07:模擬戦
「冒険者ギルド長のジュストだ。よろしくお嬢さんがた」
ラベナイの街の冒険者ギルド長は、小太りで腰が低く、事務職員のような感じの男性だ。
どちらかといえば、トムおじさんをギルド長と言った方がしっくりとくる。
現在オレ達は冒険者ギルドの裏にある、訓練場にやってきている。
皆依頼に出ているようで訓練している者はなく、訓練場にはオレ達以外誰もいない。
「俺はオベールだ。Bランク冒険者で、希望の盾というパーティーのリーダーをしている。職業は魔法戦士だ。
ベルトランとレティーは俺達のパーティーメンバーなんだ」
次はベルトランとレティーのパーティーメンバーの紹介のようだ。
「同じくメンバーのイスマエルだ。俺もBランクで魔法戦士だ」
「カンタンだ。斥候のようなことをしているが、一応戦士でBランクだ」
「ライザよ。魔術師をしているわ。私もBランクよ」
メンバーに二人も魔法戦士がいるのは恐れ入る。
それにメンバーの全員がB級冒険者なのはすごい。
「いや・・・俺とレティーはCランクだぜ・・・」
そんなに思ったことが顔に出ていただろうか?
オレの思考を察してか、ベルトランがそう答えてきた。
「ではコロンの実力から見せてもらおうか? 相手はオベール、お前でいいだろう」
「ええ? いきなり俺からですか?」
「コロンの実力が噂どおりなら、お前くらいが丁度いいだろう」
コロンの相手は、いきなり実力が一番高いと思われる、リーダーのオベールさんが務めるようだ。
コロンは噂ではBランク冒険者なみと、評価されているのだろうか?
そしてさっそくコロンとオベールさんが、訓練場の中央で向き合う。
コロンの武器はいつも模擬戦で使っている長い棒だ。
相手の方は木剣と木盾を選択したようだ。
「始め!!」
トムおじさんの開始の合図とともに、二人はいきなり激しく打ち合う。
コロンの長い棒の方が、戦闘においては有利に思えるが、それをオベールさんは巧みに受け流し、反撃しているようだ。さすがBランク冒険者と言わざるを得ない。
だがコロンの目が赤く光ると、途端に形勢は変わる。
バキン!!
「うお!!」
コロンの鋭い一撃を、なんとか盾で防いだオベールさんだったが、大きく吹き飛ばされてしまう。
だがそこは一流と言われるBランク冒険者。上手く着地して見せた。
「ハハハ! 魔族が強いのは知っていたが、子供であれは相当やばいぞトムさん!!」
上手く着地したオベールさんは、興奮気味にそう語った。
「なるほど・・・実力は噂以上といったところか?」
「二人ともそこまでにしてくれ! コロン君の実力はだいたいわかったから」
小太りのギルド長が、ハンカチで汗を拭きつつ二人を止めに入った。
「ごめんおっさん! 棒が壊れた!」
見るとコロンの長い棒は、無残に折れ曲がっていた。
「君は模擬戦をするなら自前のものでしてくれ。木製とはいえ、模擬戦の度に壊されてはたまらん」
どうやら小太りのギルド長が、模擬戦を止めた理由は、棒が折れてしまったためのようだ。
このまま続ければ、替えを何本も折られるであろうと予測したのだろう。
「次はヨッシー。お前の実力を見せてくれ」
「え? でもオレ魔術師ですから、木剣とかもっても戦えませんよ?」
オレは非力な幼女なので、スマホの能力を使う以外は、上手く戦える自信などない。
「心配いらん。お前の魔法で、相手の接近を妨害できればそれでいい。ただ殺傷力のある魔法は禁止だぞ? それくらいはわかるな? まあ本当に魔法が使えればの話だが・・・」
どうやら魔術師は、模擬戦では相手の接近を妨害できればいいようだ。
それならオレでもなんとかやれるかもしれない。
「ベルトラン! 相手はお前がしろ!」
「え? 俺ですか? 俺魔法とか相手はちょっと苦手なんですけど?」
「つべこべ言うな! それにこれはお前が魔法を避けるための訓練にもなる!」
オレとベルトランは訓練場の中央に行き、10メートルほど離れた位置に立った。
「始め!」
「うおおおお!!」
開始直後にベルトランがオレに向けて突撃を開始する。
オレはベルトランがオレの二メートル圏内に接近する前に、右のアイアンアームを起動した。
アイアンアームは二メートルもある、巨大な鉄の腕だ。
ガン!
「な!」
オレは突っ込んでくるベルトランの体をアイアンアームで受け止めると、そのまま上に摘まみ上げた。
「これでオレの勝ちでいいのかな?」
気づくと摘まみ上げられたベルトランはじめ、周囲はシンと静まり返っていた。
「ヨッシーその腕はなんだ?」
最初に口を開いたのは、トムおじさんだった。
「えっと・・・アイアンアームですけど・・・」
「なるほど・・・それで鉄腕のヨッシーか・・・?
想像以上にでかい腕だな。もしかしてお前は魔族か何かか? 全身がそうなったりするのか?」
トムおじさんは興味深げにその腕を見てくる。
「たぶんオレは魔族ではないですけど、全身がアイアンアームみたくはなりますね」
「何!? 全身そうなるのか!? 見せてみろ!!」
あまり人には見せたくない姿だが、皆期待を込めた目で見るので、オレは渋々鉄のゴーレムを起動することにする。
ガチャン!!
オレが鉄のゴーレムを起動すると。
そこに身長三メートルの鉄のゴーレムが出現する。
もちろんオレはそのゴーレムの中に入り込んで、いつでも操作可能な状態だ。
「鉄のゴーレム!? ヨッシー! それがお前の正体か!?」
周囲が驚愕する中、トムおじさんがそう叫んだ。
どうやらトムおじさんも皆も、オレを鉄のゴーレムだと勘違いしてしまったようだ。
「いえ。違いますけど」
ガチャン!
オレは鉄のゴーレムではないことを証明するために、オレの頭に覆いかぶさっている巨大な傘を背中に移動して、頭をむき出しにした。
「おお!? なんだそれは!? 幼女の頭に鉄の巨大なボディー!? どうなっているんだそれは!?」
「鉄のゴーレムに乗り込んで、オレが操作していると思ったらいいですよ」
「な、なるほど・・・。お前は魔法で鉄のゴーレムを造れるのだな?」
ようやくトムおじさんは納得してくれたようだ。
「ライザ! 次はお前がこいつの模擬戦の相手をしろ!」
「いやいやいやいや! さすがに鉄のゴーレムに通用するような魔法、もっていませんから!」
もしかしてオレは、Bランク冒険者の魔術師にも、引けを取らない実力なのだろうか?
ライザさんが模擬戦を断った時点で、ようやくオレとコロンの実力を測るための模擬戦は終了した。
「今日はいろいろと面白いものを見れた。お礼に今日の夕食は私がご馳走しよう」
模擬戦終了後、冒険者ギルドの建物内に戻ると、トムおじさんがそう勧めてきた。
「でもオレ達ブラハムさんのところにお世話になっていますし、一言ブラハムさんに断ってからでないと・・・」
「それなら心配いらんよ。今夜の夕食には、ブラハム一家も誘ってあるんだ」
なんですと?
ブラハムさんほどの豪商を夕食に誘える冒険者って・・・いったいこのトムおじさんとは何者なのだろうか?
残りポイント:29812
お読みくださりありがとうございます。
面白い!
また読みたい!
と感じた方はぜひブックマークと評価をお願いします。
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます。
感想、レビューもお待ちしております。




