02:コロン・ロロロ・ンロダ
「誰だお前は!?」
オレがブランケットに包まり、寝息を立て始めたその時、少女らしき人物が、洞窟の入口の方で叫ぶ声が聞こえた。
オレは気づくと幼女に転生しており、手には前世で持っていたスマホを握っていたのだ。
そのスマホが不思議なスマホで、ネット注文した商品を瞬時に届けてくれる、理解不能な機能を持っていたのだ。
顔を上げて声のする方を見ると、耳の尖った、牛のような角を二本はやした漆黒の髪のコスプレ少女が、目を赤く光らせながら、こちらを見ていた。
背がオレよりも高いことから、年上ではないかと思われる。ナイフのような刃物をこちらに向けていて、正直少し怖い。
服は胸と下半身だけを隠すためと思われる、毛皮で作ったようなさらしと、短いスカートを履いている。足は黒い布を巻いているだけで、ほとんど裸足だ。
「すいません。どちら様でしょうか?」
オレはブランケットから出ると、できるだけ少女を刺激しないように、ゆっくりとした口調で尋ねた。
「その焚火はお前が付けたのか?」
「はい。そうです。よろしければ一緒にあたりませんか?」
するとコスプレ少女は、オレの無抵抗な様子に安心したのか、刃物を腰に括り付け、焚火に近づいて来た。
「お前・・・小さいな? いくつだ?」
コスプレ少女はオレに近づくと、オレの小ささに気づいたのか、オレの年齢を尋ねて来た。
「記憶がないんで、年齢はわからないんです・・・」
「ふ~ん・・・この森にはどうやって入ったんだ?」
「気づいたらこの森にいて・・・一人で・・・うぅ・・・」
そしてコスプレ少女を目の前にすると、ようやく人に会えた安心感からか、涙が溢れて来た。
この体は感情のコントロールが難しいようで、すぐに泣き出したりしてしまうようだ。
「おい! 泣くなよ~!」
するとコスプレ少女はオレを抱き寄せ、頭をよしよしと撫でて来た。
その行動からそのコスプレ少女が、悪い人物ではないのが伝わった。
ぐぅぅぅぅ~・・・
するとコスプレ少女のお腹が鳴った。
「お腹空いているんですか?」
「ああ。最近小さな木の実しか食べていないから、腹が空いて仕方ねえ」
一応食べてはいるのか・・・・
「あの! 味は保証できませんが、それなりの量でしたら、ご馳走できるかもしれません!」
オレは先ほどリュックの上に置いたカレーパンを、コスプレ少女に渡した。
「何だこれ? 透明な袋? の中に何か入っているのか?」
「その袋を開けて中身を食べるんですよ?」
「ん? こうか?」
バリ!!
コスプレ少女は力任せに袋を破ると、中のカレーパンを不思議そうにまじまじと見た。
「何だこりゃ? パンか? にしては色が薄いな? それに表面に油が付いている」
「カレーパンですよ。見たことありませんか?」
このコスプレ少女は、カレーパンを見たことがないのかな?
気が付けばオレが無意識にしゃべっている言語も、日本語ではなく、どこか知らない現地語のようだ。
するとここは日本ではないのだろう・・・どこかの発展途上国だろうか?
「ないな。こんな不思議なパンは初めて見るな。
どれ食ってみるか? ぱく! ぱく! ぱく・・・・むぐむぐ・・・」
そしてコスプレ少女は大口を開けて、わずか数口でカレーパンを完食してしまった。
「ほう? 食べたことのない味だ・・・この油とサクサクした衣がいいな!」
そして残り最後のカレーパンに、そのコスプレ少女の目は釘付けとなった。
「よろしければどうぞ・・・」
そしてオレは、最後のカレーパンを差し出した。
ここで印象を悪くして、この少女に見捨てられたくはないからな。
「お~~! 悪いな!!」
バリバリ!
「ぱく! ぱく! ぱく・・・むぐむぐ・・・」
そしてカレーパンを受け取ると、袋を破き、再び数口で食べきった。
「ふ~・・・少しは腹の虫もおさまったか?」
そうですか・・・
「あ!! 悪い!! もしかしてお前のぶんまで食っちまったか!?」
オレのその様子を勘違いしてか、コスプレ少女はオレの分まで食べたと思ったようだ。
「いいえ。お構いなく。先ほど食べてお腹はいっぱいですので」
「そう気を遣うなよ!
明日はワタシが何か獲物を仕留めて来てやるから! 安心しろ!!」
パンパン!!
「けふ!」
そう言いながらオレの背中を叩くコスプレ少女。
力いっぱい叩きすぎだ!!
ひ弱なオレは、それでよろけて前のめりに転ぶ。
「お前本当にひ弱だな? そんなんじゃこの森では生きていけね~ぞ?」
確かにコスプレ少女の言うように、今の自分がひ弱な自覚はある。腕も細いし、体も小さい。
しかし鍛えればどうにかなるレベルでない気もする。年齢的に・・・。
「まあワタシがここにいる間は、護ってやってもいいぜ!
ワタシもこの洞窟の住人だからな!」
なるほど。やはりこの少女は、オレが来る前から、この洞窟に住んでいたようだ。
「まあ家長として、自己紹介くらいはしておこうかな!!」
いつお前がこの洞窟の家長になったんだ?
「ワタシの名はコロン・ロロロ・ンロダ! 偉大な魔族の名前だ! 覚えとけ!」
なんて言いにくい名前だ。舌を噛みそうになる。そしてこの娘が厨二病であることが確定した。
「えい!!」
ポコ!
「いって! 急に何を!?」
するとコスプレ少女改めコロンは、オレの額にチョップをしてきやがった。
「人が名乗りを上げたら、自分も名乗るのが礼儀だ!! 覚えとけ!!」
なるほど・・・コロンのチョップの意味はそれか・・・でもオレの今世の名前って何だ?
いくら考えても、浮かんでくるのは前世の名前ばかりだ・・・
「もしかして名前も思い出せないのか?」
「いえ・・・そういう訳では・・・」
そしてオレは、とりあえず前世の名前を言うことにした。
「ヨシダ・ケイタです・・・」
「あん? 何だそりゃ?」
「ヨシダ・ケイタがオレの名前です! ヨシダが苗字でケイタが名前です!」
「だあ~はははは!! 変な名前だな!?」
するとコロンは、オレの名前に腹を抱えて大爆笑だ。
お前にそれを言われたくない。
「じゃあケイタ? ヨシダ?」
ひとしきり笑ったコロンは、オレに尋ねて来た。
「ヨシダでもケイタでも、好きに呼びやがれ!!」
名前を笑われたオレは、ふくれっ面でそう答えた。
「じゃあヨッシーな」
何だと・・・? どちらでもないだと!?
こうしてオレのあだ名は、ヨッシーに決定されたのだった。
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