を、塩をふって蒸した物になります」
執事がグランドクラブの輪切りについて、そう説明してくれた。
「では神が今日の糧を与えてくださったことに感謝を込めて、この食事をいただくとしよう」
トムおじさんが白ワインの入ったグラスを掲げながら、食膳の祈りの言葉を口にすると、全員がそれぞれに食膳の祈りを終えて、食事に手を伸ばし始める。
「はふはふ・・・」
オレはさっそくその巨大な蟹の身に、フォークを入れてその身を口に運ぶ。
やはりこれは蟹の味だ。少し泥臭いが美味い。
続けて炭水化物が欲しくなったオレは、口の中に蟹が残っている状態で、パンを噛みしめる。
うん! 硬い!
オレはやはりこの世界のパンは、少し苦手のようだ。
不味くはないが、このパンの硬さはなんとかならないものだろうか?
「ヨッシー。パンはスープに浸して食べると食べやすいわよ」
オレがパンに苦戦していると、ローレッタさんがそう教えてくれる。
「ありがとうございます。ローレッタさん」
オレはローレッタさんにお礼を言うと、さっそくそのパンをスープにつけて、柔らかくして口に運ぶ。
う~ん。これはこれで悪くはないが、無性に前世で食べていた、あの柔らかい食パンが恋しくなってくる。
「ねえ! ヨッシ~はなんちゃいなの!?」
すると唐突にフロランスちゃんに話しかけられる。
なんちゃい? 何歳ということか?
どうやら同じ年くらいに見えるオレに興味を示したようだ。
オレにはこの幼女の記憶はないので、正確な年齢はわからないのだ。
確かオレの見た目だと、五歳くらいに見えるんだったかな?
「えっと・・・5歳ですかね?」
「5ちゃい!? 『ふりゃん』は4ちゃいだよ! 同じくらいだね!?」
ふりゃん? もしかしてフロランスで、フランか?
確かにフロランスちゃんは、オレと同じくらいの身長に見える。
ならオレもフロランスちゃんと同じくらいの年齢なのかもしれない。
「ヨッシー。この辺りにはフロランスくらいの年齢の子がいなくてな。それでお前に興味を示したのだろう。出来ればでいいが、たまにフロランスと遊んでくれると助かる」
トムおじさんは今まで見せたことがないような、優し気な表情でそう言った。
「わあい! よっしーはふりゃんとあしょんでくりぇるの!?」
そこまで小さい子に期待されると、断り辛い。
「そうですね。それではお食事の後にでも、一緒に遊びますか?」
「わああい! ふりゃんよっしーとあしょぶ~!!」
「お食事の後になさい!」
唐突に席を立とうとするフロランスちゃんを、エドウィーナ夫人が注意する。
こうして美味しい食事をご馳走になったオレは、食後フロランスちゃんの相手をすることになった。
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