16:ユースたんの誕生日会前編
その日オレはユースたんの誕生日会の準備に追われていた。
それはユースたんが三日後に誕生日会を、開きたいと言って来たからだ。
それはドラゴン討伐の報酬でもあるので、どうにも断れず引き受けた次第である。
だがその誕生日会を開くに当たって、色々と問題もあった。
その一つが誕生ケーキに立てる、ローソクの数である。
高次元生命体の彼女が果たして、何歳なのか見当もつかない。
伝承によると邪神がいた300年前には、すでにユースたんは女神として活躍していたという話だ。
その年齢は軽く300歳は超えていそうだ。
最悪ケーキがローソクだけで、埋め尽くされてしまう可能性もあるのだ。
それはもうすでにケーキではなく、ローソクの塊といってもいい。
これはユースたんに、相談してみる必要があるだろう。
「ユースたんは何歳なんですか?」
「ヨッシー・・・・。女性に年齢を尋ねるのは失礼よ」
これだ・・・・。
その幼女の見た目で、年齢もなにもないと思うのだが・・・・。
「誕生ケーキに立てるローソクの数は、年齢の数なんだけど・・・」
「ああ・・・・。それなら三歳ということにしておいてください」
思ったよりあっさりと解決した・・・・。
まあもしも皆に突っ込まれた時は、300本もローソクが立てられないので、年齢を100で割りましたとか言っておこう。
次の問題は誕生日会で使うクラッカーだ。
クラッカーなどはこの異世界では、まったく馴染みのないアイテムなのだ。
最悪クラッカーを何かの攻撃と勘違いして、皆が混乱する可能性もある。
オレは皆を集め、そのことを相談することにした。
パ~ン!!
「ひいいいいいい!」「ぎゃああああ!」
「何ですの急に!?」
「ヨッシーの新しいスキルか!?」
早速クラッカーを皆の前で鳴らしてみた。
すると阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
「え~・・・・。これがクラッカーです」
オレは落ち着いた様子で、皆にそうクラッカーを紹介する。
「非常識です!」
「そのような騒音は許容できかねます!」
そして皆からの非難もあり、クラッカーは禁止となった。
次の問題は誕生日会の締めを飾る、ケーキについてだ。
この異世界にもケーキはあるが、ショートケーキは存在しない。
唯一オレたちのメンバーで、ショートケーキを口にしたことがあるのは、コロンくらいではないだろうか?
だが今回使用人たちには、そのケーキにローソクを立てもらい、切り分けて配膳してもらう必要があるのだ。
そこで使用人たちには、ショートケーキを知ってもらうために、集合してもらった。
「え~・・・・。これが誕生日ケーキです」
オレはショートケーキの箱を開けると、使用人の皆さんに見てもらう。
使用人にはフランちゃんに仕える、リュシーさんはもちろん、シャルちゃんのメイドである、ミモザさんにアンナさん、滅多に見かけないパナメラのメイドまでいる。
あのユースたんのお世話係の名前は、確かマチルダさんだ。
ライザさんも一応メイドではあるが、現在戦闘訓練のために、ここにはいない。
「「わっ!!」」
「なんですそれは!?」
「そのような美しいケーキは初めて目にします!」
すると初めて見るショートケーキに、皆興味津々のようだ。
「この妙に白い雪のような物は何でしょうか?」
「それはホイップクリームと言いまして、ミルクから作られています」
「ミルクとはチーズに使うあれですね? それがどのような手段で、このような感じになるのでしょうか?」
「この黒い板のような物は何ですか? 食べられる物でしょうか?」
「いったいどのような味がするのでしょうか?」
すると次々とショートケーキに対する質問が出てくる。
「皆さん聞きたいことも沢山あるでしょうが、とりあえずローソクを立てて、火を付けてみましょう」
らちが明かないので、オレは話を強引に先に進める。
オレはショートケーキにローソクを三本立てると、次々に火を付けていった。
「わああ! すごく幻想的です!」
「素敵な演出ですね!」
「その色とりどりのローソクもとても綺麗で感動します!」
するとその様子に皆感激したようだ。
「当日はこのローソクの火を、ユースたんに口で吹いて消してもらいます」
「あの・・・・。幼いユースティティア様にそのローソクの火が消せるでしょうか?」
するとユースたんの世話役のマチルダさんから、そんな意見が出た。
確か二歳児が誕生ケーキのローソクの火を消す動画を目にしたことがある。
なのでユースたんにも、それくらいの火は、消せるのではないだろうか?
だが最悪消せない可能性も、考えておいた方がいいのか?
「ローソクの火が消せない場合は、マチルダさんが手伝ってあげてください」
「承知いたしました」
オレがそう答えると、マチルダさんは笑顔でそう了承した
「ではケーキを切り分けます。ちなみに切り分けてみたいと言う方は挙手をお願いします」
「「はい!」」
するとなんと全員が手を上げたではないか。
この場合誰にやってもらうか、非常に悩むところだ。
リュシーさんとはわりかし仲が良いし、ここで選んでしまうと、贔屓したと思われる可能性もある。
「え~と・・・ではそこの・・・・」
なので一番面識のない、パナメラのメイドを指名しようとする。
だがそのメイドの名前が、なかなか出てこない。
「ジェシーです・・・・」
すると小さな声で、ジェシーさんがそう答えた。
あの人ジェシーって言うんだ・・・・。
「ではこのナイフでお願いします」
「素敵なナイフです・・・・」
「まあ・・・お誕生日ケーキ用のナイフですので、それなりに見栄えのするものですよ」
そのケーキナイフはステンレス製の、まあメルヘンチックなナイフだよ。
「まあ見て! 断面がすごく綺麗!」
「美味しそうだわ・・・・。いったいどんな味がするのかしら・・・・」
そのケーキが切られ、一切れがお皿に移されると、皆うっとりしたような目で、そのケーキを見ている。
「どうせなら味見もしておきましょう」
「「わああ!」」
「本当ですか!?」
「嬉しい!」
そして切り分けられたケーキが、それぞれに配られた。
チョコレートの板は、後でユースたんの名前を書く練習に使ってもらおう。
「なにこれ絶品!」
「口の中でとろけます!」
「は~・・・・。これはなんというお菓子でしょう・・・・」
「これならユースティティア様にも喜んでいただけるわね!」
「美味しい・・・・」
皆それぞれにショートケーキを食べて、感想を口にする。
ショートケーキはこの異世界の方々には好評のようだ。
まあコロンも気に入っていたしな・・・・。
「レシピの開示をお願いします!」
そしてついには、リュシーさんからそんな要望が飛び出した。
「それは狡いのではリュシー? ただでさえ中華で優遇されている貴女が、さらにこのケーキのレシピまで教えていただけるなんて・・・・」
「そうよ! 私たちはシャルロッテお嬢様のメイドですが、ヨーレシア姫様のメイドでもあるのですよ! 同じ待遇を要求します!」
するとシャルちゃんのメイドから、避難の声が上がった。
君たちどんだけショートケーキのレシピが知りたいんだよ・・・・。
「え~・・・。中華のレシピについては、領地で秘匿されている内容については話せませんが、その他のレシピでしたら開示いたします」
確か中華のレシピで秘匿されている内容は、中華の食材を代用する上で、工夫を重ねた部分だったのを覚えている。
中華には作る工程自体が簡単な物もあるし、その辺りであれば開示してもいいだろう。
「またケーキのレシピにつきましても、開示する予定ですので、楽しみにしておいてください」
「「わああ!」」
「さすがヨーレシア様です!」
この後チョコレートに、誰がユースたんの名前を書くかで再びもめたが、なんとかお誕生日ケーキのお披露目会は終了した。
ちなみにユースたんの名前を書くのは、やっぱりユースたんのお世話係の、マチルダさんの役割となったよ。
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