08:バートム伯爵
「えっと? なぜ領主様のお屋敷へ?」
ブラハムさんの馬車に乗せられ、オレ達がやって来たのは、領主の屋敷だった。
オレはその日の昼頃に、トムおじさんに夕食をご馳走してもらうことになった。
そしてブラハムさん一家もその夕食には誘われていたと聞いていたのだ。
なのにやって来たのは、以前留守だったため出直すことにしていた、例の領主の屋敷だったのだ。
実は今のオレはブラハムさんの用意した白いドレスを着せられ、コロンも赤いドレスを着せられている。
なぜトムおじさんの家に行くのに、わざわざこんなおめかしをするのかと疑問に思っていたのだが、領主の屋敷に行くというのなら納得できなくもない。
だがトムおじさんとの約束は、いったいどうするつもりなのだろうか?
「えっと・・・。トムおじさんとの夕食の件はどうなったんでしょうか?」
「まあまあ。中に入ればすぐにわかるから」
「あ! ちょっと!」
そういうとブラハムさんは、オレの脇を抱えて馬車からおろし、肩をぐいぐいと押して、屋敷の門の前までやって来た。
「よくぞお出で下さいました。領主様が中でお待ちです」
到着するとすぐに、初老の執事が出てきて、オレ達を屋敷の中へと案内してくる。
屋敷の玄関の門は大きく、ゴテゴテした模様が刻まれている。
その大きな門をくぐると、広い玄関ホールに出た。
玄関ホールではメイドや使用人が出迎えに出ており、さっそく玄関ホールの奥にある、食堂へと案内される。
「しばらくこちらでお待ちください」
食堂には長いテーブルがあり、おそらく一番奥の上座にある、ゴテゴテした椅子が、領主の椅子だろう。
つづいてあらかじめ決めてあったと思われる座席に案内され、そこに順番に腰かけていく。
ブラハムさん、ローレッタさん、バリーその後に、オレ、コロンの順番だ。
そして気づくとブラハムさんが、にっこりとオレの顔を見ながら微笑んでいた。
「ヨッシーがそういう表情をするのは新鮮だな?」
オレはいったいどんな表情をしていただろうか?
先ほどの状況から考えるとおそらく、ポカーンと口を開けて、周囲を見回していただろう。
コロンは相変わらず肝が据わっているようで、腕を組んでドカンと椅子に座り込んでいる。
ローレッタさんはさすがに慣れているのだろうか? 大人しく綺麗な所作で座っている。
すぐ横で挙動不審なバリーを見ると、本当に姉弟なのかと思えて来る。
「持ってきたお土産はどうしましょう?」
オレは先ほど用意しておいたお土産を、目前のテーブルの上に置いた。
本当はトムおじさんにと持って来たお土産だったのだが、ここまで抱えて持ってきて、なんでもありませんでは不自然だ。ここは領主へのお土産にすることにしたのだ。
お土産の内容は、ネット通販で買った白ワイン500円だ。
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まあ安ワインでは不敬だが、値段を言わなければわからないだろう。
「領主様がお越しです・・・」
するとこのタイミングで、領主の到着を初老の執事が告げる。
ガチャ・・・
執事が告げると、右奥にある扉から領主らしき男と、その家族と思われる女性と、小さな女の子が入って来た。
ブラハムさん一家が立ち上がったので、オレとコロンもそれに合わせて立ち上がる。
「よく来たなブラハム一家。そしてヨッシーにコロン」
そして領主の顔を見ると、それはあのトムおじさんだったのだ。
「はあ~・・・。まさかトムおじさんが領主様とは思いませんでしたよ」
オレはため息をつくと、微笑みながらトムおじさんにそう言った。
領主様と言うから、どんないかつい人物が出てくると思って内心不安であったが、トムおじさんが出てきてほっとした。
さてはトムおじさんとブラハムさんは、オレ達を驚かすために、こんなはからいをしたにちがいない。まったく人騒がせなおじさん達だ。
トムおじさんは立派なタキシードを着こなし、紳士らしい姿に見えるが、冒険者の装備をしていた時と、雰囲気はそう変わらないように感じる。
「ヨッシーは随分と肝がすわっているな? 姉貴分のコロンは緊張で固まっているというのに」
するとトムおじさんは、顎鬚をこすりつつ、ニヤケながらそう言った。
コロンを見ると相変わらずどっしりと腕を組んで、睨みつけるように正面を見ている。
え!? コロンのこれは緊張で固まっているところなの!?
「では改めて名乗っておこう。
私はギーハテケナ領領主、バートム・ド・ギーハテケナ伯爵だ」
トムおじさんがオレとコロンを見なが自己紹介をした。
おそらくブラハムさん一家には以前自己紹介をしていて、この自己紹介はオレとコロンに向けたものだということだろう。
「こっちは妻のエドウィーナで、この子は娘のフロランスだ」
「第一婦人のエドウィーナです」
「フロランスだよ!」
続けて奥さんと娘さんの紹介もあった。
「お初にお目にかかります。オレはヨッシーで、こちらは姉貴分のコロンです」
「あ、姉貴分のコロンです」
オレもそれに続いて自己紹介をする。
コロンの紹介もすると、コロンはぎこちない感じで自己紹介をした。
「あ、これお土産の白ワインです。今日は魚介関係だと聞いていたので・・・・」
実はオレはここへ来る前に、今日の料理の内容をブラハムさんに聞き、それに合わせてこの白ワインを用意していたのだ。
白ワインは魚に合うというからね。
「何? 白ワインだと?」
するとトムおじさんに怪訝な顔をされてしまった。
安ワインだと気づかれてしまったか?
「見せてみろ」
「あ、はい。どうぞ」
「こちらに・・・」
「すみません。どうも」
オレはトムおじさんに白ワインを渡そうとするが、手が届かないのを気遣ってか、執事が横から受け取って、代わりにトムおじさんに渡してくれた。
「まあ! 白いわね!」
「確かに白いな・・・」
トムおじさんもエドウィーナ夫人も、なぜか白ワインのその白さに驚いているようだった。
ブラハムさんやローレッタさんも、なぜか珍し気に、その白ワインを見ている。
コポコポコポ・・・・
「あ・・・」
するとトムおじさんが、唐突にテーブルの上に置いてあったゴブレットに、白ワインを注ぎ始めたので、なんとなく気になって声が出てしまった。
「ん? なにかまずかったか?」
「いえ。なんでも・・・」
そしてワインを回しながら匂いを嗅ぐと、少し口に含んだ。
「おいヨッシー」
「はい。なんでしょうか?」
「お前このワインはどこで手に入れた?」
そう聞かれるとネットショップでとは答えにくいので、どう答えるべきか悩むところだ。
「えっと・・・そのへんの行商人からですかね?」
行商人なら各地を旅しているし、買い取った相手が旅に出てすでにいないとか言い訳が出来る。
「あのなあヨッシー。こんな白ブドウだけを使ったようなワインは、見たことも聞いたこともないんだ」
なんですと!?
「ブドウ畑に出来るブドウの色は、薄かったり濃かったりするが、本当に白いものはめったに目にしない。
つまりこのワインは、希少な白いブドウだけを集めて作った、大変希少なワインということになるんだ」
つまり白ワインは、この世界では超高級ワインということになってしまうのだろうか?
どうやらオレはお土産のチョイスを間違えたようだ。
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