01:クアリーの街
街の前にやってきたオレとコロンは、街の関所の順番の列に並んだ。
列に並ぶ人々を見ると、ごっつい冒険者や、旅人、馬に荷台を引かせた商人など、様々な人々が並んでいた。
「いつもこんなに人が並ぶの?」
「いや。前に来た時はもっと少なかったと思うぞ」
コロンの言葉から、今日は多めに人が並んでいることが分かった。
何か事件でもあったのではと勘繰りたくなるが、たまたま並ぶのが多い時間帯なのかもしれない。
今は夕方前だし、帰路につく人が多いのだろう。
「君たちは冒険者見習いなのかな? 二人だけでこんな場所にいるなんて、あまり感心しないな? 誰か大人の付き添いはいないのかい?」
オレたちに話しかけて来たのは、人が好さそうな顔をした、商人のおじさんだった。
きょろきょろと周囲を見ながら、オレたちの付き添いの大人とやらを探しているようだ。
すぐ後ろに並んでいたようで、そこには商品を沢山積んだ荷台と、その荷台に乗る使用人らしき少年。
護衛らしき屈強な男が二人いた。
「大人はいません。この街へはこの娘と一緒にやって来ました」
コロンは警戒するように、商人の男を見ているようで、いまだに口を開く様子もない。
「え? 君たちは外からこの街に来たのかい? 二人だけで?」
「はい。しばらく洞窟に住んでいたんですけど、食料の問題などが出てきて、街へやって来たんです」
オレたちは肉と木の実だけの生活に見切りをつけ、街にそれ以外の食料を求めて来たのだ。
「それはずいぶんと苦労したんだね・・・」
何を勘違いしたのか、商人はそう言った。
あの洞窟での生活は、それなりに快適だったと思う。
お風呂に入れないのは少し不便に感じたけど、付近の川で水浴びは出来たし、あのビッグボアを除いては、たいした魔物もいなかった。
まあ確かにあのスマホが無ければ、色々と苦労した可能性はあるが。
「あ! そうだ! 日本のコーラがあるんですけど買いません? オレたちお金が少しでも入用なんですよ!」
コーラといえば世界でも有名な飲み物だったはずだ。
そう思ってオレはいくつか鞄にいれておいたコーラを、一本だけ出して、商人のおじさんに見せた。
人の好さそうなおじさんだし、高く買ってくれると思ったのだ。
「黒いね? コーラとはいったいなんだい?」
すると商人のおじさんは、困惑したような表情になった。
あれ? もしかしてコーラじゃ通じないのかな? ここは日本ではないようだから、他の言い方でもあるのか?
「んく! んく! んく! ぷは~! 生き返る!!」
少しぬるくなっているが、この甘さで疲れが吹き飛んだような気分になる。
オレはそれが飲み物であることをアピールするために、目の前でコーラの蓋を開けて、飲んで見せた。
「じゃあ新しいのをどうぞ」
オレの飲みかけだと悪いので、商人のおじさんにもう一本出して渡した。
「えっと・・・お代はいくらだい?」
オレからコーラを受け取ると、商人のおじさんは代金を尋ねてきた。
「すいません。日本のコーラはあまり高くないんですが、色を付けていただけると助かります」
このコーラはせいぜい一本83円ってとこだ。
それに若干ぬるくなって味も落ちているはずだ。
孤児への寄付のつもりで、高く買ってくれると嬉しい。
「ひねると簡単に開いた・・・凄いな。それにこの入れ物は透明なのに軽くて持ち運びによさそうだね?」
いやいや・・・日本のペットボトルに感心していないで飲んでくれよ。
「どれ・・・それじゃあ一口・・・んく! んく! んく!・・・・ぷは~~!!」
商人のおじさんは、初めは恐る恐る口を付けていたが、少し飲むと、コーラをいっきに喉に流し込んだ。
一口じゃないじゃん。ずいぶんと喉が渇いていたんだね?
「君! これ・・・」
「次の者! 早く来い!」
商人のおじさんが何か言いかけると、どうやら次は、オレたちの順番が回って来たようだ。
「では順番のようですから先に行きます」
「待つんだ君たち! 街の関所を通るには通行税がかかるよ! お金は持っているのかい!?」
商人のおじさんは行こうとするオレたちに、そう呼びかけて来た。
あ・・・お金・・・ない・・・
「魔石で払うから問題ない!」
するとコロンがどこで手に入れたのか、赤く透き通った石を掲げてそう言った。
どうやら通行税は、コロンが支払ってくれるようだ。
「魔石なら二人で4個だ!」
コロンは魔石4個を衛兵に手渡した。
「魔族の子供か? まあいいだろう・・・通れ!」
え? 関所ってこれだけ? もっと色々持ち物検査とかあると思っていたんだけど・・・・。
「あまり衛兵を見ていると怪しまれるぞ?」
オレがそんな衛兵を、じろじろと見ながら通り過ぎようとすると、コロンから注意が飛んできた。
街の関所を抜けると、大通りらしき場所に出た。
街の中は古ぼけた木やレンガの建物ばかりだ。
車どころか行きかうのは馬車ばかりだ。
やはりここはどこか知らない発展途上国の田舎だろうか?
それとも本当に異世界なのか?
「君たち! 待ってくれ!」
関所を抜けた先で街の様子を見ていると、先ほどの商人のおじさんが声をかけて来た。
「これは先ほどの飲み物の代金だ」
そう言うと商人のおじさんは、オレに大きな銀色の硬貨を二枚差し出してきた。
その硬貨は500円玉より一回りくらい大きいかな? いったいどれくらいの価値があるのだろう?
「コロン。この硬貨何?」
オレはコロンにその硬貨を二枚重ねて掲げて見せた。
「それ大銀貨じゃないか!!」
大銀貨? ということはこれは銀か? 銀貨なんて初めて見たよ。
銀の価値は大体1グラムで100円だったか? この二枚はけっこうずしっとくる。
すると数千円はするかもしれない。
「ははは! あまりお金を見せびらかすものじゃないよ。私はあの商業ギルドの者だ。何か困ったときは訪ねてくるといい。それじゃあ・・・」
そういうと商人のおじさんは、荷馬車と護衛を引き連れて、大きなレンガの建物に向かって行った。
「アンブラー商会か・・・ここらの商売を取り仕切っている商業ギルドだな」
「ねえコロ~ン! このお金どうするの!?」
「あ! 馬鹿大金だぞ! 隠せ!」
コロンはそう言うと、オレから取り上げた大銀貨を、オレの背中の鞄に抱え込んだ。
「あと街ではその鞄は、お腹に抱えてろ」
「え? 何で?」
「盗まれるからだ!」
なるほど。治安があまり良くないんだな?
オレは鞄を前に持って来ると、お腹に背負い込んだ。
「これからどこに行くんだ?」
「冒険者ギルドだ。あそこにはお世話になったおっさんがいるんだ」
冒険者ギルドとかあるのか・・・前世では存在しなかったその組織の名を聞き、今まで半信半疑だったが、オレはここが異世界なのではないかと、ますます思えてきたのだった。
そして冒険者ギルドを目指す途中、コロンにこの国のお金について色々と聞いた。
コロンの話からすると、大体お金の価値は、以下のような感じになるのではないだろうか?
小銅貨 10円
銅貨 100円
大銅貨 500円
小銀貨 100円
銀貨 1000円
大銀貨 5000円
小金貨 10000円
金貨 50000円
大金貨 100000円
白金貨 1000000円
若干誤差もあるかもしれないが、それは追々調整していくとしよう。
「ちなみにこの街の名前は何?」
「確かクアリーとかいう名前だ」
なるほど。ここはクアリーの街というのか。
あちこちに中世風の古ぼけた建物や、活気のある市場もあるから、そのうちに見て回るのもいいかもしれない。
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