18:泥棒猫
ジュ~・・・ バチバチ・・・!
「何してんだヨッシー?」
「何って魚を焼いているに決まっているだろ?」
その日オレは七輪を出して、野外でホッケの干物を焼いていた。
「そんなの使用人の仕事だろ?」
「昨日フランちゃんとシャルちゃんに休暇をあげたから、オレのお世話をするメイドも、みんなついて行ってしまったんだよね」
ユースたんの誕生日会から数日後、オレはシャルちゃんとフランちゃんに、休暇を出したのだ。
二人とも仕事にドラゴン退治にと、頑張ってくれたので、そのご褒美でもある。
まあ休暇をあげたにも拘わらず、ここに残っている人もいるがね。
「そこは誰か残しておけよ・・・・」
「まあメイドたちにも親とか兄妹がいるだろうし、たまには顔くらい見たいだろうから・・・・」
メイドたちもたまには、身内の顔ぐらい見たいだろうからと気を使い、一緒についていかせたのがこの結果だ。
パナメラのメイドと、ユースたんのお世話役くらいは残っているが、彼らは彼らの仕事が与えてあるので、ここにはいない。
オレはこの機会にと、普段は食べられない、魚の干物を焼くことにしたのだ。
「いい加減専属メイドくらい決めろ!」
「いいよそんなの・・・・面倒だし・・・・」
いつもこんな調子で、はぐらかしてきたが、オレもそろそろ専属メイドくらい、必要な時期になってきているのだろうか?
「あ!! 魚が!!」
その時不意に茂みに潜む何かに、魚が奪い取られたのだ。
その動きはかなり素早い。
「猫か!?」
「いや! 猫の獣人だ!」
前世でも焼いている魚を、猫に奪い取られるという事象を、アニメなどで目にしたが、この異世界でも同じようなことが起こるのだろうか?
それにしてもコロンの隙をついて、オレから魚を奪い取るなんて、なかなかの猫ではないだろうか?
「追いかけるぞヨッシー!!」
「おう!」
オレは七輪をスマホに収納すると、いつも装着している浮遊ブーツの新機能、スピードモードでその後を追う。
浮遊ブーツのスピードモードは、最高でも時速40キロメートルほどしか出ない。
だがそれは自転車を思いっきり、漕ぐくらいの速度はあるので、若干恐怖すら感じる速度である。
オレが一足走る度に、滑るように前に進んでいくのだ。
気分はもうスケート選手だ。
「泥棒猫に追いつくなよ! 後を付けてアジトを突き止める!」
走るコロンに追いつくと、そんな風に声を掛けられる。
どうやらコロンは泥棒猫のアジトを突き止めるために、追いつかないように走っているようだ。
見ると相手は子供のようで、そんなに速度は出ていないようだ。
だいたい時速10キロメートルというところだろうか?
泥棒猫はそのまま、アリ村を出て行ってしまう。
どうやら泥棒猫のアジトは、アリ村の外にあるようだ。
「もしかしてあれはモリ村か?」
しばらくするとアリ村から近いと聞いていた、モリ村が見えてきた。
泥棒猫はそのモリ村の中へと入って行った。
そのモリ村の付近には森がある。
もしかして森の付近だから、モリ村になったのか?
だとしたらなんて安直なネーミングなのだろうか?
「あそこは獣人の村なんだ! 貧しい奴らが多いから、最近裕福になりつつある、アリ村に盗みに来たのかもしれない」
貧しい村とは聞いていたが、アリ村に盗みに入るのは問題だろう。
「まて! ここはモリ村だ! 見たところ猫人ではないようだが、この村に何の用だ!?」
村に入ろうとすると、門番に止められてしまう。
その門番は猫耳を生やした、大柄なおじさんだ。
「オレは領主のヨーレシア・ド・ホワイトナイツだ。中に入れてもらおうか?」
仕方なくオレが領主だと明かすと、門番は懐疑的な目でオレを見だした。
まあこんな幼女が領主だと言っても、普通は信じられないよね。
「ワタシの顔を見忘れたか? こいつは領主で間違いない」
「こ、これはコロン様! 失礼いたしました! どうぞお通りください!」
するとコロンの鶴の一声で、あっという間に通れてしまう。
どうやらコロンは、すでにこの村でも、顔なじみのようだ。
「なんでこの村の人がコロンを知っているのさ?」
オレはそのことについて、コロンに尋ねてみる。
「ああ? お前が周辺の村に顔を出さなすぎなんだ」
するとそんな答えが返ってきた。
そういえばオレは周辺の村には、いまだに顔を出していなかったことを思い出す。
領主としてそれはどうだろうか?
この機会に他の村の様子も、見るべきなのかもしれない。
「先ほどこちらを通った猫人の子供の家はどれだ?」
「それならあちらのあばら屋でございます。あいつが何か?」
コロンが門番にそう尋ねると、門番は先ほどの泥棒猫の家を、指さしながら教えてくれる。
「な~に。大したことじゃないさ」
「はあ・・・・」
コロンは腕を振り回しながらそう言うと、ずかずかとそのあばら屋へ向かって行った。
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