06:南のビィルノス領
その日オレは、南のビィルノス領に挨拶に向かっていた。
馬車で3日はかかるこの道のりも、オレのキャンピングカーなら、5時間ほどで到着するのだ。
「このビィルノス領は綿織物が盛んなのよ・・・」
そう教えてくれたのは、この日同席してくれたシャルちゃんだ。
シャルちゃんが今回この挨拶に着いてきたのには理由がある。
このビィルノス領の領主、マクシミリアン・ド・ビィルノス伯爵は、無派閥であるはずだが、どうもエドワード派とつながりがあるようなのだ。
それもそのはず、ビィルノス領の主産業である綿織物は、エドワード侯爵家にも大きな利益をもたらしているようだ。
オレはそれを、商人的つながりであると解釈したが、見方によっては、エドワード派ではないかと言えなくもない。
でもこのマクシミリアン伯爵・・・どうもブラックナイツ派に、大きな借りがあるようなんだよね。
彼がどっちつかずなのは、こういった経緯が、あるからなのかもしれない。
まあそう言うオレも、エドワード派ともつながりはあるが、ブラックナイツ派だと風潮しているがね。
ちなみに今回の挨拶についてきたのは、シャルちゃんの他にも、護衛のコロン、秘書的立場のパナメラ、運転手にアーノルド、その他使用人や護衛と、計12人ほどだ。
今回はさらに護衛の内4人が、浮遊バイクに乗り、オレたちの乗るキャンピングカーの、警護を行っている。
「何かしらあの白い乗り物は?」
「不思議な乗り物だ・・・」
「ホワイトナイツ家の紋章があるぞ!」
ビィルノス領の中心地である、ポルビュ街にやってくると、オレたちの乗ってきたキャンピングカーや浮遊バイクが、さっそく注目を集める。
そんな注目を受けながらも、オレたちはマクシミリアン伯爵の屋敷へと到着した。
「ようこそいらした。ヨーレシア伯爵とその一行」
屋敷に到着すると、わざわざマクシミリアン伯爵が出て来て、笑顔で出迎えをしてくれた。
この長身で銀髪のおじさんは、こんな所にも好感がもてる。
その横には少し小太りで、背の小さな奥さんもいて、ニコニコと笑顔を浮かべている。
「お久しぶりですわマクシミリアン伯爵」
「これはシャルロッテ嬢・・・お元気そうでなによりです。なんでもそちらのヨーレシア伯爵の側近になられたとか?」
「はい。そのおかげもありまして、この度目出度く騎士爵を賜りました」
シャルちゃんはオレの側近になるにあたって、騎士爵の爵位を賜っているのだ。
その時同時にフランちゃんも、騎士爵となっている。
「それでは二番目と三番目のお兄様は真っ青ではありませぬか?」
「ええ。兄たちも努力してはいるのですが、なかなか爵位まで賜る機会がないようです」
シャルちゃんには、14歳と16歳のお兄さんがいるのだが、どちらもいまだに爵位を賜ってはいないようだ。
実家に帰って顔を合わせる度に、憎まれ口をたたかれると、嘆いているのを聞いたことがある。
ちなみにフランちゃんにも、13歳と16歳のお兄さんがいて、同じような状況であると耳にした。
「さあさあ・・・・外ではなんですので屋敷の方へどうぞ。積もる話もあるでしょうが、続きは中でいたしましょう」
そう言ってオレたちが案内されたのが広い客間だ。
こちらでしばらく、談笑でもしようということなのかもしれない。
「こちらは贈り物ですのでお納めください」
オレがマクシミリアン伯爵への、贈り物に用意したのは、10箱のお菓子だ。
「これは見慣れない素材の箱ですな? 木か何かを加工しているのですかな?」
マクシミリアン伯爵は、お菓子の箱を一つ手に取り、珍し気に見回す。
お菓子は二種類あるのだが、その片方は段ボールに、そのままお菓子が入れてあるのだ。
「まあ! こちらの包は羊皮紙ではないのね!? 綺麗な花が描いてありますわ!」
同じく伯爵夫人は、もう片方のお菓子の箱を手に取り、見つめている様子だ。
もう片方の箱には紙の包がしてあり、薔薇の絵が描かれているのだ。
このルエパラ王国で箱といえば、木箱が当たり前である。
また羊皮紙が当たり前のこの国の人たちには、段ボールや植物紙の包は、目新しく見えるのだろう。
「ほう!? これはお菓子ですかな!? 全て不思議な透明の包に入れてありますな! しかもお菓子はどれも宝飾品のようで美しい!」
マクシミリアン伯爵が手に取ったお菓子は、クッキーの詰め合わせだ。
これには6種類のクッキーが入っていて、それぞれチョコレートやら苺ジャムやら、木の実やらが使われており、なかなかに目を楽しませてくれる内容になっている。
「こちらはまるで宝石のようなお菓子だわ! どれも綺麗な果物の絵が描いてあるのね!」
一方伯爵夫人が手に取っているのは、ゼリーの詰め合わせだ。
同じくゼリーも6種類入っており、それぞれに果物の絵が描かれており、中に何が使われているか一目で見てわかるようになっている。
どちらも贈答品の定番と言っていい品物だ。
「この見慣れない黒い菓子はなんだね?」
「それはチョコレートと言いまして、南国のフルーツの種を加工したものです。その種が黒いので、そのお菓子はそういう見た目なんですよ」
チョコレートの原料はカカオの種を発酵させたものだ。
その原料となるカカオすらこの国にはないので、マクシミリアン伯爵には珍しいのだろう。
「カリッ・・・・ほうほう!! これは今までに味わったことのない甘みだよ!! しかもこのカリッとした食感の後に口の中でとろけていくのがまた良い!!」
するとマクシミリアン伯爵は、興奮気味に語りながら、その場でチョコクッキーを食べ始めた。
え? 今食べるの? と思ったが、だいたいこういう文化なんだよねこの国は・・・・。
「こちらはプルンとした不思議な食感で、とても上品でフルーティーな香りがするわ! どうしましょう! こんなの食べたら今までのお菓子が食べられなくなっちゃうわ!」
伯爵夫人の方は、ゼリーをいくつか開けて食べ始めた。
まあ喜んでもらえたから良かったがね。
「いや~! 実に美味しいお菓子だったよ!」
「本当ね貴方!」
一通りお菓子を食べ終えると、マクシミリアン伯爵はハーブティーで口を潤す。
そして一息つくと、先ほどとは打って代わって、深刻な表情でこちらに向き直った。
「実はヨーレシア伯爵に・・・伝えたいことがあるんだ・・・・」
そしてこんな風に話を切り出してきた。
「伝えたい事ですか?」
急になんだというのだろうか?
「君の領地であるヒュロピア領はいわくつきの領地でね・・・・」
いわくつきの領地? そんな話は初耳だが、いったいどんな内容だろうか?
「あの領地を開拓しようとすると必ず失敗するんだ」
な! なんですと!?
「例えば他領から送られてきた悪い人員が原因で開拓が頓挫したり、何者かの妨害で人員が揃わなかったり、都合悪く盗賊に襲われたという話も聞く・・・・」
そう言えば聞いた内容に心当たりはある。
悪い人員は送られてきているし、人員の大半が妨害に遭い、まだ揃っていないのだ。
今のところコロンの活躍や、魔道具等の運用でなんとかなってはいるが・・・・。
「実は私もヒュロピア領を任されていたことがあってね。私の時などは、領地がドラゴンの襲撃にあってね。泣く泣くあの領地を諦めざるを得なかったんだよ」
「ええ! ドラゴンがですか!?」
ドラゴンと言えば、この国でも最大級の魔物と考えられている存在だ。
あの領地にそのドラゴンが、生息しているような話は聞いていないが、マクシミリアン伯爵の話が本当であれば、ヒュロピア領は間違いなくいわくつきの領地なのだろう。
「大きな声では言えないが・・・・この件にはゲスノール伯爵がかかわっているという噂もあるんだ・・・・。これから彼に会いに行くなら気を付けるといい・・・」
その話が終わると、オレたちはマクシミリアン伯爵の屋敷を後にし、ヒュロピア領への帰路についた。
ゲスノール伯爵が本当に噂通りの人物であれば、より一層警戒を深める必要があるだろう。
またドラゴンに関しては、うちのブレインである、ユースたんにでも相談してみる必要があるな・・・・。
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