27:ヒュロピア領の視察中編
「農地にもやはりああいった魔道機械があるのね・・・・」
レーティシア姫の言う魔道機械とは、現在土地を耕している、魔道耕運機のことだ。
ちなみにその魔道耕運機は、人が乗り込んで使う乗用型のものだ。
この異世界では基本クワやスキを使い、人海戦術で土地を耕すのだ。
そのため魔道耕運機による、少人数での土地を耕す作業は珍しいのだろう。
視察団の貴族たちは、目を皿にして、稼働中の魔道耕運機を見ている。
「あれ一つでどれほどの土地を耕せるというのだ?」
「人の何十倍もの速度で耕すことができますから・・・・100平方メートルくらいなら2分とかからないのではないでしょうか?」
「それほどか・・・・」
「なんという速度だ!」「ありえない!」
国王の質問にオレが答えると、国王を始め周囲の貴族たちが驚愕する。
魔道耕運機は時速4キロほどの速度で土地を耕すので、人が土地を耕すよりは、何倍も効率がいい。
ちなみに人が土地を耕す場合、100平方メートルでも2時間以上は、かかるのではないだろうか?
「それでは農夫の人口が減っちゃうわね。仕事にあぶれた農夫はいないのかしら?」
魔道耕運機を使えば当然少数での農作業が可能となる。
その分農業に必要な人口が減ることになるのだ。
そうすると仕事にあぶれ、職を失う者も出てくるのではと、レーティシア姫は危惧しているのだ。
「他の農夫たちは現在土地の開墾に回しています。この領地は森が大半を占めていますからね」
今まで開拓が頓挫していたためか、ヒュロピア領にはいまだに、広大な森が広がっているのだ。
その森を切り開き、開墾しているのは農夫たちだ。
もちろんその作業にも多くの魔道機械が使われ、効率よく作業が進められている。
だが冒険者が活躍する、魔物の生息域も必要であるために、全ての森を切り開く必要はない。
開墾がある程度進めば、新たにできた農地に、現在開墾を進めている農夫が、割り当てられるのだ。
それでも仕事にあぶれる農夫がいた場合は、他の農作物の開発に当たってもらうのもいいかもしれない。
まだまだ作りたい作物は、沢山あるのだ。
「あれがサトウキビと胡椒の畑ね? 報告にあった時は信じられなかったけど、まさか本当に栽培に成功していたなんてね・・・・」
次に視察団が興味を示したのは、サトウキビと胡椒を栽培しているビニールハウスだ。
勿論サトウキビと胡椒の最適環境を探るために、栽培しているビニールハウスは別々にしている。
サトウキビも胡椒も遥か南の地から届けられるため、その価値は高いのだ。
ルエパラ王国にもその栽培に挑戦する領地は、いくつかあったようだが、成功した例は一つもないという。
つまりヒュロピア領は、サトウキビと胡椒の栽培に成功した、ルエパラ王国で初の領地となるのだ。
「なるほど・・・。一人一人の練度は高いですが、特に突出したところはないですね・・・・」
その軍事訓練を目にしたレーティシア姫はそう呟いた。
次に視察団を案内したのは、騎士や兵士の訓練場だ。
そこではどこの領地でも見慣れた、槍や騎馬、弓矢を用いた訓練をしている。
それは領内の治安を守るためでもあるが、有事の際の戦闘訓練でもあるのだ。
ちなみに騎士や兵士の練度が高い理由は、たまに訓練に訪れる、コロンの指導によるものだ。
「拍子抜けですな! これではとても王国最強であるホワイトナイツの部隊とは言えませんぞ!?」
同じくそれを見ていた視察団のゲスノール伯爵が、下卑た笑みを浮かべつつそう悪態をつく。
「まあオレは平和主義者ですからね。自ら進んで強力な戦力を得ようとは思いませんよ」
「いったいどの口が言うのか? 貴様はドラゴンを倒すほどの戦力を隠し持っていよう! それとも王族にその力を隠し、謀反でも起こすつもりなのか!?」
オレが正直な気持ちを話すと、ゲスノール伯爵はさらに食い下がってくる。
どうやらゲスノール伯爵は王族の不信感を利用して、オレを貶めようとしているようだ。
「口を慎みなさいゲスノール伯爵! その戦力については既に報告を受けております! 貴様がわざわざ口を挟むことではない!」
どうやらレーティシア姫には、ゲスノール伯爵の思惑が筒抜けとなっており、そのことで彼女の機嫌を損ねたようだ。
まあ王族にはドラゴンを倒したことは報告しているし、その時点でその戦力についても、明かしているのだ。
そこまで思考が及ばないゲスノール伯爵は、自ら墓穴を掘ったことに今更気づき青くなっているがな。
馬鹿なのだろうか?
「出過ぎたことを申しました! お許しください!」
ゲスノール伯爵はそんなレーティシア姫に謝罪し許しを請う。
「ヨーレシア伯爵。その戦力とやらを見たい輩がおるようなので、もったいぶらずに見せてあげてください」
「かしこまりましたレーティシア姫」
オレはレーティシア姫にそう命じられると、スタスタと演習場に出ていき、上空に魔銃を向けた。
ひゅるるるるる・・・・・ド~ン!
そしてオレが魔銃の引き金を引くと、青い発煙筒が撃ち上がった。
この魔銃は発煙筒を撃ち上げるための物で、合図を送ることを目的としたものだ。
今回の合図は要求されるであろう、航空戦力の演習の合図だ。
タカタカタカ・・・・・
「あれを見ろ! 翼もないのに空を飛んでおるぞ!」
「なんと面妖な・・・・」
オレの合図と同時に、ヘリが二機上空に現れた。
そのヘリは間違いなく、アーノルドとゴンツが操作する魔道航空機だ。
その初めて目にする魔道航空機に、視察団の貴族たちも驚愕する。
「あれが報告にあった魔道航空機ですか・・・・」
「随分とおかしな形をしておるが、よくあれで空が飛べておるな?」
この国で飛行する物と言えば、翼か羽の生えたものばかりだ。
まれにゴーストなどの、浮遊する魔物はいるようだが、それを例外としても、ヘリのようにプロペラを回転させて、飛行する乗り物は存在しないのだ。
それは彼らから見れば、まさにUFOなのだろう。
「見ろ! 何か鎧のようなものが出て来たぞ!」
「まるで天使のようだ!」
次に魔道航空機からは、次々にヴァルキリーが飛び降りてくるのだ。
それは赤、桃、青、緑色の四機のヴァルキリーだ。
今回ヴァルキリーは飛行ユニットを付けて、上空での演習を行うのだ。
それはヴァルキリーによる、航空ショーのようなものだろう。
「あの赤いのは当家のシャルロッテだ!」
「桃色のはフランソワだ!」
どこでその情報を聞いたのか、ヴァルキリーを装着する彼女たちの親が、自慢げにそう指摘する。
まあそれはリュシアン侯爵と、トムおじさんだがな。
さながら授業参観の保護者の様相だ。
彼女らが上空で舞う様子は、とても美しく見ごたえがある。
確かにこれは、天使が舞っていると噂されても、可笑しくはないだろう。
「あの飛行ユニットは、当然わたくしにも譲っていただけるのでしょうね?」
するとその様子を見ていたレーティシア姫が、目を立てながらそんなことを言って来た。
実はレーティシア姫にも、雷をイメージするであろう紫色の、ヴァルキリーを献上しているのだ。
ところが飛行ユニットの献上については、先送りにしていた。
それはお付きの方より、レーティシア姫が空を飛ぶことに対して、反対意見が出ていたからだ。
お付きの方からすれば、上空はかなり危険な場所であるという認識なのだろう。
そんな場所にレーティシア姫が行くのは、反対してもおかしくはない。
「あの・・・・。そこにおられるお付きの方々を、納得させることが出来れば献上いたしますけど・・・・」
オレがそう言うと、レーティシア姫はお付きの方々を、キッと睨みつける。
「姫様なりません!」
「あら!? どうしてかしら!?」
そして何やらもめ始めた。
その話し合いについては、視察の後にしてほしいものだ。
そんなもめ事をよそに、四機のヴァルキリーが次々と魔道航空機に戻り、魔道航空機が去っていくと、航空ショーは終了した。
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