32:皇帝の決断
「あれだけの航空戦力が、たった数機に敗れたというのか!?」
皇帝はヒュロピア領侵攻の、敗戦の報告を受け、戦慄していた。
バルーン100機にドラゴンライダー10騎もの航空戦力が、たった数機の機体に太刀打ちできず、退却を余儀なくされたのだ。
その被害はバルーン85機に、ドラゴンライダー10騎に及んだという。
「とくに開戦前に遠距離から放たれた、超広範囲の雷魔法の被害が甚大で、バルーン85機とドラゴンライダー2騎が落とされております」
「ばかな! 85機ものバルーンを落とすとは!」
「しかもあのドラゴンライダーまでもがか・・・!?」
「どれほどの規模の魔法であったか想像もできんぞ!」
その報告を聞いていた将校たちも戦慄し、ざわめきだす。
プリウス中将の言う雷魔法とは、魔道航空機から放たれた、雷撃ミサイルのことである。
彼ははっきりと雷撃ミサイルの存在を、確認できなかったために、魔法と表現したと思われる。
「開戦前だと? それはかなり距離があったということか?」
「はい。その時敵は、10000フィート程離れた位置におりました」
「そのような遠距離魔法、聞いたこともないぞ!?」
「それが本当だとしたら、帝国のどのような兵器を用いようと、太刀打ちできぬではないか!」
帝国の兵器は届くとしても、最大600メートル程が限界である。
10000フィートはだいたい3キロメートルなので、その距離からの攻撃であれば、帝国の部隊は、なすすべもなく一方的に攻撃を受けるのである。
「いや・・・。直撃さえ免れれば、ドラゴンライダーならばその雷魔法にも耐えられることを確認しております」
今回の戦闘で10体中8体ものドラゴンが、その雷撃ミサイルに耐えているのだ。
「おお! 流石は我らがドラゴンライダーだ!」
「ならばドラゴンライダーで攻めればあるいは・・・?」
その報告に将校たちは、浮足立つが、皇帝の表情は変わらず険しいままだった。
「それが不可能だったのであろう? それゆえ今回敗北しておるのだな?」
「はい・・・。ヴァルキリーの登場でその希望も失われました・・・」
今回ヴァルキリーの登場により、8騎ものドラゴンライダーが、落とされているのだ。
その報告を聞いた将校たちの表情も、途端に険しくなる。
「ほう? してそのヴァルキリーの性能とはいかなるものであったのだ?」
「問題になっておりました、ヴァルキリーの戦闘能力についてですが、我々の保有するドラゴンライダーを遥かにしのぐ強さでありました」
密偵の報告で明らかになった機体だが、その戦闘能力については、飛行能力以外は未知数であったのだ。
だが今回の戦闘で、その強大な戦闘能力が、明らかとなったのだ。
「馬鹿な! あのドラゴンライダーを遥かにしのぐだと!?」
「ありえぬ!」
「何かの間違いではないのか!?」
ナジェル帝国にとって、ドラゴンライダーとは最高の戦力であったのだ。
鋼の武器は通用せず、魔法にまで強い耐性をもつドラゴンは、まさに無敵の存在であった。
それを単機で倒せるヴァルキリーという存在が、他の将校たちには、とても信じられなかったのである。
「今の話を聞く限りでは、我ら帝国には、ルエパラ王国の戦力に、遠く及ばぬものと判断せざるをえまい・・・・。それともそのヒュロピア領だけが異質なのか?」
ルエパラ王国の戦力については、密偵からの報告もあり、ある程度知れ渡っていたのだ。
そこへきてこの情報の食い違いから、皇帝はヒュロピア領の特殊性を考えた。
「ヒュロピア領の戦力は不気味すぎます・・・・。何度侵攻したところで、同じような結果にしかならないでしょう。某は即座に和平交渉をすべきと考えます」
「馬鹿な! それでは我が帝国の敗北を認めるようなものだぞ!」
「今一度作戦を練り直し、再度侵攻すべきだ!」
ヒュロピア領の戦力に直接触れ、その強大さを知っていたプリウスは、ルエパラ王国との和平交渉を考えてていた。
だが他の将校たちは、その和平交渉には反対であった。
それはたった一度の侵攻を退けられたところで、帝国が和平を申し出るなど、今までにはなかった出来事だったからだ。
それにこの大敗の直後では、和平交渉で足元を見られるのは間違いないかった。
「和平交渉の準備を進めよ・・・・」
そこで皇帝の下した判断は、和平交渉を進めることだった。
「なんですと!?」
「陛下それはなりませぬ!」
「お考え直しを!」
その皇帝の意見に、将校たちが猛反発する。
「黙れ! 我が決定は絶対である!」
その皇帝の言葉に、一斉に将校たちは押し黙る。
「今一度戦端を開くには、時間をかけてヒュロピア領の戦力を、見極める必要があるだろうな・・・・」
そして皇帝はそう呟いたのだ。
和平交渉を持ち出し、成立させ、味方の振りをして内部に潜り込み、その技術を盗み出すのは、帝国の常とう手段でもある。
皇帝は再びヒュロピア領に侵攻することを、諦めたわけではなかったのだ。
「ならばその和平交渉、ぜひこのクラウディアめにお任せください!」
和平交渉の交渉人に名乗りを上げたのは、第一皇女クラウディアだった。
クラウディア皇女は普段は、豪華なドレスに身を包んでいるが、そのドレスの下には、いくつもの武器が仕込んである。
クラウディア皇女は、文武ともに秀でた、軍人でもあるのだ。
「いいだろう・・・・。交渉人はお前に任せる」
「は! ぜひルエパラ王国から良い返事を引き出してご覧に入れます!」
こうしてルエパラ王国に、交渉人としてクラウディア第一皇女が、派遣される運びとなった。
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