19:モリ村での出来事
「おい! こら! 盗んだものを返せ!」
そう言ってコロンが入り口の、藁のカーテンをめくると、幼い獣人の子供が3人と、オレから焼ホッケを盗んだ泥棒猫の少女がこちらを振り向く。
どうやら焼ホッケはすでに、幼い子供たちに、与えてしまっているようだ。
子供たちは引き裂いたホッケの欠片を、骨も気にせずバリバリと食べている。
皆薄汚れて、まるで浮浪児のような感じだ。
お腹がすいていたのだろう、オレたちの方を振り向きながらも、一心不乱に食べている。
「ふぅ~!!」
すると泥棒猫の少女が、毛を逆立ててオレとコロンを威嚇する。
幼い子供たちは怯え、お互いに身をすり寄せ震えている。
まるでこちらが、悪人のような気になってくる。
「ぎゃう!!」
そして少女はオレの方が弱いと見たのか、オレの方に向けて飛びかかってきた。
ガバ!
「おとなしくしろ!」
だがあっという間に、コロンに襟首を掴まれ、宙づり状態となってしまう。
「「姉ちゃん!!」」
すると心配そうに幼い子供たちが、姉らしき泥棒猫の少女に向けて声を上げる。
「盗みは悪いってわかっているよな?」
コロンは少女に向けて、厳しい表情でそう尋ねる。
すると少女は俯き、黙り込んでしまった。
「オレは領主のホワイトナイツ・ド・ヨーレシアだ。できたら盗みを働いた事情を聞かせてきれないか?」
オレは現在宙づりの少女にそう尋ねる。
オレは盗みを働いた理由しだいでは、この娘を許したいと思っていた。
「嘘つくにゃ! ニャーでもつくならもっとまともな嘘つくにゃ!」
すると宙づりの少女は、まるで猫のような声で、オレにそう言って来た。
なんという可愛らしい声だろうか?
その可愛らしい声としゃべり方に、オレの表情はついにやけてしまう。
「ヨッシー・・・・。にやけてないで腕を大きくしろ。それで領主だと信じてもらえるはずだぜ」
コロンはそんなオレに、呆れながらそう言って来た。
腕を大きく? もしかして黒金の腕のことか?
オレはゴーレムの黒金にもなれるが、部分的に黒金の一部を出すことも出来る。
「黒金の腕! これのことか?」
オレは黒金の腕を、右手に装着させると、握ったり開いたりしながらしてみせる。
それは2メートルにもなる、巨大な黒光りする腕だ。
「鉄腕ヨッシー!!」「本当だ! こんな村にどうして!?」
するとオレを見ていた獣人の村人が、不安そうな表情で騒ぎ出す。
オレは魔物か何かだと思われているのだろうか?
「そうか・・・・鉄腕ヨッシーにゃのか・・・。なら領主に間違いないにゃ・・・・」
それを見た少女も、俯きながらもオレを領主と認めた。
解せぬ・・・・。鉄腕ヨッシーでなぜ領主と認められる?
「知らないのかヨッシー? ここらじゃ鉄腕ヨッシーが領主になったって話は有名なんだぜ?」
オレの表情から何か察したのか、コロンがそんなことを教えてくれた。
どうやらオレの知らない噂が、オレを領主と認める理由となったようだ。
「それじゃあニャーは・・・領主さまから盗みを働いたんだにゃ・・・?」
そう言うと少女はさらに暗い表情となり、その眼には涙が浮かんできた。
「うぅ・・・! ニャーたちは食べる物がなくて、お腹が空いて・・・どうしようもなくなって盗みを働いたにゃ・・・! どうか妹や弟は許してやってくれにゃ!」
そして泣き出しながら、そんなことを懇願して来た。
「事情はわかった・・・・。コロン・・・・その娘を下ろしてやってくれ・・・・」
「後で甘い領主だと噂されても知らねえぞ?」
そんなことを言いつつ、コロンはその娘を開放し、地面に降ろした。
「二度とこんなことしちゃだめだよ?」
オレが彼女にそう言い含めると、彼女は無言で頷いた。
オレは彼女たちの罪を、とても断罪する気にはなれなかった。
子供の罪は大人の責任だ。
そして社会の責任でもある。
これはその社会の頂点にいる、領主であるオレが、ちゃんと目を向けなかったことが原因でもある。
だがこのままでは彼女は、再び同じ罪を犯してしまうかもしれない。
彼女が二度と同じ過ちを犯さないためにも、彼女らの親にも、家庭の事情をよく聞いてみる必要があるだろう。
そう思ってあちらこちら見渡すが、彼女らの親らしき姿は、このあばら屋にはどこにも見当たらなかった。
「君たちのお父さんやお母さんはどこにいるの?」
こんな可愛い子供たちが飢えているというのに、その親たちはいったどこに行っているのだろうか?
「母ちゃんも父ちゃんも去年の流行り病で・・・・」
その先は聞かなくてもわかった。
その子供たちの暗い表情から察するに、この子たちの両親は、病気で亡くなってしまったのだろう。
それで面倒を見る者もなく、こんな場所で飢えていたというのだろう。
この世知辛い異世界では、わりとよく聞く話ではあるが、こうして直面してみると、気の毒に思えてくる。
「なあコロン・・・・。オレにはメイドがいなかったよね?」
「はあ? まさかおま・・・!?」
そのまさかだ。
オレは彼女らを専属のメイドとして、雇い入れることにしたのだ。
そうして仕事を与えれば、これ以上彼女らは飢えずに済むだろう。
「君にその気があるなら、仕事を与えよう。仕事があればとりあえずは食いつないでいけるだろ?」
「うぅ・・・! わぁはあああん!」
オレが彼女にそう問うと、彼女は泣きじゃくりながらも、何度も頷いた。
もしかして彼女は罪の意識に、さいなまれていたのかもしれない。
「その娘たちを貴方様のメイドにされるのは反対ですにょ」
早速モリ村の猫村長にそのことを申し入れると、そんな答えが返ってきた。
どうやら現実にはそう上手くいかないようだ。
だが威勢のいいことを言った手前、オレもこのまま引き下がるわけにはいかない。
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