30:帝国との開戦前編
「ついにこの日がきちゃったか・・・オレ戦争とかあまりしたくないんだけど?」
「今更ぶつぶつ言っても仕方ないだろ? いい加減腹をくくれ!」
先ほど帝国侵攻の報告を受けたオレは、文句を言いつつも、ヘリに乗り込んでいた。
平和な世界で過ごした経験のあるオレにとっては、戦争などとても考えられない話である。
今から数時間前にヒュロピア領山脈上空より、多くの航空戦力が、侵攻してきたと報告を受けたのだ。
「全員準備はいいかしら!?」
「「はい!」」
そんなオレをよそに、パナメラを中心としたヴァルキリー部隊は、気合十分のようだ。
この異世界に生まれた彼女らは、オレとは意気込みが違うようだ。
彼女らも続々とヘリに乗り込んで行く。
「今回はユースたんは来ないんだよね?」
オレは見送りの中にいる、ユースたんにそう尋ねる。
見送りには城の使用人は勿論、多くの領民も詰めかけているのだ。
「いつまでも甘えないでくれるかしら? 今回は対策も万全ですし、わたくし抜きでも余裕で戦えることでしょう」
ユースたんはそう言うが、この戦争に対するオレの不安はぬぐえない。
確かにオレにとっては戦争は二度目だが、今回は少数戦力での、敵戦力の掃討を行うことになっているのだ。
それはユースたんが今回の戦争では、黒金とコロン、ヴァルキリー4機と、ヘリが2機で十分に対抗できると判断したからだ。
一方ナジェル帝国側の戦力は、バルーン100機にドラゴンライダーが10騎と聞いている。
果たしてこの戦力差で、本当にオレたちは勝利できるのだろうか?
ちなみにヴァルキリーを持たないフォセットさんには、現在騎士と兵士の指揮を任せている。
もしも地上に何かあった場合は、彼女らが対応することになるのだ。
「前方3キロ先に敵影を発見! 帝国の航空戦力とみられます!」
ヘリでしばらく上空を進むと、山脈付近でアーノルドがそう報告をしてきた。
同じくオレも望遠鏡を覗き込むと、遠くに多くの飛行船と、翼をはためかせるドラゴンの様子が見えた。
「とりあえず相手側の交戦の意思を確認するから・・・」
いくら大群で押し寄せてきたとはいえ、大義名分がなければ、こちらから攻撃を仕掛けたと、後で言い逃れされかねない。
それに話し合いに持ち込めみ、戦闘を回避できるなら、それに越したことはない。
『こちらはヨーレシア・ド・ホワイトナイツ伯爵です! この先はルエパラ王国の領地であります! これ以上の進行は領土侵犯となるので、引き返してください!』
オレはヘリの助手席から、拡声器に向けて、帝国軍と見られる航空部隊にそう呼びかけた。
「馬鹿なルエパラ軍に告げる! たった2機で何が出来る!? 大人しく克服するなら命だけは助けてやる!」
すると大きな声で、そう返答があった。
よくあの距離から拡声器もなしで、声が届くものだと感心するが、昔の人は山と山の間で、歌を届けあったと聞くし、このくらいの距離なら、メガホンだけあれば届くのかもしれない。
だがその内容を聞く限り、向こうは進行を止める気はないようだ。
奴らがオレの領地に侵攻してきて、好き勝手するのは、とても許容できない。
そこでオレは奴らがこちらに対して攻撃の意思有りと判断する。
ついにオレたちと、帝国の航空戦力との、戦争が開始された。
「雷撃ミサイル準備! 先制攻撃をします!」
「ラジャー! 雷撃ミサイル発射準備! 目標敵航空戦力!」
『了解しました! こちらも雷撃ミサイルを撃ち込みます!』
オレが雷撃ミサイルの発射を指示すると、アーノルドと別機体に乗り込むゴンツから、そう報告を受ける。
雷撃ミサイルとは、目標を数100キロメートルまで捕捉し、打ち込まれる、雷撃魔道兵器である。
雷撃ミサイルの攻撃範囲は直径1キロに及び、多くの敵を巻き込んで感電させるのだ。
今回その雷撃ミサイルを、ヘリに4基ずつ搭載してある。
「てえええええ!!!」
オレのその命令とともに、雷撃ミサイルが帝国の航空戦力に向けて、発射された。
第三者視点~
「ヴァルキリーだかなんだか知らんが、これほどの戦力があれば、帝国が負けることはあるまい・・・」
帝国将校プリウス中将はそう呟きつつ微笑む。
彼は今回ナジェル帝国航空部隊の、指揮を任された将校であった。
彼は最後部で飛行するバルーンに乗り込み、上空前方の様子を窺がっていた。
バルーンは飛行船型の航空機で、風を放出する魔道具により、その進行方向を変更することも出来るのだ。
その搭乗人数は、その大きさに対して8人ほどと少ないが、航空戦力の少ないこの異世界では、上空からの攻撃が可能なメリットは大きい。
その攻撃手段の一つが、火炎瓶による投擲である。
この攻撃を受けた国や領地は、一方的に領土を燃やされ、なすすべもなくナジェル帝国に、敗北してきたのだ。
またナジェル帝国の、ドラゴンライダーの存在は大きい。
隣国ドラゴニール王国から、奪い取ったそのドラゴンをテイムする技術は、ナジェル帝国の強さを、よりゆるぎないものとしたのだ。
ナジェル帝国では、若いドラゴンのみしかテイムはできないが、魔法や物理攻撃に対して、絶対的な強さを誇るドラゴンに対して、抗うことの出来る存在はごく少数だ。
そのドラゴンが集団で襲ってくれば、大概の国は屈服し、克服してくるのだ。
「プリウス中将! 3キロ先に敵影2機接近中であります!」
その時部下の一人が、プリウス中将に敵の接近を知らせる。
『こちらはヨーレシア・ド・ホワイトナイツ伯爵です! この先はルエパラ王国の領地であります! これ以上の進行は領土侵犯となるので、引き返してください!』
すると敵側から帝国軍に向けて、よく通る声で、注意勧告が聞こえた。
「子供の声だと? しかもたったの2機でやってくるとは・・・・お目出度いことだ。あくまで戦闘の意思のないことを示したいのか? 剣を手に取らぬ者は蹂躙されるのみよ!」
その声を聞いたプリウス中将は、相手に攻撃の意思がないと判断した。
次に相手に返答を送るためにメガホンを手に取る。
「馬鹿なルエパラ軍に告げる! たった2機で何が出来る!? 大人しく克服するなら命だけは助けてやる!」
そして下卑た笑みを浮かべつつそう告げたのだ。
ナジェル帝国に克服した場合、奴隷として連行され、そのまま労働者として、酷使されることが確定している。
なぜならナジェル帝国は、そんな奴隷によって支えられている国だからだ。
「敵航空機より何か仕掛けてきます!」
「なに!? この距離からいったい何ができるというのだ!?」
この異世界にとっての、遠距離攻撃とは、魔法や弓矢がほとんどである。
技術の進んだナジェル帝国でさえ、いまだボーガンを使用しているのだ。
そのボーガンは矢に風魔法をまとわせることで、飛距離を600メートルもの距離に伸ばすことが可能にはなっている魔道兵器だ。
そんな彼らにとって、2キロ先から放たれる何かは、理解の及ぶものではなかった。
ゴロゴロ! ピシュア~ン!
その時飛来物より光が放たれ、轟音が響いたのだ。
見ると前方にある数機のバルーンが、黒焦げて火を噴き、墜落しているのが見えた。
「ひいぃ!」「何だ!?」
「バルーンが黒焦げだぞ!」
「何が起こった! 被害を報告せよ!」
その現象により、辺りは阿鼻叫喚となり、プリウス中将が声を荒げて報告を求める。
「落雷による被害かと思われます!」
その攻撃の正体が、判断できない帝国兵は、それを落雷による被害だと判断した。
それはバルーンで飛行中に、運悪く機体に落雷が落ちたという前例が、あったからに他ならない。
ガガガガ!! ドシャ~ン!!
すると再び落雷のような音が響き、黒焦げとなったバルーンが、いくつも墜落を始める。
運悪く翼を焼かれたドラゴンが、山脈へと徐々に降下する。
「いったい何だというのだ!?」
その2度に及ぶ落雷が、ルエパラ王国側の魔道航空機の、攻撃だとは理解できず、ただ恐怖に怯えるプリウス中将であった。
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