09:盗賊の襲撃
盗賊の親玉視点~
ゲスノール伯爵の話によれば、近々ヨーレシア伯爵が、この辺りを通過すると言う話だった。
そのヨーレシア伯爵を襲撃し、暗殺するというのが、今回の俺たちの仕事だ。
俺たちは名もない盗賊団だが、大きな任務をこなすことで、ゲスノール伯爵に貢献し、ゆくゆくはその私兵として、雇い入れてもらうことになっている。
今回のこの任務こそ、俺たちにとって大きな任務となるだろう。
「来ました! 例の白い乗り物です!」
なかなかやってこない、ヨーレシア伯爵にいら立ちを覚える日々が続いたが、ようやく目標が、俺たちの目の前に姿を現したのだ。
「ここは通過させろ! 帰路につくころには再びここを通るはずだ! それまでに人員を集めて装備を万全にしておくんだ!」
ヨーレシア伯爵はかなりの速度が出る、魔道具を所持しているようだ。
しかも全体が鉄の装甲とは恐れ入る。
そこで今回はゲスノール伯爵経由で手に入れた、貫通の魔矢を使うことにしたのだ。
この魔矢は矢じりがアダマンタイト製となっており、さらに射撃後には、口巻部分に込められた風の術式が、射られた矢の速度を加速するのだ。
加速し威力を増したその魔矢は、鉄の盾をも貫くという。
この貫通の魔矢で射れば、あの白い乗り物の装甲など、一溜りもあるまい。
「お頭! 例の白い乗り物が来ましたぜ!」
そしてついに部下より、ヨーレシア伯爵の白い乗り物が、やってきたという報告があった。
「よし! 全員白い乗り物の正面にまわり、貫通の魔矢を一斉につがえろ!」
俺たちがこの貫通の魔矢を、一斉に射れば、あの白い乗り物は穴だらけとなり、中に乗っているヨーレシア伯爵は、命を落とすことだろう。
ヨッシー視点~
「姫! 矢が来ます!」
「今だ! 緊急回避ボタンを! ジャンプして!」
オレがアーノルドにそう指示を出すと、キャンピングカーは空中に飛び上がり、迫りくる複数の矢を躱したのだ。
「ふ~・・・。これでキャンピングカーが傷だらけになる事態は避けられた」
このキャンピングカーの装甲は薄く、弓矢程度でも簡単に傷ついてしまう。
キャンピングカーが傷だらけになる事態を恐れたオレは、緊急回避ボタンを使い、空中に逃れる判断をしたのだ。
この緊急回避ボタンは、本来崖や瓦礫に阻まれた場所を飛び越える目的のものだが、今回は矢を飛び越えるために使ったのだ。
「ワタシが全ての矢を叩き落してもよかったんだがな・・・」
今回出番のなかったコロンが、残念そうにそう呟いた。
コロンなら確かに全ての矢を叩き落したかもしれないが、わざわざ危険を冒す必要もないだろう。
「姫が護衛に配っておられた、大盾も役にたちましたね!」
パナメラがアダマンタイト製の大盾で、矢を防御する護衛の様子を見てそう叫んだ。
見ると浮遊バイク組の護衛は、オレの渡しておいたアダマンタイトコーティングの盾で、全員矢を防ぎきっていたのだ。
このアダマンタイトコーティングの盾は、ペンダントに格納されており、ボタン一つで大盾となる。
しかも重さを感じない仕様となっているので、構えていても腕が疲れることもない。
「これでも喰らえ!」
オレはキャンピングカーが、盗賊の頭上を通過するころに、窓から真下を覗き込み、ある物を真下に投下した。
それはオレが、魔法玉と名付けた物だ。
魔法玉は地面に接触すると、周囲に特定の魔法をまき散らす、命令式が組み込まれた玉なのだ。
今回オレが盗賊に使った魔法玉は、周囲に雷をまき散らす強力な物だ。
「何だ?」「玉だと・・・・?」
「散開だあああ!」
盗賊たちは投下された、その見慣れない玉を見て、首をかしげるが、盗賊の頭らしき男は勘が鋭いようで、魔法玉の恐ろしさに勘づいたようだ。
ピシャ~ン! バリバリバリ!
「「ぎゃあああああ!!」」
魔法玉は地面に接触すると、広範囲に雷をまき散らし、多くの盗賊が感電し倒れた。
「ひっ! ひぃぃぃ!」
運よく感電を逃れた盗賊数人が、森の中へと逃走を開始する。
「逃がすか!」
ビュイィィィ~!
だが瞬く間に浮遊バイクに追いつかれ、大盾による殴打で、次々と倒されていった。
「姫! 生き残りの3名です!」
ドカドカドカ・・・・!
そして縛り上げられた3名の盗賊が、オレの前に投げ出された。
「盗賊を捕縛した場合は、通常であればどうしているの?」
オレはアーノルドとパナメラに、盗賊の処遇を尋ねた。
前世の世界であれば、強盗などを捕まえた場合、警察に突き出すのが通例だろう。
だがこの異世界には警察もおらず、その警察の役割をするのは衛兵である。
その衛兵を組織しているのが、領主であるオレだ。
つまり彼らをどうするか、判断するのはオレなのだ。
「通常であれば死刑か犯罪奴隷にして終わりですが、今回の場合は少し事情が特殊です」
アーノルドが大盾に突き刺さった矢を、オレに見せながらそう言った。
なんと盗賊の矢は、通常の矢であれば傷一つつけられない、アダマンタイト製の大盾に、突き刺さっていたのだ。
「この矢じりはもしかして?」
「はい・・・アダマンタイト製です。しかも口巻の部分に術式を施した形跡もあります」
オレは学園で色々と学び、その矢の持つ意味が理解できていた。
今回一番厄介なのは、その矢じりがアダマンタイト製であった事実だ。
このルエパラ王国では、アダマンタイトを加工する技術はないのだ。
アダマンタイトの製品は、オレのスマホアプリや、ダンジョン製の物を抜かせば、北東にそびえ立つ山脈の向こうにある、ナジェル帝国から持ち込まれる物が全てだ。
つまりこの件には、他国であるナジェル帝国が、かかわっている可能性が高い。
「あ! レーティシア姫ですか・・・・?」
オレはこの件を早速スマホで、レーティシア姫に報告した。
そして捕らえた盗賊たちを、キャンピングカーに押し込み、アリ村への帰路についた。
だが一難去ってまた一難・・・・。
「ああ! 城壁から煙が!?」
「大変です! 急ぎましょう!」
ようやくアリ村が見えてくると、なんとオレの造った城壁の上部が黒く焦げており、そこから煙が上がっていたのだ。
どうやらアリ村はオレが不在の間に、何かの襲撃を受けたようだ。
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