07:西のパダーム領
ビィルノス領から帰還した数日後、今度は西のパダーム領に挨拶に向かうことになった。
パーダム領を納めるのは、ゲスノール・ド・パダーム伯爵だ。
このゲスノール伯爵については、あまり良い噂を聞かない。
オレの領地であるヒュロピア領に、悪い人員を押し付けてきたのも、このゲスノール伯爵なのだ。
そのパダーム領だが、色々な産業に手を出しているそうだが、一つとして上手く行ってはいないそうだ。
その割には領地の経営が傾くこともなく、今もギリギリの状態で保っているという。
ただ領民が重税に苦しんでいるという話も聞くので、あまりよい領地経営をしているわけではないようだ。
今回も移動手段にキャンピングカーを使い、前回と同じように浮遊バイクの護衛付きである。
メンバーは領主であるオレはもちろん、護衛のコロン、秘書的立場のパナメラ、運転手にはアーノルド、その他残りは全員護衛という完全防備の布陣だ。
ちなみに今回は、ライザがオレの使用人も兼任している。
彼女はうちで唯一の、戦闘メイドなのだ。
まあ相手が相手なので、このガチガチの守りも仕方がない。
だがだからといってゲスノール伯爵が、うちの領地に問題のある人員を押し付けたことを、忘れたわけではない。
彼にはそれ相応の贈り物が、用意してあるのだ。
「随分と活気のない街ですね・・・・」
パナメラが周囲の様子を窺がいながら、そう感想をもらした。
現在オレたちのキャンピングカーは、ビィルノス領の中心地である、バコイの街に入ったところだ。
バコイの街には所々に物乞いもいて、あまりいい雰囲気を受けない。
やはりこの領地は噂通りの状況なのかもしれない。
しばらく街を進むと、ゲスノール伯爵の屋敷らしき、豪邸が見えてきた。
この屋敷だけは街の様子と打って変わって、かなり贅を凝らした豪邸にも見える。
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツ伯爵がお出でだ。領主ゲスノール伯爵にお目通りを願おう」
「む? ホワイトナイツ卿はどちらで?」
アーノルドが門番に尋ねると、門番からはそんな質問が返ってきた。
どうやら手紙をよこしたにも拘わらず、ゲスノール伯爵はオレの容姿について、門番に伝えていないようだ。
「こちらがヨーレシア伯爵だ! 早くゲスノール伯爵に取次たまえ!」
「え!? な!? こちらがですか!? 少々お待ちを!」
アーノルドが声を荒げると、門番は慌てた様子で、屋敷の中に駆けて行った。
まあ幼女に見えるオレが、領主だと云われても、困惑する気持ちはわからなくもないがね。
第三者視点~
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツと名乗る幼女が、ゲスノール伯爵にお目通りしたいと参っております! いかがいたしましょう!?」
門番はゲスノール伯爵の部屋に駆け付けると、そう報告をした。
ゲスノール伯爵は愛人を侍らせ、ワインを片手に、談笑している様子であった。
その指にはいくつもの宝飾品をはめ、ジャラジャラと音を鳴らしながら、いやらしい笑みを浮かべている。
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツだと・・・? 確かそいつが挨拶に伺う日は今日であったか?」
ゲスノール伯爵は、後方に控えるメイドにそう尋ねる。
「は、はい! 確かお手紙にはそのように書かれておりました!」
メイドは怯えた様子で、ゲスノール伯爵にそう答えた。
「それならそうと早く報告せぬか! 使えぬメイドが!」
「は、はい! 申し訳ありませんゲスノール伯爵!」
メイドは確かに今朝ゲスノール伯爵に、その内容を伝えていたのだが、ゲスノール伯爵は他のことに夢中で、その内容が耳に入っていなかっただけである。
理不尽だとは思いながら、メイドもゲスノール伯爵には逆らうことができず、ただ謝るばかりであった。
しばらくするとゲスノール伯爵は、門前に待たせている、ヨーレシア伯爵の前に、太々しい態度で姿を現した。
「これはこれはヨーレシア伯爵。我が屋敷によく参ったな」
ゲスノール伯爵は愛人を侍らせ、下卑た笑みを浮かべつつ、その小さなヨーレシア伯爵を見下ろしながら挨拶をする。
そして王宮の爵位式で、若干11歳にして自らと同じ伯爵位を得たこの小さな少女に、歯噛みしながら嫉妬したことを思い出した。
だがゲスノール伯爵はヨーレシア伯爵のことを、王族の戯れで伯爵に任命された、お飾りの伯爵と認識していた。
それゆえ無礼で、横柄な態度に出ていた。
「活躍の程はかねがね耳にしておるぞ! まったく王族の玩具も大変であるなぁ!」
そして伯爵であるヨーレシアに対して、そんな憎まれ口を叩いたのだ。
ゲスノール伯爵は遠回しにヨーレシア伯爵のことを、王族が戯れで任命した、ただの人形であると侮辱したのだ。
「王族の玩具ですか? 確かにレーティシア姫はわたくしのほっぺを、よく玩具のように摘まんではいましたが・・・・」
ところがヨーレシア伯爵は自らの頬をさすりながら、そうゲスノール伯爵に返したのだ。
ヨーレシア伯爵には、腹芸や遠回しの表現は通じにくいため、こういう言った答えが返ってくるのは、無理もなかった。
ゲスノール伯爵はそのヨーレシア伯爵の、斜め上の反応に苛立ちを覚えた。
だが年端も行かぬ少女のことだ、言葉が理解できぬ部分があっても無理はないかと諦める。
「ところでヨーレシア伯爵は、贈り物には何を用意したのだ? 見てやるから出してみろ!」
そこでゲスノール伯爵は、贈り物を見てヨーレシア伯爵をなじる方向に、嫌がらせの手段を変えたることにしたのだ。
「本当にここに出してもいいんですか? 邪魔になるかもしれませんよ?」
「邪魔になるだと? 家具か馬車でも持って来たのか?」
ゲスノール伯爵は邪魔になる大きさの贈り物と聞いて、タンスか本棚のような家具を連想した。
「いえ。宝石ですけど」
「そんな物が邪魔になるわけがないだろ! 早く出して見せろ!」
なかなか贈り物を出さない、ヨーレシア伯爵の様子に、ゲスノール伯爵はいら立ちを覚える。
「どうなっても責任はとりませんよ?」
「宝石を出して、どう責任問題になるというのだ! 問題ないから早く出せぇ!!」
「言質はとりましたよ・・・・」
いら立ちまぎれに怒鳴り散らすゲスノール伯爵をよそに、ヨーレシア伯爵は肩から下げているポーチに、徐に手を突っ込んだのだ。
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