27:シャルロッテの報告
第三者視点~
「シャルロッテよ。ホワイトナイツ卿との狩りはどうであった?」
シャルロッテは帰宅してしばらくして、エドワード侯爵家当主リュシアン・ド・エドワードの、執務室に呼び出されていた。
それはヨッシーに誘われて行った、訓練と称した狩りの報告である。
「色々と戸惑うことばかりでしたが、このペンダントのおかげで、無事に魔物を仕留めることができました」
そう言ってシャルロッテが、デスクの上に置いたのは、剣の形をしたペンダントだった。
「これが報告に聞いていたヴァルキリーか?」
「はい。それがあればわたくしのような非力な少女でも、魔物を圧倒できる戦力になります」
シャルロッテはその日の朝、ヨッシーの狩りに同行し、ヴァルキリーを装着することで、フォベロドンを1体だが、仕留めているのだ。
「これが報告にあった鎧になるのか? にわかには信用できんな。これはお前にしか扱えないのか?」
「はい。ヨッシー様によりますと魔力認証により人を判別し、わたくし以外には使用できない仕組みだそうです」
それを聞いたリュシアン侯爵は、少し考えた後に口を開いた。
「では今から庭に出て、そのヴァルキリーとやらを見せてくれ」
こうしてシャルロッテは、ヴァルキリーをリュシアン侯爵に、お披露目することになったのだ。
ドカ~ン! ガシャ~ン!
「あれは子供に渡して良い戦力ではないな・・・・」
リュシアン侯爵は遠い目をしながら、そう呟いた。
現在リュシアン侯爵の目の前では、ヴァルキリーを身にまとったシャルロッテが、複数配置された的を壊しながら、暴れ回っているのだ。
シャルロッテ本人は、暴れだすような性格の人物ではない。
しかも本人は暴れ回っているつもりもないだろう。
だが周囲からその様子をみれば、それは凄まじい程の暴れっぷりなのだ。
「私がついていながら・・・・申し訳ありません!」
シャルロッテの護衛であるフォセットは、そう言ってリュシアン侯爵に謝罪する。
現在ヴァルキリーを見物しているのは、リュシアン侯爵だけではない。
そこには多くの使用人や、護衛の騎士までもが、詰めかけてきているのだ。
この異世界の住民は、皆娯楽に飢えているのだ。
そんな彼らがこのようなエンターテインメントを、見逃すはずもなかった。
「だが我が娘シャルロッテを狙っているのが、国の最高戦力の一つに数えられるレッドナイツの可能性が高い今、あれくらいの強さでなければ、身を守れないのもわからなくはない」
国の守護者とよばれる程の戦力であるレッドナイツ家は、現在聖国と秘密裏に手を結び、国の財政を担うエドワード侯爵家を狙っているという噂があるのだ。
レッドナイツ家はシャルロッテを攫い、無理やり婚姻を結ばせる算段であると見られている。
そして先日シャルロッテが、レッドナイツ家の手の者と思われる集団に、襲われてからは、ますますその線が濃厚となった。
そのためエドワード侯爵家は、同じく国の最高戦力であるホワイトナイツであるヨッシーに助けを求め、それによって得た結果がヴァルキリーというわけだ。
「だがあれがもし機嫌を損ねた時に、暴れでもしたら、誰かあれを止められる者が当家におるのか?」
リュシアン侯爵は、現在の娘の様子を見て不安になり、フォセットにそう尋ねた。
「う~ん・・・・。現在の我々の戦力であれば・・・・難しいと思われます」
「ではあれを止める際には、ホワイトナイツ卿を呼び出すしかないということか?」
「いいえ。コロン殿ならいけるかと・・・・。それから同じヴァルキリーを所有するフロランス様であれば、なんとか止められるのではないでしょうか?」
フォセットは以前ヴァルキリーを装備したヨッシーが、コロンに敗北した話を聞いていたのだ。
それにフロランスの戦闘経験が、明らかにシャルロッテよりも上なのを知っていた。
「あと有事の際にとヨーレシア様から、こちらを預かっております」
「それは?」
「遠話の魔道具にございます。こちらがあればいつでもヨーレシア様と連絡がとれます」
フォセットは狩りの後、ヨッシーと別れる際に、リュシアン侯爵にと遠話の魔道具を預かっていた。
それはフォセットがヴァルキリー絡みで何かあった際に、相談する必要があるとヨッシーに進言し、預かった物であった。
「ほう? それは大変貴重な魔道具を・・・・。帰還した際の報告では提出しなかったが・・・それはなぜだ?」
「この様子を見てからの方が、リュシアン様も魔道具を受け取りやすいと思ったのです」
「む・・・・。確かにそれは言えておるな・・・・」
リュシアン侯爵は大変思慮深い人物であり、理由もなく高価な魔道具を受け取るようなことはないのだ。
そのためフォセットは、当初ヴァルキリーの存在に懐疑的だったリュシアン侯爵に、遠話の魔道具を預けることをためらったのだ。
「ではさっそくホワイトナイツ卿にお礼の言葉を送っておこう・・・・」
リュシアン侯爵は遠話の魔道具を手に取り、さっそくヨッシーに繋げ、礼の言葉を述べたのだった。
その際娘に厄介な兵器を渡したことを、遠回しになじるのを忘れなかったが、腹芸をいまだに不得意とするヨッシーには、その言葉もどこ吹く風であったという。
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