表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/180

31:揺れる馬車

 オレが異端審問官に連行されて数時間後。

 オレとコロンとユースたんを乗せた馬車は、ジュノマ聖国を目指していると思われる。


 相変わらず馬車はガタガタと揺れて、最悪の乗り心地だ。


 荷車の中に見張りの異端審問官が、誰一人いないのがお粗末に感じだ。

 魔女と称される者と同じ空間には、一緒にいたくないのだろう。


 だが逆に視線の重圧がないのは救いだ。



「ばぶばぶ!」



 そんな最中ユースたんが、何かを伝えるようにばぶばぶ言った。



「みるく?」



 ユースたんはどこからか持って来たであろう板に、ミルクと拙い字で書いていたのだ。

 どうやらユースたんは、お腹を空かせてしまったようだ。


 だがミルクの持ち合わせはないし、オレは魔封じの手枷をはめられている。


 だがあのスマホなら、こんな状態でも動くかもしれない。

 オレのスマホは魔法とは違うし、もしもということもある。


 とりあえずポケットの中のスマホを取り出し、確認だけでもしてみる。

 オレのスマホはギフト・アーティファクトなので、取り上げられることはない。


 取り上げられても、意思を持っているかのように、オレの右腕か、ポケットの中に戻るのだ。



 ポト!

 

「あ・・・買えた・・・」



 どうやらオレのスマホで、ミルクは買えるようだ。

 お湯も出せないか、パーティクルを使った命令式を使い試してみる。

 パーティクルは以前スマホで撮影したお湯の画像で、素材として命令式に組み込めば、スマホの充電残量が続く限り、お湯を出すことが出来るのだ。


 ちなみにお湯はパーティクル化出来ても、赤ん坊のミルクは残念ながら、パーティクル化できなかったよ。



 チョロチョロ・・・・


「お湯も出せるな・・・・」



 つまりこれはスマホを使った魔法であれば、オレには使用できるということにもなる。

 おそらく黒金を起動することも、できるのだろう。



「これ・・・黒金を使って暴れれば、脱出できるのでは?」



 オレが黒金を起動すれば、この馬車の周囲を囲んでいるであろう異端審問官など、おそらく敵ではないだろう。



「やめとけ! それじゃあお尋ね者になっちまうぞ!」



 確かにこのまま逃げ出せば、指名手配犯に、仕立て上げられてしまう可能性はある。

 それでは親しくなったシャルちゃんやフランちゃんに、二度と会えなくなる可能性もある。

 そんなのは御免だ。



「それじゃあどうするんだよ?」


「時期を待て・・・・。必ずチャンスはある」



 オレにはコロンが何を考えているかわからないが、こちらを見つめているユースたんの様子から、どうやら二人が何か企んでいるような気がした。


 まあ聞いても答えてくれそうにないし、とりあえずユースたんのミルクを、作ることにする。



 ガタン! ガタン!



 だがこの揺れる馬車の中で、ミルクを作ることは難しそうだ。



「あの~! すみません! 赤ん坊のミルクを作りたいので、少し馬車を止めていただけないでしょうか?」


「黙れ! そんなことで馬車は止められん!」



 すると乱暴な声で、外からそう返ってきた。



「赤ちゃんがお腹を空かせているんですよ! 少しぐらい馬車を止めたって・・・・!」


「この! 口答えするか!?」


 ヒヒヒヒン!



 すると馬車が止まった。



 ガラガラ!!



 そして鞭を持った異端審問官が、オレたちのいる荷車の中に入ってきた。



「この魔女が!!」


「むひっ!」



 異端審問官は鞭を振り上げ、オレ目掛けて振り下ろしてきたのだ。



 バシンッ!!


「コロン!!」



 だがその鞭を受けたのはコロンだった。

 即座にコロンがオレの身をかばい、前に出てきたのだ。



「ワタシにそんな紐が通用するか!」



 そして鞭に打たれながらも、強気にそう言い切ったのだ。



「この知れ者が!!」


 バシン! バシ~ン!



 その後も何度も鞭に打たれるコロンを、オレは直視することが出来なかった。



「はあはあ・・・! これくらいで勘弁してやろう!」


「ああそうしろ・・・」



 どうやらコロンへの制裁は終わったようだ。



「コロン・・・・オレのためにごめん・・・・」



 オレはそれでも平気なように振舞い、横にどかりと座り込むコロンに謝罪する。

 そしてコロンの傷の具合を確認した。

 身体強化を使えない状態で、あれ程の鞭を受けたのだ。

 きっとあちこちミミズ腫れや出血で、大変なことになっているだろう。


 そう思いつつちらりとコロンを見ると、なんと傷一つなかったのだ。

 いったいこれはどういうことだろうか?



「コロンお前もしかして・・・・」


「あん?」



 コロンは丈夫なのが取り柄だ。

 だが素の状態で、鞭が効かないほど、タフだということがあり得るだろうか?


 前世で板に打たれて、板の方が折れるという、空手家のパフォーマンスは目にしたことがあるが、そんな空手家なら、鞭で打たれても平気なのだろうか?


 何が何でも素の状態が、丈夫すぎるのではないだろうか?


 オレはそんなコロンを、疑いの目で見た。


 そして床でばぶばぶ言っている、ユースたんにも疑いの目を向ける。


 するとユースたんは、にやりと笑顔で返してきやがった。


 いったいユースたんは、何を考えているのだろうか?


 オレはしばらくこの二人の茶番に、付き合うことにした。


 それから一週間は、この馬車の中で過ごした。


 ユースたんのおしめを変えたり、ミルクを作ったりと、色々と大変な数日だった。

 ご飯は硬い黒パンと水しか出なかった。


 だがこっそり通販ショップで買った物を、コロンと隠れて食べたりはしていた。


 体は濡れタオルで拭くことができたが、お風呂に入れないのがなんとも気持ち悪い。



「お前たち降りろ!!」



 そんなことをしているうちに、馬車が目的地にたどり着いたようだ。


 外へ出るとそこは、巨大な神殿が建造された、広い庭の中だった。

 そうやらここはジュノマ聖国の、ジェノマ教総本山、大神殿前のようだ。


 お読みくださりありがとうございます。


 面白い!

 また読みたい!


 と感じた方はぜひ・・・・


 《ブックマーク》 と


 評価★★★★★を

 

 お願いします。

 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます。

 感想、レビューもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ