29:ベルナルダン枢機卿
「ははは! これはつれませんなユースティティア様!?」
なんとベルナルダン枢機卿の、面会の取次ぎを知らせる使用人のおばさんの後ろから、強引にユースたんの部屋に立ち入ろうとする、頭を丸めた偉そうなおじさんがいたのだ。
そのおじさんはニヤニヤと、下卑た笑みを浮かべていてとても嫌な感じだ。
現在オレとユースたんは、完成させた発電の魔道具を使い、アニメ視聴をしていたのだ。
そのアニメの内容が、最後に差し掛かるころ、そのおじさんは現れた。
「この間わたくちのことを連れ去ろうとしておいて、よくもまあこの場に顔をみちぇられたものね! ベルナルダン枢機卿!」
どうやら部屋の入り口にいる、頭を丸めた感じの悪いおじさんが、面会を求めてやって来た、ベルナルダン枢機卿のようだ。
ユースたんは浮遊すると、ご立腹な様子でそのおじさん、ベルナルダン枢機卿に詰め寄る。
ユースたんが攫われそうになったなんて話は初耳だ。
いったいそれはどういうことなのだろうか?
「攫うなんて人聞きの悪い・・・・。私は貴女様を、教会にお連れしようと思っただけですのに・・・・」
ベルナルダン枢機卿は、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、そう言葉を返した。
「ちょのまま聖国にでも連れて行くつもりだったのでちょう?」
「滅相もございません・・・・」
なにやら白々しい態度で、そう答えるベルナルダン枢機卿は、とても胡散臭く見える。
「おお! そちらが噂の女神ユースティティアの娘・・・ヨーレシア様ですな!?」
オレがベルナルダン枢機卿を見ていると、今度はオレに話しかけてきやがった。
「てい!」
ピシッ!
「え?」
ユースたんがオレに二本指を向けると、オレの頭に泡のようなシールドが装着された。
「えっと・・・? ユースたんこれは?」
「ベルナルダン枢機卿は洗脳魔法の使い手でちゅ! 洗脳魔法に対抗できない貴女では、会話をすることすら危険なのでちゅ! そのシールドは洗脳魔法を弾くのでちゅ!」
なるほど。ユースたんはオレをベルナルダン枢機卿の洗脳魔法から守るために、このバブルのようなシールドを、オレの頭に装着させたようだ。
このベルナルダン枢機卿というおじさんは、思った以上に危険な人物のようだ。
「私が洗脳魔法を使ったなどという証拠がございますか? 私が洗脳魔法を使えれば、とっくに王族は聖国の言いなりになっているはずですよ?」
確かに王族がベルナルダン枢機卿に、洗脳された様子は見られない。
それどころか最近では聖国に疑念すら抱いている様子だ。
「この国の王族には洗脳魔法に対ちゅる対策がありゅのでちゅ! そう易々と洗脳など出来るはずはないでちょう!? それに貴方が王宮の者に施した洗脳は、全てわたくちが解いて回り待ちたので、わたくちを攫った時のように、貴方の思惑どおりにはもうなりまちぇんよ!」
どうやら洗脳魔法には対策なるものがあるようだ。
オレも後でユースたんに、教えてもらうとしよう。
しかしオレの知らない間に、王宮でユースたん誘拐事件が起きていたなんて・・・・。
オレにその内容が、知らされなかったのもちょっと残念だ。
だが腹芸の苦手なオレに、あえて知らせなかった可能性もあるな。
「いえいえ・・・・。今日は最後通告に参りました」
「最後通告でちゅって?」
ベルナルダン枢機卿の言う、最後通告とはいったい何のことだろうか?
「改めてたお尋ねします女神ユースティティア! 貴女様はルエパラ王国にではなく、女神ユースティティアへの信仰の熱い、貴女様御自身が教え導いた、ジュノマ聖国にこそあるべきなのですよ!」
ベルナルダン枢機卿は、ユースたんにそう強く進言した。
「以前も言いまちたが・・・・。わたくちはジュノマ聖国を教え導い記憶はありまちぇん。それにジュノマ聖国に、わたくちへの信仰を許した覚えもありまちぇんよ」
オレは学園の宗教学で習った知識では、ジェノマ教教祖が300年も昔に、女神ユースティティアの教えを受けたとなっていたはずだ。
ちなみに宗教学は、学術科に含まれており、生徒全員が習うはずの授業だ。
その事実が違うというのは、いったいどういうことなのだろうか?
まさかジュノマ聖国は、事実を隠蔽している・・・・?
「答えは変わりませんか・・・・。では強硬手段にと言いたいところですが・・・・」
ベルナルダン枢機卿が、ユースたんに向けて不穏な発言をしようとすると、ベルナルダン枢機卿はふわりと宙に浮いた。
そのベルナルダン枢機卿の襟首がのびていることから、何か見えない物に釣られているようにも見える。
「えっと・・・・。ユースたんあれはいったい?」
オレはその現象について、ユースたんに尋ねた。
「わたくちの見えざる手でちゅよ」
見えざる手? ユースたんには見えない巨大な腕でも、生えているというのだろうか?
つまりベルナルダン枢機卿は、ユースたんの見えざる手に吊られている状態なのだろう。
「魔力操作の一種でちゅよ。貴女にもその内、使えるようになるかもしれまちぇんね。さあ汚物はポイでちゅ!」
「これは手厳しいですな・・・・」
ユースたんはベルナルダン枢機卿を、見えざる手で摘まみ上げたまま、ふよふよと浮きながら、廊下の窓まで移動する。
そして自動で窓が開く。
どうやら目の前の窓を、ユースたんが見えざる手で開けたようだ。
「ちょっ・・・・! お待ちを・・・・・! ぬああああああ・・・・・!!」
続けてその窓から、ベルナルダン枢機卿を、ポイ捨てしてしまった。
ここは二階なのだが、ベルナルダン枢機卿は大丈夫なのだろうか?
オレがその窓から外を覗き見ると、どうやらベルナルダン枢機卿は、菜園にある木の上に落とされて無事のようだ。
気絶しているであろうベルナルダン枢機卿は、そのまま騎士に連行されていった。
それから数日後、オレが学園で魔術科の授業を受けていると、物々しい足音をさせながら、黒い鎧を着こんだ男たちが教室にやってきた。
その見た目はまるで、前世の歴史動画で見た十字軍のようだ。
この男たちはいったい何者なのだろうか?
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