09:戦闘準備
「なるべく大きくて丸い感じの岩を探してください」
「そんな岩を探してどうすんだ?」
ギルド長はそのオレの指示に困惑顔だ。
現在オレ達は、街に迫っている1000のオークの群れを討伐するために、南の砦に来ている。
この依頼は街の冒険者全員に課せられた、強制依頼でもある。
街の危機なので、やむを得ないことなのかもしれないが、街の冒険者1000人では、同じ数のオークの討伐は難しいようだ。
そこでオレはスマホを使った秘策を使うために、コロンとギルド長に、大きく丸い岩を探してもらっていたのだ。
「ヨッシー!! これなんかどうだ!?」
早くもコロンがお望みの岩を見つけたようだ。長い間スマホを見せてきたコロンには、おそらくオレが何をしようとしているか、わかっているのかもしれない。
「ちょっと上の角が気になるかな?」
その岩は直径5メートルはあろう大きな岩だが、頂上の部分に角があるのだ。
「ヨッシー水お願い」
「え? 何するの?」
オレはコロンが言った通りに、スマホのパーティクル操作で、ドボドボと水を出す。
パーティクル操作は、水や炎などの気体や液体を画像ファイルとして取り込み、それを増幅したり移動させたりして操作する、魔法のようなスマホの機能である。
「おいおい、無詠唱魔術か? いつ身に着けた?」
パーティクル操作を知らないギルド長は、これを無詠唱魔術と判断したようだ。
「あ、これオレ独自の魔法だから、気にしないで」
コロンが素早く詠唱すると、オレが出した水が、コロンの掲げた両手に吸い取られていく。
「キエンザン!!」
コロンは詠唱を素早く終え、例のバスソー型の水魔法を発動したようだ。
「おお! 何だ!?」
バコン!!
水のバスソーは大きく歪曲するように飛ぶと、岩の角の根元に当たり砕け散ったが、同時に岩の角もはじけ飛んだ。
「おお! 今のなかなかの切れ味だったんじゃない!?」
オレは靴の底にはめた板を浮遊させて浮かび上がり、5メートルの高さの岩の頂上を見た。
「ほう? 水の刃か? 丸くして回転させたのはなかなかの工夫だな。そのヨッシーの浮遊魔法は何だ?」
「まあまあ。それらの魔法については今は置いといてください。今あまり重要ではないので」
次々にギルド長から魔法に関する質問が飛ぶが、今やるべきことはその水魔法の検証でも浮遊魔法の検証でもない。
オレはこの限りなく球に近い形の岩がほしかったのだ。
「そうか・・・で? この大岩をどうするつもりだ?」
「こうします」
オレはスマホを操作して、その大岩をファイル化して収納する。
「おお! 何だ!? 岩が消えたぞ!? 今のは収納魔法か?」
ギルド長がその大岩が消える様子に驚愕する。
「のようなものです」
説明が面倒なので、簡単な説明でギルド長の質問をさらっと流す。
そして収納した大岩のポリゴン数を削るのを忘れない。
岩などの球形に近い形の物のポリゴン数を削ると、さらに球形に近づくのだ。
ポリゴン数を削り続け、極限まで球形になった大岩に、制作用スクリプトエディターで命令をほどこすと、オレは再び岩を目の前に出した。
ドドン!!
「おお! さっきの岩か!? お前がやったのか? 綺麗な球形に整えられているな?」
「はい。これを転がしてオークの群れを攻撃します」
オレはこの岩を操作して転がして、通路に入り込んで列になったオークを潰して、一網打尽にしようと考えているのだ。そして今回は命令系統を作る、スクリプト制作だけなので、消費ポイントは100と少なくて済んだ。
残りポイント:34327
「しかしこれだけの岩を操作するとなると、かなりの魔力が必要なんじゃねえか?」
消費魔力については考えていなかったが、とりあえず動かしてみないと何とも言えない。
「起動!!」
ゴロゴロゴロ・・・!!
オレが大岩のスクリプトを起動すると、大岩は命令通りに岩山の間の通路を転がった。
「おお!! これは凄いな!!」
ギルド長がその様子に驚愕する。
消費魔力は思ったよりも多くないようだ。
先の方まで転がしても、消費は2%ほどだった。これなら飴でも舐めればすぐに回復する量だ。
「う~ん・・・だがもう少し歪曲して転がせないか? これでは途中で壁に激突して、巻き込める数が減るかもな・・・」
「はい。やってみます」
とういう感じにギルド長のダメ出しを受けながら、大岩の罠は完成したのだった。
だがそのスマホによる罠制作を、多くの冒険者が目にしていたようで、ギルド長からのかん口令が敷かれた。
しかし冒険者の中には真っ当でないものもいるようなので、これからは一人で出歩くような行動は、しないようにと釘を刺されてしまった。
そしてその日、オークの群れの襲撃はなく、明日に持ち越されるのではないかという話だった。
「食料を支給するから取りに来い!!」
ギルド長が呼びかけると、多くの冒険者が列を作り、食料の配給の順番を待つ。
基本冒険者は自分達の食料は自分達で用意するのが定石だが、今回はあまりに急な依頼だったために、用意できなかった冒険者も多くいるようだ。
「コロンは並ぶの?」
「ああ。貰える物は貰っとく。ワタシはすぐにお腹が空くからな」
コロンは大飯ぐらいだ。オレと同じ量を食べても満足できないのだ。
「じゃあラーメン作って待ってるから、早めに戻ってこいよ。麺が伸びるから」
「麺が伸びるのか? 伸びて増えるならいいじゃないか?」
「そう言う意味じゃねえ。ようするに不味くなるんだ」
「不味くなるのは勘弁だ!」
そう言うとコロンは、急いで冒険者の列に並んだ。
この砦の土間は狭いようなので、自炊する冒険者は皆砦の中央にある、中庭に集まって自炊を始めていた。
オレは皆から少し離れた目立たない場所で準備を開始した。
どうせあんな大岩操るところを見せてしまっているし、オレの能力についてはかん口令が敷かれている。開き直ったオレは堂々と塩ラーメン6袋1000円を購入する。
残りポイント:33327
オレはスマホに入れて持ち込んだ、石の竈に薪を入れると火を付けた。
ドボドボ・・・
お湯はパーティクル生成で増産できるからとても便利だ。火にかけた鍋にお湯を入れると簡単に沸騰してくる。
沸騰したお湯に麺を入れると、瞬く間に柔らかくなってほぐれてくる。
今回はカップ麺でもいいかと思ったが、カップ麺は意外にポイントを食う奴ばかりだったので、今回は安い袋麺を選択した。
そして完成したのがこちらの塩ラーメンだ。
具は刻みネギのみとシンプルだが、この独特でジャンキーな香りが鼻腔をくすぐる。
前世のオレならこいつを2杯はかき込めたが、今ではその二分の一でも満腹になってしまうだろう。
「つるつる・・・美味いね・・・」
オレはその久々に味合うジャンキーな美味さを、しみじみと味わった。
「あ! ヨッシーもう食べているのか! 狡いぞ!!」
すると黒パンと干し肉を抱えたコロンが、走り込んで来た。
「コロンの分はそっちの丼に入っているから」
コロンは滑り込むと同時に丼を抱え込んで、その麺を大量にすする。
まるで何処かのアニメか漫画のような光景だ。
「随分と濃いい味の食べ物だな?」
「そうか?」
と言いつつすでに完食しているコロン。
その後残った塩ラーメンの汁で、干し肉を茹でるらしい。
まあ大飯ぐらいのコロンが、その一杯では満足しないよね。
「ギルド長!! もうじきオークの群れがこちらへ来ます!!」
翌朝斥候の男が、オークの群れの接近を知らせるために駆け込んできた。
「全員外へ出ろ!! 奴らを迎え撃つ!!」
ギルド長の指示が飛び、冒険者達の間に緊張が走る。そしてオレ達の初めての集団戦が幕を開けた。
残りポイント:33327
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