25:森での狩り
「それでは最初の獲物は、お手本としてコロンに狩ってもらいます」
「おう! まかせとけ!」
コロンは気合十分と言わんばかりに、自らの拳を打ち合わせた。
現在オレたちはヴァルキリーの実戦訓練のために、森の中に魔物狩りに来ている。
メンバーはヴァルキリーを着たシャルちゃんにフランちゃん、指導役のオレとコロン、護衛のフォセットさんとライザさんだ。
オレは今回は狩りには参加しないので、装備は浮遊シューズのみだ。
浮遊シューズは浮遊といっても、主に低空飛行で、あくまでオレの歩行速度の遅さを補うものだ。
コロン、ライザさん、フォセットさんは、当然戦うための装備で身を固めている。
使用人の方々は、現在野営地におり、オレのバリアドームの中で、安全に待機してもらっている。
彼女らは戦い専門ではないからね。
「フォベロドン2体発見!!」
するとフォベロドンという、巨大なネズミの魔物と遭遇する。
フォベロドンの大きさは体長1.5メートルもあり、噛みつき攻撃が得意だ。
まれに毒をもつ個体もおり、その牙には注意が必要だ。
「ワタシの出番だな!」
コロンはフォベロドンを見つけるや否や、槍を構えて疾風のごとく駆け、接近する。
ズシャ! ドバー!
「むぎぃぃぃ!」「びぃぃぃぃ!」
そして瞬く間に2体のフォベロドンを、串刺しにして倒してしまう。
「ひぃ!」
その様子をみていた、シャルちゃんから悲鳴が上がる。
彼女は狩りは初めてのようだ。
きっと魔物が目の前で命を刈られる姿を見るのも初めてなのだろう。
「フランちゃんは平気なんだね?」
「ええ。わたくしヨッシーさまの世話役になる前に、父より何度か狩りに連れ出され、こういった場面には慣れておりますの」
トムおじさんはフランちゃんをオレの世話役にする前に、狩りなども教えていたようだ。
まあトムおじさん自身も冒険者を自称していたし、娘にそういう教育をしていてもおかしくはないだろう。
だがあの可愛かったフランちゃんが、逞しく変わってしまうのは、なんとも複雑な気分だ。
一方シャルちゃんの実家であるエドワード侯爵家は、商業面でのし上がってきたせいか、血なまぐさいことは未経験のようだ。
まあこの異世界に来たばかりのオレも、鳥の死体ぐらいで怯えていたし、最初から彼女が狩りに慣れないのも無理はない。
「2体とも確実に、急所だけを貫いて一撃で倒しているね。これなら素材としても高く売れる」
やはりコロンの槍捌きは、見事という他ない。
無駄に多く傷を付けてしまうと、魔物の素材としての価値は、格段に下がるのだ。
そして最短の時間で倒すことで、無駄な体力も消費していない。
護衛のフォセットさんとライザさんも、息をのんで仕留められた2体のフォベロドンを見ている。
「じゃあ次はフランちゃんの番で・・・・」
「はい! お願いしますわ!」
フランちゃんが気合十分に返事をする。
次に獲物を仕留めるのは、フランちゃんの役目だ。
オレが2体のフォベロドンをスマホに収納すると、皆次の獲物を求めて森の探索を再開する。
「ブルルル・・・!」
すると今度はビッグボアが現れた。
それは体高2メートルを超える大物だ
「フラン様危険です! お下がりください! いくらなんでもビッグボアは危険すぎます!」
するとフランちゃんの護衛であるライザさんが、フランちゃんの前に割り込む。
「大丈夫ですライザ! このヴァルキリーがあれば、負ける気はしません!」
だがフランちゃんはそんなライザさんを押しのけ、再びビッグボアと対峙する。
シャルちゃんはそれを、不安そうな表情で見つめている。
「ブギィィィィィィ!」
そこでビッグボアがデスタックルを開始した。
「風の短剣・・・風の刃!!」
シャシャッ!
フランちゃんは突撃してくるビッグボアに対して、風の短剣を抜き放つ。
そして複数の風の刃を放ち応戦。
ダダン!!
だがその効果はあまり見られず、風の刃を受け傷つきながらも、お構いなしにビッグボアは突撃してくる。
そこでコロンが槍を身構え、いつでもビッグボアを止められるように警戒する。
「やっぱり風の刃の火力では倒し切れませんわね・・・・」
そう言うとフランちゃんは、今度は黒い棒を抜き放った。
黒い棒は抜き放つと、瞬時に破壊のランスへと変化するのだ。
「破壊のランス!! 破壊の光!!」
そして2メートルの破壊のランスを、ビッグボア目掛けて突き出したのだ。
ドシャア!!
「ブギャ・・・・!!」
すると破壊のランスは見事ビッグボアの額に命中した。
ズドド~ン!!
額に大穴をあけられたビッグボアは、横向きに倒れて絶命する。
「やりましたわヨッシー様!!」
その勝利にフランちゃんは、歓喜の声を上げる。
「やったねフランちゃん!」
「最初の風の刃は、牽制のつもりだったんだろうが、ああいったタフな相手には悪手だ」
「はい! 次はもっと頑張ります!」
コロンの言うように、風の刃は発動が早いが、丈夫な相手には効きづらいのが難点だ。
そこで破壊のランスに切り替えたのは、良い判断だったと思う。
「まあ見事あんな大物を仕留められたんだから、最初にしては上出来じゃないかな?」
オレはそう言って締めくくると、ビッグボアの死体をスマホに収納した。
「次はシャルちゃんの番ですね」
「は、はい! 頑張ります!」
そう言って返事をするシャルちゃんは、何やらぎこちない様子だ。
彼女にとっては、これが初めての狩りとなるようなので、緊張しているようだ。
するとさっそくフォベロドンが現れた。
「シャルロッテ様! フォベロドンです!」
「ひゃ! ひゃい!」
フォセットさんがフォベロドンを指さして知らせると、シャルちゃんは焦った様子で答える。
フォベロドンは3体いて、すでにその全てがこちらを向き、臨戦態勢をとっている。
だがシャルちゃんはフォベロドンを目の前にして、震えるばかりで、いっこうに動き出す様子はない。
「仕方ない! ワタシが2体相手にする! 1体はやれるな!?」
見かねたコロンが前に出て、フォベロドン2体に接近する。
「は、はい! やってみます!」
ようやく動き出したシャルちゃんは、遠距離からの攻撃をするつもりか、風の短剣を抜き放った。
「ぴぎぃぃ!!」
そんなシャルちゃんに、フォベロドン1体が襲い掛かる。
「きゃあああ! 来ないで!」
シャシャシャ! ババババ!
シャルちゃんはそんなフォベロドンに対して、無数の風の刃をがむしゃらに飛ばして、なんとか応戦したようだ。
「ぴぎきぃぃ~!!」
そしてなんとかフォベロドンを倒したようだ。
「あらら・・・・」
だが無残フォベロドンは、切り傷だらけとなってしまう。
あれではもう売り物にはならないだろう。
「も、申し訳ありませんヨッシー様! わたくしにはもういっぱいいっぱいで・・・・」
オレがシャルちゃんが仕留めた獲物を見て、残念そうな顔をすると、シャルちゃんはそう謝罪をしてきた。
「仕方ないですよ。初めてなんだし・・・・」
「まあ・・・・。シャルはもう少し狩りに慣れるべきだな」
いつのまにやらフォベロドン2体を倒していたコロンが、シャルちゃんにそう告げる。
「は、はい! 次こそは頑張ります!」
まあ侯爵令嬢のシャルちゃんが、そう頻繁に狩りに行かせてもらえるかどうかは、わからないがな。
「は~・・・・。わたくし今後お食事にお肉が出たら、食べられるかしら?」
シャルちゃんは無残に切り刻まれた、フォベロドンの死体を見ながらそう言った。
まあ慣れない狩や解体の後は、肉が食べにくいのもわかる気がする。
オレは必死だったせいか、初めての獲物の時は、思ったよりも平気だった記憶がある。
あの時はコロンが怪我をして大変だったな。
あの後食べたビッグボアの肉は、少し硬かったが美味かったのを思い出す。
「では本日の訓練はここまでにしましょう。この後は野営地に戻り、昼食にいたします」
「待ってました! 今回はヨッシーが特別な料理を用意してくれているからな! 食べないと損だ!」
「そ、そうなんですのね? なら頑張って食べないと・・・・」
そんなわけで、シャルちゃんの初狩りも無事になんとか終了し、ヴァルキリーを使っての訓練は終了を迎えた。
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