02:冒険者ギルド
冒険者ギルドは、西部劇に出てくるような、酒場のような場所だった。
実際に奥にはバーカウンターのようなものがあり、受付がその手前に設置されている。
受付には受付嬢が腰かけており、並んで列をつくる冒険者の対応に追われている。
その後ろの掲示板に、沢山の依頼らしき紙が貼ってあるのが見える。
そこで依頼を受けたり、報酬を受け取ったりするのだろう。
「おう! コロン! 久しぶりじゃねえか!? 最近見なかったが、どこに行っていたんだ?」
すると見知らぬ冒険者のおじさんが、話しかけて来た。
「ああ。ちょっと薬草採りに飽きて、狩りに興じてた」
何? コロンが洞窟に住み着いていた理由は、ただ狩りがしたいからだったのか?
なんというアバウトな理由だ・・・
「程々にしとかねえと、そのうちおっ死んじまうぜ?」
冒険者の言う通り、一度死にかけたのは確かだな。
そう言うと冒険者は、手をヒラヒラと振りながら、バーカウンターの方へ向かって行った。
「あ! コロンさん! いつ帰られたんですか!?」
するとこちらに気づいた受付嬢が、声をかけて来た。
「さっき帰ったんだ。おっさんいる?」
「ギルド長ですか? ちょっと待っていてください! すぐに呼びますから!」
すると受付嬢はそのまま隣にある階段を、駆け上って行った。
おっさんって冒険者ギルドのギルド長のことだったのか・・・
ゴツン!!
「いて!!」
冒険者ギルドのギルド長は、階段から降りて来るや否や、コロンの頭を軽く小突いた。
「連絡は細めに寄越せって、いつも言っているよな?」
ギルド長は二メートルくらいの身長の、茶毛の髭もじゃの男で、髪の毛もボサボサだ。筋肉むきむきで、今にでも着ている服がはじけ飛びそうなくらいでかい。
「わるいなおっさん。いつもより遠出していたんだ」
コロンは小突かれた頭を、さすりながら言った。
「あほか!! 遠出するならもっと一人前になってからにしやがれ!!」
コロンは確かに強いが、年齢からするとギルド長の言うことは正論だと思う。
「まあ説教はこれくらいにして・・・そっちのちっこいのは何だ?」
次にギルド長は、オレの方を見て来た。
「オレはヨッシーです。コロンとは洞窟で出会いました」
「ん? 洞窟? おめえいったいどこの子だ? 両親はどうした?」
「それが記憶がないので、よくわからないんです」
オレがコロンと出会った時には、前世の記憶以外の記憶は、全く無かったのだ。
「ん? 記憶がないだと?」
「ヨッシーは例の人攫いの村の近くにいたんだ」
「ああ。あの村か・・・しかし届けは出ていなかったがな?」
届けとは行方不明者の届けのことだろうか? だとしたらオレは、例の村の子でもないのか?
「とりあえず面倒は誰が見るんだ?
面倒を見る奴がいなきゃあ、教会にでも連れて行くしかねえぞ?」
前世では教会は、孤児院のような役割もしていたと、聞いたことがあった。
こちらでもその役割は同じなのかもしれない。
その前にオレは、この国がどこなのかを知りたかった。
せっかく街に来たのだ。その情報はぜひ知っておきたい。
「地図ってありますか? この国がどこなのか知りたいです」
「あ? 国? 唐突だなぁおい。その前に住む場所が先だろ?」
まあ確かに国の情報はいつでも聞けるし、住むところが先か・・・・
「ならギルドの空き地を貸してください。あまり広くなくてもいいので・・・」
「はあ? お前まさかそこで野宿でも決め込むきか?」
「家を建てます。小さな家ですけど・・・」
「はあ? おめえ何言ってんだ!? 家ってのはな、建てるのにそれこそ何日も・・・」
「おっさん!」
「あん? 何だコロン?」
コロンはギルド長の言葉を途中で遮る。
「こいつには家をあっという間に建てる手段があるんだ」
「あん? まさかおめえ・・・魔術師か!?」
ギルド長はオレの顔を、驚愕の表情で見た。
「う~ん・・・一度おめえの能力を見てみねえとなんとも言えねえ。案内するからついてきな」
ギルド長はしばらく腕を組んで思案すると、こちらに向き直って、そう言って手招きしてきた。
「それじゃあここに倉庫を一つ頼む」
ギルド長はしばらく歩いて、オレ達をギルドの建物に面した、小さな空き地に案内してくると、唐突にそう言った。
「あの・・・何で倉庫を?」
「ギルドの空き地だってただじゃねえ。
貸すかどうかはお前の立てた倉庫の出来次第で決めさせてもらう」
「鍵は難しいので、鍵以外なら・・・」
鍵などの細かい細工は、ポイントを高く消費するのだ。なのであまり作りたくはない。
「とりあえず建物と扉があればいい」
「まあそれくらいなら・・・」
とりあえずオレはその内容を承諾するが、ギルド長にスマホを見せていいのかわからない。なので一度コロンの方を見る。
「ん? ああ・・・そのおっさんは信用できるぞ。でも口留めだけは必要かな?」
そしてオレは再びギルド長に向き直る。
「今からオレがすることについては、秘密にしてほしいいんですけど、いいですか?」
「ああ・・・まあ。これでも俺はギルド長だからな。誰かが不利になるような情報は、話したりはしない」
それを聞いたオレは、スマホを鞄から出して操作を始めた。
「そいつぁまさか・・・」
「ああ。ワタシも初めて見た時は驚いた」
コロンがこのスマホを見て、驚いていたとは初耳だが、今のギルド長のような反応を、内心ではしていたのかもしれない。
ドドン!
そして木製の四角い掘っ立て小屋が完成した。消費ポイントは1200ほどだった。
残りポイント:42227
「こりゃあすげえ・・・継ぎ接ぎ一つねえ・・・」
スマホで作った木の物体には、継ぎ接ぎ部分はない。
まるで大きな木でも彫り込んで、作ったような物体になるのだ。
ジャー
「引き戸も完璧だ・・・」
ギルド長は引き戸を引いたり閉めたりしながら、感心したようにそう言った。
「この倉庫の横を使ってもいい。でも倉庫と区別できる建物にしろよ?」
そりゃそうだ。ここに倉庫と見分けがつかない家なんか建てたら、間違えて倉庫に使われてしまうだろう。
「あとその板はあまり他人に見せるなよ。間違いなく悪いことに巻き込まれるからな」
その板とはスマホのことだろう。
そう言うとギルド長は、手をヒラヒラとふりながら、去っていった。
「じゃあオレ達の家を造るとしますか・・・」
家もポイント節約のために、単純な構造となった。そして家にかかったポイントは、1200ポイントだった。
ドドーン
残りポイント:41027
「倉庫との違いがよくわからないな・・・」
コロンの言う通り、オレ達の家は、倉庫の屋根の部分を三角にしたくらいの違いしかない。
「じゃあ看板作るから、文字を教えてくれよ」
「え? お前そんな複雑な文字読めるのに、普通の文字知らないのか?」
コロンはスマホを指さしながら、呆れた表情で言った。
たぶんコロンの言う複雑な文字とは、スマホに表示された日本語のことだろう。
「完成!」
看板は二つで1000ポイントを消費した。
残りポイント:40027
そして看板には現地語で『倉庫』と『コロンとヨッシーの家』と書いて、それぞれの建物に取り付けた。
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