31:揺れる馬車
オレが異端審問官に連行されて数時間後。
オレとコロンとユースたんを乗せた馬車は、ジュノマ聖国を目指していると思われる。
相変わらず馬車はガタガタと揺れて、最悪の乗り心地だ。
荷車の中に見張りの異端審問官が、誰一人いないのがお粗末に感じだ。
魔女と称される者と同じ空間には、一緒にいたくないのだろう。
だが逆に視線の重圧がないのは救いだ。
「ばぶばぶ!」
そんな最中ユースたんが、何かを伝えるようにばぶばぶ言った。
「みるく?」
ユースたんはどこからか持って来たであろう板に、ミルクと拙い字で書いていたのだ。
どうやらユースたんは、お腹を空かせてしまったようだ。
だがミルクの持ち合わせはないし、オレは魔封じの手枷をはめられている。
だがあのスマホなら、こんな状態でも動くかもしれない。
オレのスマホは魔法とは違うし、もしもということもある。
とりあえずポケットの中のスマホを取り出し、確認だけでもしてみる。
オレのスマホはギフト・アーティファクトなので、取り上げられることはない。
取り上げられても、意思を持っているかのように、オレの右腕か、ポケットの中に戻るのだ。
ポト!
「あ・・・買えた・・・」
どうやらオレのスマホで、ミルクは買えるようだ。
お湯も出せないか、パーティクルを使った命令式を使い試してみる。
パーティクルは以前スマホで撮影したお湯の画像で、素材として命令式に組み込めば、スマホの充電残量が続く限り、お湯を出すことが出来るのだ。
ちなみにお湯はパーティクル化出来ても、赤ん坊のミルクは残念ながら、パーティクル化できなかったよ。
チョロチョロ・・・・
「お湯も出せるな・・・・」
つまりこれはスマホを使った魔法であれば、オレには使用できるということにもなる。
おそらく黒金を起動することも、できるのだろう。
「これ・・・黒金を使って暴れれば、脱出できるのでは?」
オレが黒金を起動すれば、この馬車の周囲を囲んでいるであろう異端審問官など、おそらく敵ではないだろう。
「やめとけ! それじゃあお尋ね者になっちまうぞ!」
確かにこのまま逃げ出せば、指名手配犯に、仕立て上げられてしまう可能性はある。
それでは親しくなったシャルちゃんやフランちゃんに、二度と会えなくなる可能性もある。
そんなのは御免だ。
「それじゃあどうするんだよ?」
「時期を待て・・・・。必ずチャンスはある」
オレにはコロンが何を考えているかわからないが、こちらを見つめているユースたんの様子から、どうやら二人が何か企んでいるような気がした。
まあ聞いても答えてくれそうにないし、とりあえずユースたんのミルクを、作ることにする。
ガタン! ガタン!
だがこの揺れる馬車の中で、ミルクを作ることは難しそうだ。
「あの~! すみません! 赤ん坊のミルクを作りたいので、少し馬車を止めていただけないでしょうか?」
「黙れ! そんなことで馬車は止められん!」
すると乱暴な声で、外からそう返ってきた。
「赤ちゃんがお腹を空かせているんですよ! 少しぐらい馬車を止めたって・・・・!」
「この! 口答えするか!?」
ヒヒヒヒン!
すると馬車が止まった。
ガラガラ!!
そして鞭を持った異端審問官が、オレたちのいる荷車の中に入ってきた。
「この魔女が!!」
「むひっ!」
異端審問官は鞭を振り上げ、オレ目掛けて振り下ろしてきたのだ。
バシンッ!!
「コロン!!」
だがその鞭を受けたのはコロンだった。
即座にコロンがオレの身をかばい、前に出てきたのだ。
「ワタシにそんな紐が通用するか!」
そして鞭に打たれながらも、強気にそう言い切ったのだ。
「この知れ者が!!」
バシン! バシ~ン!
その後も何度も鞭に打たれるコロンを、オレは直視することが出来なかった。
「はあはあ・・・! これくらいで勘弁してやろう!」
「ああそうしろ・・・」
どうやらコロンへの制裁は終わったようだ。
「コロン・・・・オレのためにごめん・・・・」
オレはそれでも平気なように振舞い、横にどかりと座り込むコロンに謝罪する。
そしてコロンの傷の具合を確認した。
身体強化を使えない状態で、あれ程の鞭を受けたのだ。
きっとあちこちミミズ腫れや出血で、大変なことになっているだろう。
そう思いつつちらりとコロンを見ると、なんと傷一つなかったのだ。
いったいこれはどういうことだろうか?
「コロンお前もしかして・・・・」
「あん?」
コロンは丈夫なのが取り柄だ。
だが素の状態で、鞭が効かないほど、タフだということがあり得るだろうか?
前世で板に打たれて、板の方が折れるという、空手家のパフォーマンスは目にしたことがあるが、そんな空手家なら、鞭で打たれても平気なのだろうか?
何が何でも素の状態が、丈夫すぎるのではないだろうか?
オレはそんなコロンを、疑いの目で見た。
そして床でばぶばぶ言っている、ユースたんにも疑いの目を向ける。
するとユースたんは、にやりと笑顔で返してきやがった。
いったいユースたんは、何を考えているのだろうか?
オレはしばらくこの二人の茶番に、付き合うことにした。
それから一週間は、この馬車の中で過ごした。
ユースたんのおしめを変えたり、ミルクを作ったりと、色々と大変な数日だった。
ご飯は硬い黒パンと水しか出なかった。
だがこっそり通販ショップで買った物を、コロンと隠れて食べたりはしていた。
体は濡れタオルで拭くことができたが、お風呂に入れないのがなんとも気持ち悪い。
「お前たち降りろ!!」
そんなことをしているうちに、馬車が目的地にたどり着いたようだ。
外へ出るとそこは、巨大な神殿が建造された、広い庭の中だった。
そうやらここはジュノマ聖国の、ジェノマ教総本山、大神殿前のようだ。
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