04:野営地で料理
ガタガタ・・・
オレ達が野営地に入ると、次々と連なるように、行商人や旅人の馬車も入って来た。
現在オレ達は、野営地に到着している。ここで一晩夜を明かし、再びギーハテケナ領のラベナイの町を目指すのだ。
コロンは到着早々に、ブラハムさん達の野営の準備を手伝い始めた。
ここで火を起こし、雨風を防ぐための、天幕などを組み立てるのだ。
周囲の冒険者や行商人達も、同じく野営の準備を始めるようだ。
オレもコロンと自分の野宿の準備くらいはしておこうと思う。
ドドドン!
「コロ~ン! オレ達の家の準備はできたよ!」
オレは使用人に混ざって天幕を設置するコロンに手を振った。
オレは冒険者ギルドの敷地内に建てた木製の自宅を、スマホで持ち運びできるので、回収して持ってきていたのだ。
なので野宿の準備といっても、自宅をスマホから出して設置するくらいだ。
食事はブラハムさん達と合同で取ることになっているので、火や竈の準備は必要ないのだ。
「ヨッシー君。君は自宅まで魔法で出せるんだね?」
「はい。複雑な構造の物は無理ですけどね」
複雑な構造の家はポリゴン数も多く、ファイルのサイズも大きくなってしまうために、スマホに入れる容量を小さくするためにも、家の構造は単純にしているのだ。
「実は夜間の不寝番の順番を、使用人達の間で話し合ってもらおうと思っているのだがね」
ブラハムさんの言う不寝番とは、夜中に襲撃してくる魔物や盗賊に対する警戒のために行う、夜中の見張りのことだ。その順番を使用人達と話し合うのだろう。
「だが君には不寝番を免除する代わりに、夕食の準備をしてもらいたいんだ」
夕食の準備? 確かにコロンと住んでいた時には、オレが食事の準備はしていたのだが、幼女のオレに、普通夕食の準備なんて頼むだろうか?
「フェルナンが君の料理は絶品だと、いつか自慢してきてねぇ」
どうやらギルド長のリークが原因だったようだ。
まあブラハムさんにはこれからもお世話になるだろうし、料理くらい作ってもいいだろう。
「ではこれから魔法で秘伝のタレを作りますので、絶対に覗かないでください」
ピシャン!
オレは某恩のある鶴のようにそう言うと、自宅に引きこもった。
これから必要な食材を、見られないように自宅の中で、通販を使って購入するからだ。
「こらバリー! 覗かない!」
ところが覗くなと言うと、覗きたいやからは現れるものだ。
「コロン・・・お前はオレの秘密を知っているのに何でバリーと一緒に覗いているの?」
「何となくのりで・・・」
「コロンは誰も覗かないように、入口で見張っていて・・・」
オレはコロンに見張りを頼むと、再びスマホで通販サイトにアクセスした。
食材は昼間倒したオーク肉だ。
オーク肉は豚肉に近い味だから、豚肉料理が今回のお勧めだろう。
「それじゃあ今回はオーク肉と野菜の、焼き肉のタレ炒めにしよう」
この料理は豚肉と野菜を混ぜて、焼き肉のタレで炒めるだけという簡単料理だが、ご飯が進むこと間違いなしの絶品だ。
焼き肉のタレ250円を再度購入。
残りポイント:30425
焼き肉のタレは、あらかじめメタセコで作った石の壺に移しておく。
フランスパンも用意してくれるそうなので、こいつはスライスして、以前クアリーの街で使い残したコーンクリームスープに付け込んでフレンチトーストにする予定だ。あのフランスパンはオレには少々硬すぎるのだ。
コーンクリームスープの袋も目立つので、全部出して石の器に移す。
最後にお茶請けにお菓子も用意しておこう。
ゴーフルでクリームをサンドした例のお菓子315円をチョイス。
残りポイント:30110
お菓子も同じく石の器に移しておく。これで秘密の作業はだいたい完了した。
後はそれを布の袋に包んで、悠々と自宅の外に出る。
「コロン。見張りご苦労!」
「おう! ん!」
コロンは手を差し出して、報酬を強請って来た。仕方ないのでお菓子を一枚渡しておく。
「パリパリ! 美味! 何だこれ!? もう一枚!」
「はいはい。ご飯の後でね」
適当にコロンをあしらうと、同じく以前メタセコで造った竈を出す。
「私は料理担当のメイド、エレーヌと申します。何か手伝うことはありますか?」
竈に薪を入れて火を付けようとすると、メイドのエレーヌさんが手伝いを申し出てくれた。
前世を含めてもリアルメイドさんは初めて見る。エプロンに地味なワンピースと、服装は意外に普通だ。
「それでは野菜をお願いします。オレは肉を切りますので」
オレはエレーヌさんに野菜切りを頼むと、まな板に切り出したオーク肉のブロックをのせて、食べやすい大きさに切っていった。
ジャッ! ジャッ! ジュ~!
「随分と手慣れていらっしゃいますね?」
「まあ・・・料理は毎日していましたから」
エレーヌさんが、オレのフライパンさばきを見て褒めてくれる。
最近はいつもやっていたことなので、気にしたことはなかったが、オレも料理の腕は、上達しているのかもしれない。
「一皿目はオーク肉と野菜の甘辛炒めです」
焼き肉のタレ炒めでは通じないと思ったので、そこは甘辛炒めとしておいた。
「えっと・・・甘いんですか?」
するとエレーヌさんがおかしなことを聞いて来た。
甘辛炒めなので、甘いに決まっている。
「そのタレ・・・少々味見してもよろしいですか?」
「はあ・・・少しくらいなら・・・」
エレーヌさんは、小皿に焼き肉のタレを少し入れて、味見し始めた。
その様子をローレッタさんと、バリーがまじまじと見ている。
「ん! 甘い!」
え? 焼き肉のタレには確かに砂糖は入っているが、そんなに甘かっただろうか?
「エレーヌ! ちょっと見せてちょうだい!」
ローレッタさんはエレーヌさんから小皿をふんだくると、自らも味見を始めた。
「ん! 砂糖!? 砂糖を入れたのこれ!?」
「えっと・・・砂糖は入っていますけど・・・それが何か?」
するとローレッタさんは、何やら呆れたようすでこちらを見ている。
「砂糖は高級品よ。それをまさかこんな野営地で、貴女が使うとは思わなかっただけよ・・・。
それにこのタレ・・・他にも高価な調味料を入れているわね?」
え? 高価な調味料? どれだろう? お酒? しょうゆ? ごま油? 他には何が入っていたかな?
「ま、まあ美味しいことはお約束しますよ!」
「それは美味しいでしょうね・・・」
ジト目で見て来るローレッタさんをよそに、オレはエレーヌさんが並べてくれたお皿に、オーク肉と野菜の甘辛炒めを盛り付けていく。
ジュ~~~・・・
そして次にコーンクリームスープに付け込んだ、フランスパンのスライスを焼いていく。
牛乳と卵がないのは残念だが、これはこれで美味しいのだ。
ちなみにフランスパンはエレーヌさんが切り分けてくれた。
フライパンにひいた油は、ブラハムさんからいただいたラードだ。
「それもまた独特の香ね・・・コーンかしら?」
どうやらこの世界にもコーンはあるらしく、ローレッタさんが言い当てて来た。
さすがに大商人の娘だけあって、嗅覚も鋭いようだ。
だがどこか呆れている様子が、少し気になる。
「ほう!? これはまた見慣れない料理ばかりだね?」
ブラハムさんが並べられた料理を見て、感想を述べる。
全ての料理が完成すると、各場所に設置された木箱に並べられた。
この木箱はテーブルの代わりらしく、椅子はないので各自地面に布を敷いたりして座っているようだ。
飲み物が全員に配られると、それぞれ食前の挨拶をして、食事が開始される。
「美味めえ!! 何だこれ!? 甘いぞ!!」
バリーがオーク肉と野菜の甘辛炒めを、口の中に豪快にかき込む。
「ほう? 聞いてはいたが確かに甘いな・・・しかし絶品だなこれは! 甘くてピリ辛いのがまたいいね!」
ブラハムさんにもオーク肉と野菜の甘辛炒めは好評のようだ。
「このパンもなかなかね。表面はサクサクして中身はしっとりで・・・でもこの味はコーンだけではないわね? 他には何を使ったのかしら?」
コーンクリームスープ以外は使っていない。材料は袋の裏にでも書いてあったのかな?
「これ。ローレッタ。ただで聞くのは良くない。これほどの味だ。きっとかなりの研鑽を積んだに違いない」
胸が痛むので止めてください。
使用人の方々も幸せそうに食べているな。さすがは某大手メーカーの調味料だ。
「最後にお菓子を配りますので」
オレはお菓子の入った石の皿を持つと、お菓子を配って回った。
「何? ヨッシー君はお菓子まで用意したのかい?」
まずはブラハムさんにお菓子を渡す。
「それはわたくしも気になっていたのよ」
次にローレッタさんに配ると、配られたお菓子をまじまじと見ている。
「パリパリ! 何だこれ美味いぞ!」
バリーは配ったそばからかぶり付いている。
「パリパリ・・・ふむふむ・・・砂糖をふんだんに使ったお菓子のようだが美味いな。どこで手に入れたんだい?」
ブラハムさんはお菓子の出どころが気になるらしい。
「ご想像にお任せします。パリパリ!」
うん! 美味い! ゴーフルとクリームの組み合わせはやっぱり最高だね。
お菓子も皆幸せそうに食べていたよ。ローレッタさんは相変わらず、根掘り葉掘り色々と聞いて来たが・・・。
あとこの先焼き肉のタレだけでは飽きられそうなので、生姜焼きのタレ298円を購入したよ。
残りポイント:29812
お読みくださりありがとうございます。
面白い!
また読みたい!
と感じた方はぜひブックマークと評価をお願いします。
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます。
感想、レビューもお待ちしております。