01:指名依頼
「お前達に指名依頼が来ているぞ」
ギルド長はまったりと朝食を取るオレ達を、訪ねて来たと思うとそう告げた。
あれから数日後、街に戻ったオレとコロンは、いつも通り狩りに出て報酬を得たり、オレはオレで教会に文字を教わりに行ったりしていた。
オーク討伐の報酬はそれなりに出たが、変異種オークの手柄については、どうなったか聞いていないからわからない。うやむやになっていると言ってもいい。
「指名依頼? オレ達Cランクですよ?」
オレとコロンは今回のことで、Cランクに昇格していた。
Cランク冒険者は確かにベテランではあるが、Cランクになりたてのオレ達に、指名依頼などはまずないと聞いていた。
そんなオレ達に指名依頼をするとは、いったい何の企みがあってのことであろうか?
「ああ・・そうだな・・ちょうどいい機会だから聞いておく」
ギルド長はちょっと考える素振りをして、話題を変えた。
「お前達官職に興味はあるか?」
官職? ギルド長はオレ達に何をさせたいのだろうか?
「つまり領主に仕えたいかと聞いているんだ」
その話に要領を得ないオレ達に、ギルド長は核心に近い言葉を出してきた。
このパーシヴァル領の領主は、租税は多いわ金に汚いわ、やたらと威張り散らしているわで、あまりいい評判を聞かない領主である。
オレの前世の記憶から言わせてもらえば、それは領主としては普通なのかもしれないが、あの三男のグレゴワールの有様を見てからでは、そうも言ってはいられない。
「「お断りだ!」です!」
コロンとオレは、同時に否定の意思を口にした。
「だろうな・・・」
まるでその答えがわかっていたように、ギルド長はそう返してきた。
「しかしお前達は今回のことで、目立ちすぎたことは自覚しているか?」
今回のこととは、オーク討伐の件のことであろう。
コロンもオレも、確かにあの時はかなり活躍して、目立っていたのを自覚している。それを領主の息子にも見られているのだ。
「今回の依頼は俺の知人の商人からの護衛以来だ」
護衛以来? だいたい話が見えてきた。
目立ちすぎたオレ達は、必ず領主から目を付けられる。その領主に捉まりたくなければ、大人しくどこか別の領地でもに避難していろということだ。
丁度その時、良い依頼が入ったということだろう。
この街には仲良くなった子供達や、買い物先のおばちゃんやおじさんがいるから、離れるのは名残惜しいのだが、こうなって仕方あるまい。
「この依頼・・・受けようコロン!」
「新しい街か・・・確かに行ってみたいな!」
コロンもどうやら、その依頼を受けるのは賛成のようだ。
「ではこの依頼を受けるので決まりだな」
こうしてオレ達の、新しい旅立ちが決定した。
「ブラハム・アンブラー? もしかしてアンブラー商会の人ですか?」
「なんだお前知っていたのか?」
オレはギルド長から、護衛以来の相手の話を聞いて少し驚いた。
何と依頼主は、あのコーラを買い取ってくれた、商人のおじさんだったのだ。
現在オレ達はギルドの酒場のテーブル席で、ギルド長の遅い朝食に付き合いながら、依頼についての詳しい話を聞いていたのだ。
「むぐむぐ・・・そのおっさんヨッシーからコーラを大銀貨一枚で購入したんだぜ?」
「大銀貨一枚か・・・おいヨッシー。お前自分の能力を他人に見せちゃあいないよな?」
そのコーラをオレがスマホで出したと当たりを付けたギルド長は、オレにそう尋ねて来た。
オレはとりあえず無言で首を横に振り、否定の意思を示してみる。
なぜか朝食を食べ終えたはずのコロンは、ギルド長の向いの席で二度目の朝食を食べていた。
食べているのは巨大なカエルの足の蒸し焼きのようで、お世辞にもあまり美味そうには見えない。
「それ美味いかコロン・・・?」
「塩味が薄い・・・」
塩味とかそういうことを、聞いているのではないのだがまあいい。
カエルは前世からあまり得意な生き物ではない。オレには生臭いような気持ち悪いようなあのイメージしかないのだ。
「ちゃんと依頼前に挨拶とかしておけよ? 緊急依頼でもないかぎり、冒険者としてはそれは礼儀だ」
オレにフォークを向けつつ、ギルド長はそう忠告して来る。
年長者のコロンを見てそれを言わないのは、コロンには何かを諦めているからなのだろうか?
そしてその翌日。狩りを朝の内に終えたオレとコロンは、ブラハムさんのお屋敷に挨拶に向かった。
娘のローレッタさんの服装から予想はしていたのだが、その屋敷はかなり大きく立派なお屋敷だった。
買い物途中でよく目にしていたそのお屋敷だったが、いざ目にしてみると、その迫力は違って感じる。
広く整備された庭。ディテールをやたらと凝った玄関の入口。まさにそこは金持ちの屋敷だった。
行商しているあのおじさんの感じから、ここまで金持ちとは思わなかったが、人は見かけによらないとは、このことだろう。
「やあ! よく来てくれたね君達!」
事前にギルド長にお邪魔する時間を言っておいたせいか、屋敷の玄関に入ると、昼間にもかかわらず、当主ブラハムさん本人が出迎えてくれた。
「これお土産です」
オレは先ほど解体したてのボア肉の一部を、ブラハムさんに差し出す。
「ああ・・これはまた随分と野性的なお土産だね・・・」
ブラハムさんはオレのそのお土産に呆れながらも、ボア肉を受け取って使用人に渡した。
「バリーくんとローレッタさんは元気にしていますか?」
これから旅の打ち合わせをすることになったオレ達は、客室に案内されながら、以前会ったバリーとローレッタさんについて尋ねた。
「今日は二人で教会に行っているよ」
ん? 教会? 今日は教会の授業はなかったはずだが・・・
「随分とあの教会には知り合いがいるようでね。今日は旅立ちの前の挨拶に行っているんだ」
え? バリーが旅立ちの挨拶? ということはバリーもこの旅には同行するということだ。バリーは友達とよくつるんでいたから、孤児に知り合いでもいたのかもしれない。
「お父様! あの二人は来ているかしら!?」
すると玄関の方からローレッタさんの声がして来た。
噂をすればである。どうやらローレッタさんとバリーが帰宅したらしい。
「私は二人を出迎えて来るよ。君達は先に客室の方へ向かっていてくれ」
そう言うとブラハムさんは使用人にオレ達の案内を任せ、踵を返して玄関の方へ向かった。
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