05:隣接する領地
「数日後に隣接する二つの領地に挨拶に向かっていただきます」
オレが執務室で、さっそく書類の山と格闘していると、パナメラがそんな予定を伝えてきた。
オレの領地であるヒュロピア領には、二つの領地が隣接しているのだ。
それが西のパダーム領、南のビィルノス領だ。
ちなみに北東にそびえ立つ山脈の向こうにはナジェル帝国がある。
しかしその山脈があまりに険しく、越えられないため、今のところナジェル帝国との間には、領土問題などは発生していない。
ルエパラ王国では領地を開拓する際に、隣接する領地への、挨拶回りをするのが習わしのようだ。
そこでオレは日を分けて、その二つの領地に挨拶することになった。
パダーム領の領主、ゲスノール・ド・パダーム伯爵のことは、何度か貴族の集まりで、見かけたことはある。
小太りで頭の禿げた、感じの悪い笑みを浮かべたおじさんだったと記憶している。
実際に挨拶を交わしたことはないが、あまり良い評判を聞いたことはない。
ただオレの記憶の中の、ゲスノール伯爵の現在の派閥に関する情報が曖昧だ。
過去に国王に反逆して消滅した、バントナン派であったという噂もあるが、確実な証拠もない。
ちなみにバントナン派は、すでに失脚した第一王子を、後押ししていた派閥である。
「ちなみにゲスノール伯爵は、今どの派閥に所属しているんでしたっけ?」
オレはパナメラにそう尋ねてみた。
現在ルエパラ王国の、貴族の派閥には、大きく分けて4つある。
それがブラックナイツ派、レッドナイツ派、エドワード派、無派閥である。
オレはバートム伯爵が属している、ブラックナイツ派と見られている。
同じブラックナイツ派であれば、その代表のヴァレリアン侯爵に根回しをして、嫌がらせなどを、止めさせることが可能だ。
だがそうでなければ、少々対処が面倒なこともある。
「ゲスノール伯爵はどちらかと言えば、レッドナイツ派だと思われます」
残念ながらゲスノール伯爵は、オレとは違う派閥のようだ。
ならばこれ以上なめられないように、しっかり準備して挨拶に向かうのがいいだろう。
「ビィルノス領の領主マクシミリアン・ド・ビィルノス伯爵は、どの派閥にも属さない領主でしたよね」
オレの記憶では、ビィルノス領のマクシミリアン伯爵は、無派閥の貴族だったはずだ。
どこの派閥にも属していないということは、マクシミリアン伯爵個々の実力が、よほど優れているということになる。
そうでなければ無派閥の貴族など、あっという間に他の派閥に、押しつぶされてしまうだろう。
よほど有力な商人の後押しでもあるか、良い産業でも、営んでいるのかもしれない。
マクシミリアン伯爵とは挨拶を交わしたことはあるが、長身で銀髪の髭のおじさんだったと記憶している。
いつもニコニコと笑顔を浮かべた、優しい感じのおじさんだったな。
「マクシミリアン伯爵でしたら、エドワード侯爵家と親交がありますので、同席してもよろしいですわよ」
同じく執務に勤しむシャルちゃんが、そんな申し出をしてきた。
他の貴族に挨拶に行くのに、知り合いの貴族がいるのはとても心強い。
「それじゃあお願いするよシャルちゃん」
オレはその申し出を快く受けることにした。
だが無派閥のマクシミリアン伯爵が、エドワード侯爵家と親交があるとはどういうことだろうか?
それはエドワード派でも、良いのではないだろうか?
「近隣の領地に挨拶に向かうときは、贈り物などするのが習わしです。贈り物はこちらの力を示す物ですので、よく精査しなければなりませんよ」
「ちなみに贈り物には、何を贈るのが良いんですか?」
「マクシミリアン伯爵は甘いものに目がないと聞きますので、高価なお菓子でも持参すればよろしいかと。またゲスノール伯爵は宝飾類がお好きだと聞いています。何か高価な宝石など見繕ってはいかがでしょうか?」
パナメラは得意げな様子で、流暢にそう語った。
パナメラはあらゆる面において、情報通でもあるのだ。
マクシミリアン伯爵には、普通に通販ショップで買った、お菓子とかでいいだろう。
通販ショップのお菓子は、この異世界では珍しいようだし、レーティシア姫や王妃様でも、喜んで食べていたからね。
ゲスノール伯爵には色々とお世話になったし、それなりの宝飾品を用意するのがいいだろう。
ゲスノール伯爵が泣いて喜ぶ姿が、今から目に浮かぶようだ。
こうしてオレは数日後、隣接する2つの領地の領主に、挨拶巡りをすることになったのだ。
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