15：コロンの雄たけび
「やばいな・・・劣勢になっている・・・」
戦場の方を見ると、周囲の冒険者や騎士はさらに倒され、死屍累々の状況となりはてていた。
ギルド長とバルテルミ卿はまだ無事のようだが、ギルド長は膝を付き、バルテルミ卿は馬を失っているようで、地面に立ち、槍から剣に武器を持ち替えているようだった。
「行くぞコロン！！」
「おう！！」
ギルド長の指示は待機だったが、ここはオレも参戦せざるを得ないだろう。
オレはコロンをその肩に乗せたまま、変異種オークに突撃を開始した。
ガチャン ガチャン ガチャン・・・！
走る鉄のゴーレムの巨大な足が、盛大に鉄の破音を奏でる。
「グルル・・・」
その様子に警戒を強め、こちらを睨みつける変異種オーク。
「今だヨッシー！！」
「おおう！！」
オレはコロンの合図で、変異種オークに勢い任せにパンチを繰り出す。
ブオン！ ブーン！
数発攻撃を見舞うが、そのどれもが変異種オークに躱されてしまう。
「グルルオォォ～！！」
変異種オークもオレに負けじと反撃を開始した。
バキン！ ガキン！
「うお！」
その攻撃の衝撃で、鉄のゴーレムの足元がふらつく。
「フゴ！！」
キュイィィィー！
そして変異種オークのこん棒に魔力が収束し、赤く染まっていく。
あれを食らったら流石にまずそうだ・・・
「ブギィィィィ～！！」
変異種オークは凄まじい咆哮とともに、その赤くなった棍棒を振りかぶる。
「え・・・コロン？」
しかしよく見るといつの間にか足元にはコロンがいて、光る剣で変異種のオークを貫いているのが見えた。
コロンはいつの間にかオレの肩から降りていて、オレの背後にいたようだ。
そして大技に出た変異種オークの隙をついて、オレの股を潜り、右手に持つライトセイバーを起動させて、その光る刃で変異種オークの腹を貫いていたのだ。
「ふん！」
シャッ！！
そのまま何の抵抗もなく光る剣を上に振り上げると、変異種オークは右肩からぱっくりと割れて、そのまま倒れて動かなくなった。
「うおぉぉぉぉおおお！ オークの親玉は！ コロン・ロロロ・ンロダが打ち取ったり！！」
「「わああぁぁぁああああ！！」」
コロンが感極まって雄たけびとともに勝どきを上げると、周囲の騎士や冒険者がそのコロンを称えるように、一斉に歓声を上げた。
そして借用期間を終えたのか、振り上げたライトセイバーが、コロンの手から光のつぶとなって、消え去っていった。
「あ！ ワタシの光の剣が・・・」
コロンはがっかりしたようにその右手を見つめるが、再びその勝利を思い返してか奮い立ち、その右手を握りしめるのだった。
「コロン・ロロロ・ンロダだったか・・・」
パカパカ・・・
そしてしばらくすると、空気の読めない騎士が、馬に乗ってその場に近づく。
「その変異種オークの手柄は騎士団がいただく！」
そう言い放った騎士は、下卑た笑みを浮かべる、例のいけ好かない副団長だった。
「貴様の光る剣もこちらに寄越せ！ 貴様のような下賤な魔族には、すぎた武器だ！」
そしてコロンの方に、馬上から寄越せと言わんばかりに、手を伸ばす。
「よせ！ グレゴワール！ 波風を立てようとするな！」
その行動を制止するように、バルテルミ卿がそのいけ好かない騎士、グレゴワールに声を荒げて叱責する。
「おや団長殿・・・その地位には、誰のおかげで就けているのか、わかっておられるのですかな？」
相変わらず下卑た笑みで、バルテルミ卿に語り掛けるグレゴワール。
「その地位もこの手柄で、私のものとなるのだがね！！ ぶぅあははは！！ 愉快愉快！」
グレゴワールは高笑いしながら、そう言い放つ。
「えっと・・どういうことですか？ ギルド長・・・」
オレはその状況が理解できず、ギルド長にそのことの仔細を尋ねる。
「え～とつまりだな・・・」
ギルド長によると、それは貴族のややこしい問題であるという。
実はグレゴワールは領主の三男で、騎士団長の職に就かねばならない立場のようだが、今まで素行も悪く、大した功績もないようで、騎士団長の地位に就くには問題があったようだ。
そして今回の功績と、コロンのライトセイバーを手土産に、騎士団長の地位につく腹積もりのようなのだ。
ただこのグレゴワールが騎士団長となった場合、やりたい放題の悪い騎士団になってしまうのではという危惧もあるそうだ。
つまり自分の都合のいい状況を造ろうとしているグレゴワールを、何とかすればいいわけだな？
「どうやらグレゴワール様はお疲れのようですから、オレが特別にマッサージをして差し上げましょう」
ガチャ ガチャ！
オレは鉄の両手を動かしながら、馬に乗るグレゴワールに詰め寄った。
「はあ？ 貴様は何を言っている？ マッサージなど必要ないぞ！」
「まあ遠慮なさらずに。さあ！ さあ！！」
オレはマッサージを断るグレゴワールに、更に詰め寄った。
「グレゴワール様お逃げを！ ヨッシーは幼さゆえに常識が通用しません！」
そのオレの意図をくんだのか、ギルド長がさらにまくし立てる。
「き、貴様！ ちゃんとガキの教育くらいしておかんか！！」
グレゴワールはそう文句をいいながら、この場から、取り巻きの騎士を引き連れて、去って行った。
この状況を好き勝手にさせないためには、グレゴワールには早々に退場願った方がよろしいのだ。
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