26:ヒュロピア領の視察前編
ヒュロピア領の開拓も進み、街も出来上がってきたので、オレは領地をお披露目することを決定した。
領地のお披露目には、王族や周辺の領地の貴族に、招待状を送り視察に来てもらう必要がある。
オレは早速王族と周辺の領地の貴族に招待状を送った。
こうしてオレが招待状を送った一ヶ月後に、周辺貴族と王族がヒュロピア領に訪れ、視察する運びとなったのだ。
そしてこの日、レーティシア姫と国王夫妻が、オレの領地の周辺の貴族や、かかわりのある貴族を引き連れて、ヒュロピア領の視察に訪れたのだった。
オレにかかわりのある貴族とは、当然ブラックナイツの傘下の、バートム伯爵や、その代表であるヴァレリアン侯爵である。
今回は特別枠でシャルちゃんのお父さんの、リュシアン侯爵も訪れている。
また周辺の貴族は、お隣の領地の領主であるゲスノール伯爵と、マクシミリアン伯爵である。
その二人は領地にいるであろう貴族を、引き連れてきていた。
そのほぼ全員が唖然とした様子で、ユースティティアの街を見ている。
「ヨッシー! ヨッシィィィィ!」
だがレーティシア姫はユースティティアの街を見ると、途端にヒステリックな声を上げたのだ。
そこにはニヤニヤとオレの不幸に対して、薄ら笑いを受かべ喜ぶ、いけ好かないゲスノール伯爵もいるが、今のオレにそいつを気にしている余裕はなかった。
レーティシア姫は愛馬スレイプニールに跨り、とても不機嫌そうに見える。
「どうしてこのような超魔道都市を造ってしまったのですか!?」
レーティシア姫はこの街を超魔道都市と言うが、オレにとってはただの近代的な街だ。
ビルも最高で20階程度のものだし、道路にしてもアスファルトでなく、中世ヨーロッパ的な石畳の道だ。
「これでは王都の規模を超えているではありませんか!」
つまりレーティシア姫は、ユースティティアの街の規模が王都の規模を超えていて、不敬だと怒っているのだろう。
だがユースティティアの街は、王都の四分の一の大きさもないのだ。
こんな小さな街と、大きな王都を比べるのもどうかと思うのだが・・・・。
「えっと・・・・。この街のどの辺を見て超魔道都市とおっしゃるのでしょうか?」
オレにとってこの街は、まだほんの片田舎の街にすぎないのだ。
オレの中の大都市とは、高層マンションが立ち並び、地下鉄も走っていた。
また超魔道都市というのならば、浮遊する大きな建物とか、宣伝用の立体映像くらい欲しいものだ。
「摩天楼に多くの浮遊する乗り物! 街のあちらこちらには魔道具の外灯! さらに色とりどりの光に照らされたこの街を、超魔道都市と言わなくて何と言うのですか!?」
摩天楼? あちこちに建てたビルのことだろうか?
外灯はわかるが、色とりどりの光とは、何のことだろうか?
もしかして信号機や、店の光を使った、カラフルな看板のことを言っているのか?
「まあまあレーティシア。ヨーレシアらしくて良い街ではないか」
「そうね貴方。ぜひ老後はこんな街で過ごしてみたいわね!」
それとは裏腹に、国王夫妻の反応は上々のようだ。
この二人は王宮にいたころには、オレのことを、まるで実の娘のように、可愛がってくれたんだよね。
「お父さまとお母さまはヨッシーに甘すぎます! これでは王族よりも自らが上であると喧伝しているようなものですよ! 周囲の貴族にも示しがつきません!」
「だがここはあの女神ユースティティアの住まう街でもあるのだぞ? 神ならば王族よりも上の存在であると言っても過言ではあるまい?」
まあここの領主はオレだが、その母親が女神ユースティティアとよばれている、高次元生命体なのだ。
ここが女神ユースティティアの街と言われても、誰も疑わないだろう。
それに街の名前がユースティティアだし、本人もその街の名前に納得している。
様々な街の仕組みを、ノリノリで考えたのもユースたんであるし、ここは疑いようもなく彼女の街だろう。
「はあ~・・・・。ここが女神ユースティティアの街であるというのならば、引き下がる他ありませんね。しかしもう少しヨッシーには自重して欲しかったです」
そう言ってレーティシア姫は、オレを恨めしそうに見た。
まあこう言ってはいるが、彼女も最終的には、この街を認めてくれたんではないだろうか?
例えユースたんがこの街にいなくとも、自重しろという、注意だけにとどまっていたと思う。
そのために色々な口上や理由付けを、考えてくれていたのではないだろうか?
レーティシア姫とはそういう心配性な口うるさい娘なのである。
まあそもそもユースたんがいなければ、街はここまでの形には、ならなかっただろうけどね。
オレはその話が済むと、先ほどニヤニヤとこちらを見ていたゲスノール伯爵に向けて、満面の笑みを浮かべてやった。
オレが不幸にならなくて、残念だったね!
するとゲスノール伯爵は、「けっ!」と吐き捨てるように言い、そっぽを向いてしまった。
「この街の案内は浮遊車でいたしますので、馬は馬小屋でお預かりいたします」
そう言うとオレは、馬小屋の方を指し示した。
「馬小屋は普通なのね?」
「馬小屋は馬が落ち着くようにと、普通のものにしています」
馬は神経質な生き物なので、馬小屋まで近代的にしてしまうと、落ち着かず、ストレスを抱えてしまうのではないかと思ったのだ。
そこで馬小屋は木製の、この国で一般的な、馬小屋にしてみた。
まあ今回預かる馬の数が多いので、城壁にそってど長い馬小屋になっているがね。
「浮遊車はこちらになります」
オレがそう言うと黒光りする七人乗りの、長い浮遊車が数台やってくる。
まあ高級で有名な車種を、参考にして造った浮遊車なんだけどね。
「美しい乗り物だな。この王族の紋章は?」
国王が車のフロント部分にある、王家の紋章に気づいたようだ。
ルエパラ王国の王家の紋章には、王族の先祖である、勇者の愛馬といわれている、スレイプニールが描かれているのだ。
「王族の乗られる物だけにこの紋章をつけてあります」
「なるほど。気が利いておるな・・・・」
国王は感心したように顎髭を撫でる。
実はこの国では、王族の使用する物に、王家の紋章を付けるのは、王族に対する敬意にあたるらしいのだ。
「この乗り物は献上していただけるのかしら?」
すると王妃が遠回しに、高級浮遊車をよこせと言って来た。
王族にくれるのかと尋ねられた場合、断るのは不敬にあたる。
なのでこれはもうくれと言っているのに等しい。
「もちろんよろしいですよ。よろしければ動力である魔力が補給できる、魔力スタンドも王宮に用意しますがいかがですか?」
魔道車は魔力を動力に動いているのだ。
その魔力は魔力スタンドから補給可能だ。
魔力スタンドは龍脈から漏れ出る、わずかな魔力を蓄積して使用しているので、無駄のないエコな仕様となっている。
王宮内にも細い龍脈が通っていて、王宮にいた時には利用していたので、その跡地を使えば魔力スタンドは建てられるはずだ。
「お願いするわ!」
王妃は満面の笑顔でそう答えた。
そしてこれから各自魔道車に乗り込み、ヒュロピア領を視察して回るのだ。
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