32:動き出す二家の陰謀
第三人称視点~
ヨッシーやコロン、ユースティティアが聖国に連行されたころ、シャルロッテの元には、脅迫状が届いていた。
「お前のメイドを預かつている・・・・返して欲しくば一人で来い・・・・」
どうやらシャルロッテの、専属メイドのアンナが攫われたようだ。
「ヨッシー様が異端審問官に連行されたこの大変なタイミングでどうして・・・・」
シャルロッテは絶望の表情で、その手紙を見つめた。
現在シャルロッテがいるのは、リュシアン侯爵の執務室だ。
その日シャルロッテは知らせがあると、学園から呼び戻されていたのだ。
「アンナのことは諦めろ・・・・。お前はそれでも貴族の身だ。アンナとは幼少期からの付き合いもある・・・・。つらいだろうが使用人のことよりも我が身を大切にせねばならぬ立場なのだ」
シャルロッテの父親であるリュシアン侯爵は、シャルロッテをまるで諭すようにそう言った。
「ヴァルキリー起動!!」
しかしシャルロッテは立ち上がるや否や、ヴァルキリーを起動したのだ。
「シャルロッテ!!」
「お父様! わたくしは後でいくらでもお咎めを受けます! でもアンナを放っておくことは出来ません!!」
「待てシャルロッテ!!」
シャルロッテはそう一言言い残すと、執務室の窓から、飛び去ってしまった。
「ヨッシー様がどうして・・・・」
そのころヨッシーが異端審問官に連行されたと、知らせを受けたフロランスは、そのショックに打ちひしがれていた。
ピロピロ ピロピロ!
「こんな時にどなたでしょう?」
するとフロランスの遠話の魔道具が、通話の着信を伝えてきたのだ。
「シャル様?」
見ると通話の相手は、シャルロッテだったのだ。
「あの? いかがなさいましたシャル様?」
『フラン様! たったいまアンナが攫われ、脅迫状が届きました!』
「なんですって!? このタイミングでですか!?」
『わたくしはこの件と、ヨッシー様が異端審問官に連行された件はつながっていると思います!』
「つまりこの陰謀に関係する者たちがアンナを攫ったというのですか?」
フランはこの時思った。
アンナを攫った者たちの陰謀を暴くことが出来れば、ヨッシーを救い出す糸口になるのではないかと・・・・。
『フラン様はわたくしの言うとおりに動いてもらえますか?』
「いいでしょう。アンナの救出をお手伝いします」
こうしてフロランスとシャルロッテは、使用人アンナの救出に、動き出したのであった。
そのころアンナを攫った者たちは、縛り上げ猿轡をかませたアンナを人質に、やってきたシャルロッテと対峙していた。
「ようやく来られましたな・・・シャルロッテ嬢!」
アンナを攫った集団は顔を隠す気もなく、堂々とそこへ現れた。
その集団は500名ほどおり、鎧に身を固めて武装した騎士であった。
「貴方はロヴォイワヨン伯爵! そしてバドカワード伯爵ですね!?」
アンナは二人の伯爵の後ろで、縛り上げられ、首元にナイフを突き立てられている。
「まずはその物騒な武装を解いていただきましょう!」
ロヴォイワヨン伯爵はシャルロッテに、ヴァルキリーの武装解除をよびかける。
どうやら彼らはヴァルキリーのことを、知っているようだ。
この時シャルロッテは、ヴァルキリーを身内に見せたことを後悔した。
だがヴァルキリーの機能には、まだ誰にも見せていないものもあったのだ。
「この武装を解くのはかまいませんけど、おそらく貴方たちはもう終わってますわよ?」
「なんだと?」
ロヴォイワヨン伯爵はシャルロッテの企んでいることが気になり、周囲を見回し確認を始める。
この周囲には多くの見張りもおり、シャルロッテが何かしようにも、第三者が入り込む隙間すらなかったのだ。
「何もないではないか?」
「ええそうですね。それではヴァルキリーを解除いたしますので・・・・」
シャルロッテは皆の注目が集まる中、ヴァルキリーの装着を解除する。
ドシーン!!!
「何事だ!?」
だが皆がシャルロッテに注目する最中、ロヴォイワヨン伯爵の後ろで、ものすごい音がしたのだ。
「貴様はギーハテケナのフロランス!!」
「お見知りおきくださって光栄ですわ」
フロランスはアンナを人質にとっていた騎士を倒し、すでにアンナを救出していた。
「なぜ急にここへ!? これだけの者が周囲を見張っていたというのに!?」
「それを貴方に教える程わたくしはお人好しではありませんの。それでは失礼いたします」
フロランスは綺麗なカーテシーをすると、アンナを連れて、素早くシャルロッテの場所へと飛び去った。
実はフロランスは先ほどまで上空にいたのだ。
空高く舞い上がり、彼らの真上から真下を覗き見ていたのだ。
ヴァルキリーには上空で停止する能力と、望遠鏡のように、遠方を見据える機能があるのだ。
それによってフロランスは、アンナの居場所を上空から、正確に掴むことが出来たのだ。
そしてそこにいる誰もが、まさか真上から襲撃を受けることなど、考えてもいなかった。
「この後はどうします? 正直この人数を倒す程魔力は残っていませんわよ?」
ヴァルキリーが上空で留まるには、それなりに魔力を消費するのだ。
当然フロランスのヴァルキリーも、すでに魔力が心もとない状態となっていた。
「それは考えていませんでしたわね。なんとかあの二人の伯爵だけでも攫って逃げましょうか?」
「それには及びませんよ」
フロランスとシャルロッテがこの先のことを話し合っていると、再び軍勢を引き連れて何者かが現れた。
「「レーティシア姫!!」」
二人の前に現れたのは、スレイプニールに跨ったレーティシア姫と、彼女が引きつれた騎士団であった。
「レッドナイツ家の名に傷をつけた者どもを捉えよ!!」
「「はっ!」」
その中にはレッドナイツ家の当主、クレティアン・ド・ラングラン・レッドナイツ侯爵の姿もあった。
そのことからこの陰謀には、レッドナイツは加担しておらず、伯爵二家の独断であることが窺えた。
こうしてロヴォイワヨン伯爵とバドカワード伯爵は私兵とともに、瞬く間に無力化されていった。
「わたくしたちはこの後、ヨッシー様を救出に向かいたいと思います!」
シャルロッテはフロランスとともに、レーティシア姫の前にかしずくと、そう進言した。
「それには及びません。きっと聖国から吉報がもたらされることでしょう・・・・」
「それはいったいどういう・・・?」
シャルロッテとフロランスには、レーティシア姫の言っている意味はわからなかったが、そのことからヨッシーには、何か策があるのだと考えた。
こうして使用人のアンナは無事に救い出され、陰謀に加担した二人の伯爵は、罪人として連行されたのであった。
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